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鳥姫の恋  作者: 黒龍藤
4/4

情の羽を広げて、恋を歌えり



 「…ふぁ」


 天井を見上げ、夢を反芻する。


 時間がないと焦る私は心の赴くままに飛翔して、人目を憚る事なく衣の裾を翻し、西の場に降り立った。着地と同時に流した力は輝きを放ち、直後に立ち上る光に包まれ  私は光に溶け込み、消えていった。

 

 「…ふっ、手順も何もないわね。そんな風にできるのだったら誰も苦労なんてしないわよ」


 願望が詰まり過ぎてる、夢。

 あまりの都合の良さに妬ましくもみっともないので、「そうありたいのにー」と小さく泣き言を零して終わりにする。


 身を起こして玉の光を確認し、大きく安堵の息を吐く。ぐうっと伸びをして、今日の勝負に気合を入れる。


 私は殿下の元に飛ぶの。


 



 「お早うございます」


 ちょっと、ドキドキ。

 雰囲気を変えて行くのが良いのでは?と気が付いて、宿の方にお話したら「では、可愛らしくしましょう」と流行りの髪型とやらにしてくれた。垂らした髪を二つ分けにして鎖骨の所で結ぶだけだが、ゆるりと言うか、やんわりと言うか… いえ、ふんわり? 纏めてから乱すように引き出して、膨らみを持たせた髪を花飾りの紐で括った私は… 別人ではないけど、何か違う人に見える。


 第一感想は、『舞に不向きね』なんだもの。結って貰った手前、口にはしないけど… 何か変な感じ。


 あ、これで良いのか…


 「お嬢様、とってもお似合いですよ」


 えっ? そうなると普段の私が駄目なのでは!? 魅力なしで可愛くないになるのでは!?





 「これはまた雰囲気が… 素敵ですよ」


 挨拶の後の間が空いたのでビクビクしてた。一転、やったあ!と気分が良くなる。


 約束の時間よりも先に来て下されて、申し訳ない事。馬車も良いが急ぐなら馬だと連れて来られた鹿毛の子は、大き過ぎず可愛らしい目をしていた。


 「目立つ馬はと思いまして、後こちらもどうぞ」


 陽射し避けにと薄紅色の薄布を差し出して下された。色合いに透ける柄。好みの感じにときめく一方、戸惑いと躊躇いも生じる。微笑まれるのに無下にするのも悪い気がして礼を言って受け取り、顔を隠すように被衣にしてみる。


 鏡はないけど… なんとなく、なんとなく〜〜 良い感じでは。


 「お似合いです」

 「…そうですか?」


 「はい、透き通る青さに薄紅が映え…  とても、お綺麗です」


 少し照れた感じで言われると私の方も何か照れる。妙に気恥ずかしい。妙に嬉しい! 照れ隠しに微笑み返して鹿毛の子に目を移し、「今日はよろしくね」とその場を誤魔化す。いえ、纏める。


 馬に断るも、一人で乗れずに手を借りた。

 横座りで出発です。



 

 立ち寄る場所があるので希望を伝える。


 「正確な場所が必要で?」

 「いいえ、正確には見えれば良いのです」


 道すがら、宮城が見える場所に行く。理由は他の鳥姫達の動向と、本当に横断もしくは縦断したかの確認だ。後で日時と答え合わせが待っている。


 「恐れ入ります、少しの間だけ余所見をしていてくださいな」

 「は? はい」

 

 素早く遠見の目を作り、指定された窓の奥を覗き見る。


 「…っ! な、なんて こ、と!」

 「どうされました!?」


 息を飲んだ私の目には、壁に成功を示す赤の飾りが見えた。赤の方が既に到着し、偽りなしと認められている!! その事実は私を打ちのめしたが、もっと重大なのは赤の飾りしかなかった事だ!



 解術ができない。


 それは信念や殿下に対する愛情が足りない事になり… 現段階で成功者が一人と言う事は… いえ、術の発動はお勤めを終えてからであり、お勤めが終わってないと始まらないのであって… 試験内容に多少の違いはあれど難易度は同じで… でも、違うから終わりが一緒になる事もなく…  でもでも、儀は夏の終わりまで。違いに余裕をとっての事だから、それ以降は能力足らずで終了と。


 え、待って? まだまだ暑いけど… 夏の盛りも半ば過ぎてるわよね? え、私が失敗したら成功者は一人とか? え? ええっ!?


 「い、い、急ぎましょう!!」

 「…は! どうぞ、お掴まりを!」


 落とされないよう、腕を回してしがみ付く。


 殿下が… 私のお慕いする殿下が! 実は人気がないなんて、そんな事が許されるものですか!! ええ、ええ、許され難いお話です! 候補が一人しか残らなかった? そんな… そんな恥を殿下に…  私の殿下に与えてなるものか! 絶対に、そんな事態は許さない!!


 馬の振動よりも心に刺さる震動の方が酷いのですわ!!




 「あ… 」

 「触れます」


 辿り着いたは良いが体が固まって動けず、降ろして頂く。「ほぅ… 」と座り込めば、水筒が出される。そろそろと腕を伸ばして受け取り、コクリと飲めば体が楽。


 「落ち着かれましたか?」

 「は… ぃ」


 顔をあげれば、間近にある顔に… 近過ぎるお顔に…  硬直する。この方の腕の中に居て、自ら腕を回してこの胸に身を預けていたのだと思うと…


 「どうか?」


 黒い目、黒い髪。


 殿下とは違う…  ちが、う…  腕の中に、私から? あら? あら?? え、だって 私、 きゃ…  きゃーーーーーーーーーーーっ!??



 咄嗟に目を逸らして顔を片手で覆ったけれど、真っ赤になってしまったのは見られました。意識するなんて、ごめんなさい。




 「はい、大丈夫です。お恥ずかしい。それと… この先ですが」


 小さな声で謝罪した。

 変な心配をさせてしまった事が情けない。


 「ええ、わかっています。此処でお別れですね」

 「はい」


 此処から先へは一緒に行けない。その事を含めて頭を下げる。使い捨てる感じが殊更してきて申し訳ない。そして何故か名残惜しい感じがする。


 「…御心に重荷となるのでしたら」


 今回の記念にと髪飾りを望まれたが、これは貰い物なので思い入れも何もない。次に見ても思い出せない可能性が高い。元はと言えば双子の物。私の物となったが私の物ではない物で私を思い出されると考えると何やら心が騒めく。返事ができなくて、まごつく。お顔が陰るのに、もっとまごつく!


 「あ、あの!」


 馬鹿正直に言ってしまえば、「では、代わりに」と名を望まれた。


 躊躇いと込み上げる何かと。

 信頼を寄せる証の行為に、お兄様のお顔がごちゃ混ぜになったら。変に早鐘を打つ心が勝手に許可を出していた。


 そっと名前を呼ばれると、ほんのりと気恥ずかしい。 …こんな自分が不思議、どうしてこんな感じになるのか不思議。男の方と話す機会は普通にあるのに。


 でも、こうしては要られないのよ! 



 断ち切る思いで「さよなら」を告げ、はっ!と思い出す。返し忘れてた。


 「いえ、それはお持ち下さい」

 「いえ、それは」


 …いえいえとしあった末に頂いてしまった。返そうとして触れた指先に心臓が跳ねた。私、どうしたのかしら? おかしいのかも?? え、顔が熱い??



 「どうか?」


 家人が出てきた。

 その表情が何か変ですが、そうでした。


 馬で乗り付け、家の前でごちゃごちゃしてたら見にきますよね。ああ、これも恥ずかしい。気恥ずかしさにぐるぐるして対応が遅れたら、「主人に取次を」と私がすべき説明をして下されたのも恥ずかしい! 冷静な私、どこいった!?


 今度こそ別れる。

 背を向け、門を潜り、家人に付いていくが… なんとなく、そうなんとなく振り向くと目が合った。


 馬の隣に立たれる姿、黒の眼差し。


 薄紅に触れ、小さく微笑んだ。




 家の主人に名を告げ、証の玉を見せ、許可を貰った所で「手荷物はお預かり」と言われた。


 「え?」

 「選定の儀で持ち込みは認められません」


 聖殿回りで戻して下さるそうで、これを疑ってもと納得して預ける。手にした薄紅をどうしようかと迷うも不要と邪魔と大事と綺麗が順番に重なったので、これも預ける事にした。


 手提げに入れる際、心の片隅で安堵したような… よくわからない気持ちが掠めた。何の安堵でどちらに向けたものかもわからないそれは、主人の声で霧散した。



 「さ、こちらへ」


 家の奥方様に誘われ、別室に行くと身を改められる事に。なぜ私が?と思ったのですが、「万が一があってはならぬのです」と強い口調で言われると…  でも、私は鳥姫です。初めから刃物を隠し持つなどあり得ません。その点が不満で納得できず抗議をしたくなるのです。


 ですが、口頭ではお話にならなくて。視線でもならなくて。


 悲しい気持ちで項垂れたら、とある騒動を思い出した。とある高官の方が他国からの帰り、関所での改めに『私を誰だと思っている!?』と怒って一悶着。でも、改めを省略して良い地位でもなかったのよねぇ。あの時、私は話を聞いて  あら、嫌だ。私、もしかして驕ってる?


 鳥姫である誇りが驕りで疑いの目を悲しいと思って? ええっ? お役目を考えると信と不信を口にする私の方が失礼なのでは!?


 衝撃の気付きに恥ずかしくなり、身を任せます。


 「髪飾りでも駄目な物は駄目でございまして。それと…」


 固い声音に、解かれる髪。

 髪の間にどう刃物を挟むのか、考えてもわからなくて不思議。


 赤の方も同じ改めをしたのよね?と思うと… あの方は剣を携えておいでかしら?と別の疑問が浮かぶ。帯剣したお姿を想像している内に「はい、これにて終わりです」と告げられた。


 でも、終わってなかった。

 着直した後、座らされ。「入ってらっしゃい」で、直ぐに扉が開き侍女が何かを手に入ってきます。解かれた髪を奥方様に引かれて「え?」と問う間に「動いてはなりません、次は目を閉じて」「あ、はい」叱られて大人しくいましたら。


 結い直しに化粧直しが終わった私がおりました。なんて素敵! 渡された手鏡を覗くと、もっと素敵! 私、感激!!



 「あちらです」


 通された木の前で、心を鎮めて立つ。

 開始から今日までを振り返り、我が成果をお認め下さいと申請する。


 「此処に聖樹様の導きを賜りたく」


 願いを込めて、幹に玉を押し当てた。 ひやぁああああああああっ!?



 



 「殿下、少しお休みになられては?」

 「…そうだ、な」


 長時間動き続けた訳でもないのに疲れを感じるのが辛い。何時になったら、この体が元に戻るのかと思えば しんどい。父も祖母もこんな状態にはと心配された。それでも、選ばれたのは自分。


 必ず良くなる、そろそろ終わると言い聞かす。


 「御髪も解きましょう」

 「ああ」


 上を脱いで、ごろりと横になる。天井を見上げ、「ん?」と目を見張った。




 

 「あああ、こわ。こわ。こわかったあー!」


 跳躍だと思っていたら、引き摺り込まれた。いきなりの強制落下に心臓が縮み上がりました! 私、涙目です。立ってられません。


 怖さの余り、笑い出しそうになるのを口だけに留めます。吸って吐いてを繰り返し、周囲を伺うと知らないお部屋。ぼんやりとした光が部屋を満たしておりました。


 「もしや、聖室!?」

  

 いきなり元気になる現金な私です!

 四方を見回し、手摺りと思しき方へ向かうと螺旋の階段を見つけた。




 頭上に浮かび上がる、影。

 二度目のそれに「ままま、まさか」と脳裏で慌てふためき、目を逸らせずに呼ばわった。


 「待て待て待て待て、行くな! 一式、持て!!」

 「は? どうされ…   ああっ!?」


 「早くしろ、姫が来る!!」


 横になった間の悪さに唸りつつ、跳ね起きた。しんどいなんぞと言ってられるか!!




 トントンと軽快に降りた階段の先には、聖室の証である紋様があった。これに祈りと力を捧げれば聖樹様の導きの元、殿下の元へ飛べるのね!


 ときめきと感動に心震える。


 胸の玉を掴み、お兄様に感謝を捧げる。本当に、本当に妹に対する忌憚のない言葉をぼやいてくださり…  ありがとーう! お陰で私、失態に絶望を覚えずにすみましたあー!! お兄様、大好きーーー!


 さぁ、始めましょう!


 「国を支えてくださる聖樹様に、鳥姫が一人 青を呈した私目が 心を込めて祈ります」


 後の用事はないので、十全に力を練って練って練って取り組みます。




 跳ね起きたら、クラッときた。

 気持ちが逸るも体が付いていかない、この現実。


 「う、あ…」

 「殿下! 誰か、手をー!」


 侍従が呼ばわる声で開く扉の音や、その他の「姫が!」「何だと、うわ!」「早く、向こうの準備を!」「人を入れるな!」飛び交う怒号を聞き流し 何とか目眩をやり過ごす。己の頭上の影を睨み付け、歯を食い縛る。


 「腕を」


 請われるままに腕を伸ばし、着付けを任せる。広がる影に「ちょっと待て、ちょっと待てよ」と呟き続けて『時間よ、伸びろ』と念じ続ける。


 「殿下、こちらを!」

 「おう」


 腰を浮かして履いている下を剥ぎ取らせ、次のに足を突っ込む。


 「御足、動かします!」

 「…ああ」


 踵で踏み付けていたのを取らせ、根性を入れて寝台から立つ! 締めの間に顔をあげて深く深く息を吸い、一息に吐き捨てる。


 「侍従、靴は!?」

 「あちらに!」


 腹に力を入れ、差し出された腕を掴みつつ、靴を履き替える。一度目を閉じ、俯いて息を吸い、今度は細く長く吐き出して 呼吸を整えるに努め。


 「あああ、頭の後ろが!」

 「御髪を整える時間があ!!」

 「嘘だろ! 前回より繋がる時間が早くないか!?」


 「良い、行くぞ!」


 最早是迄と判断し、気合を入れて歩き出す。


 「お待ち下さい、結えずともせめて櫛を通す所までは!」

 「歩きながらやれ」


 「殿下、紋様が! 迎賓の間まで間に合いません!!」

 


 

 玉を両手で包んで祈り、ゆっくりと紋様に向かって歩を進める。中心部で立ち止まり、蕾とした手を花と広げる。私の色である青い色。玉の中で満ちた力がキラキラと青く輝き、手から水が零れ落ちる様に紋様へと流れ込む。


 これで殿下に会える!


 それだけで心が湧き立ち、『どうぞどうぞ、遠慮なく私の力で満ちてしまってえー。きゃあーん』なんて燥いでしまうのです! どうしましょう、顔の緩みが止まりませんの。




 「…非常事態だ。お前、あの真ん中に鞘を突っ込め」

 「は!? え、殿下。良いんですか!?」


 「良いか、よく聞け。これから来る女は夢を見ている」

 「は? はい!」


 「苦労に苦労を重ねて辿り着いた先に居る男が迎えもできない寝込んだしょぼい男で喜ぶか? 苦労に見合う生き餌でなくて、誰が本気で喜ぼう!? 苦労には報いねばならん、女の夢を壊すな! 堤が崩れる一穴が格好の一つも取れなかった己の弱さであると言うなら  やってられるかあ!!」


 つい、叫んだら無駄に気力を消耗した。が、充填もした。「直ちに!」と言いつつも慎重に突き入れて行くのに、一言。


 「先だけだぞ、入れ過ぎるなよ」

 「ええっ!?」


 「早くしろ、繋がるだろうが」

 「は、姫! お許し下さい!!」


 僅かに鞘を突き込まれ、影から青へと変化を遂げていた紋陣は流れに狂いが生じて完成が妨げられた。良かった、時間が伸びた。


 「行くぞ、髪を梳くなら今の内にしろ」

 「殿下、いざとなれば廊下も有りです! あそこは非常事態に使えます!」

 「そうです! 光差すあそこで殿下の片膝に座る形であれば、姫もそれはそれで盛り上がられるかと!!」


 「そうです! その体勢でしたら、御髪は括らぬ方が!」

 「顔をお寄せになられた際に、姫に払って頂く方向に動きを持っていけば!!」


 皆が結束し、知恵を出し合うのを心強く聞いた。




 「え、どうして?」


 最高潮に達すると興奮してたら萎んでいく。スルスルと光度が落ちて… 維持はできてるけど、何も起こらない。


 「え? え? ええーーっ!?」


 周囲を見ても、何もない。

 問題がどこにあるのか、わからない。気持ちが体を右へ左へ揺するも、こんな事は聞いてないからどうして良いのかわからない!


 「足りない? 足りないの、ねえ!?」


 手のひらの玉に聞いても答えはない。呆然とする内に時間が過ぎる。延々と力を垂れ流せなんて無理よ?


 どうしたら!?


 焦る心をグッと堪える。

 辿り着いて油断したわ、これが私に課せられた最後の試練なのね? 推理し、読み解けなのね!



 順当に上がっていたものが落ちた。


 しかし、私に過失はない。

 ならば、それは弊害の発生。


 室内に変わりはない。そうなると、紋様に仕掛けられた何かであると考えるのが妥当。紋様は初めから此処に在る。私は力を込めただけ、込めるだけ。書き加えるべき何かはなく、読み解く何かもない。その中での下がり。引っ掛かり、取っ掛かり…


 つまり、平坦ではない?


 睨んでは不敬なので、じっくりと足元の紋様を見て… そろそろと足を動かす。足でなぞるのも不敬な気がするけれど、上に立っているんだから良いわよねと舞の要領で体を捻る。玉を掲げた両手はそのままに右足を伸ばして確かめる。素足でないから神経を尖らせる。


 「あら?」


 足を戻した後、微かに違いを感じた。


 「ん、ん、ん、ん、ん〜〜〜〜〜」

 

 探りつつ、足下を見る。

 立ち位置の下。


 見落としと教訓を思い出すと、問題は解けたと頬が緩んで「ふふふん」と鼻で笑ってしまう。恋する私は負けませんのよぅ?


 「僅かに引っ掛かるものがあり、流動する力を乱している。中心の乱れが浮きとなり縁を波立たせた。捧げるを形取った私の手は動かせない。結論は一つ、出ているものは引っ込めば良いのよ」


 淡く微笑み。


 想いを込めて力を回し「私の先を阻むものは… 」片足を上げ、「悉く、沈むがよいわ!!」華々しく叫んで力の限りに踏み付ける!





 「…っだあ!」


 影たる門は俺の頭上にある。無理な体勢を強いていたのはわかっている。それが一声上げて放り投げ、自ら体勢を崩して転んだ。


 ガランッ!


 鞘ごと滑っていく剣。

 身を投げ出した姿に、押し返された事実。


 「ひ、姫様… つえええーーー」

 「え、問答無用?」

 「あああ、安泰? 安泰? 安泰でいいのか!?」

 「…蹴った? まさか、蹴ったのか!? 嘘のようで本気で!?」

 「おい、聖官がそんな」


 驚嘆(狼狽)賞賛(恐慌)を耳にする中、全員で口を開けて一時呆然としたが、そんな暇あるか!と見上げる。


 …ああ、足掻いた俺が悪いのか。包み隠さぬを美徳とし、体裁を捨てて、折角の晴れの舞台を寝たままでも上だけ取り繕って迎えてやれば〜  赤の時は余裕で間に合ったのにな。ああ、もう良いも悪いも何もないな。


 諦観と無念と遣る瀬なさと。

 去来する夢の欠片に目を瞑り、淡い残滓を振り捨てて 受け止めるべく両手両足を広げて衝撃に備え、腰を落として踏ん張った!





 きゃーーーーー!?


 思いっ切りしたのが悪かったのか、いきなりの落下。『また!?』と、『やり過ぎちゃった!?』が交錯しても為す術なく落ちていきます。でも、経験則から『最後は立って蹌踉て座るんだわ!』と目を瞑って我慢する。

 

 思っていたのと、違う衝撃がきた。





 人の声と気配、何か違う感触。

 

 吐息?


 そうっと目を開けると、目の前に金色。金色。光り輝く金の色。


 「え?」

 「お帰り、姫。大丈夫かい?」


 もの柔らかな声。

 近く、遠く、私の体が浮いていて壁が動いて風が動いて「こちらに」誰かの声も聞こえて、「ああ、姫。座ろうね」なんて聞こえて私の憧れの金色のお方があああああっ!?


 「で、んか?」

 「そうだよ」


 殿下の手が私の顔に伸び、指が括りの甘い髪に触れ、耳に沿わせて下された。


 金の髪、金の目。


 金色に輝く… 間近で見る殿下は。

 私が一目で好きになった方は、あの時とお変わりなく素敵で。


 「君の色を見せてくれるかい?」


 それでも、お疲れなのか… 痩せられたと思うし、片目のお色が違ってしまわれているけれど…  その中に垣間見える 殿下ご自身は色鮮やかに 真、お変わりなく有られて…  あ、ちょっと邪魔しないで。



 「青の姫で確かだね。ああ、始まるよ」

 「え?」


 殿下に促され、いつの間にやら広げた手。手の中の私の玉から、青の中から勢いよく金の光が飛び出してきた。

 

 「まぁあっ!」


 消えたはずの金の粒。

 終わった私の刻限が次から次へと溢れ返って金の光を散らし続ける。舞い上がり、舞い落ちて、風の扇に広げられ消えるともなしに居場所を金に染め上げる。


 ああ、殿下のお色。


 そう、うっとりと眺めていても終わりはくる。残念な気持ちを抱えて殿下のご尊顔を仰ぎ見れば…  ええ、鬱陶しいわね。


 「すまない、廊下でさせて」

 「はい?」


 「本来なら室内を埋め尽くす輝きを見せてやれたのに」

 「え?」


 「ご心配には及びません! こんな時の為に聖官の自分がいるのです!」

 

 「我らの不備で姫様のお心を乱す事などありません!」

 「そうです、姫様! 縦横高さ、割り出しに抜かりはありません!」

 「我らも待ち構えておりましたので!」

 「ご安心を!!」


 殿下のお付きの皆様方から何やら不思議な発言を頂きました。刻限だと思っていた光には他に含みがあったのですか? え、ものすごく不安なのですが!? もしかして、濃度? 密度? 間隔? 浴びせに浴びせた至近距離!?


 一気に強張る私に、殿下のお声。

 透かさず、お顔を伺えば…  ほんと、邪魔。邪魔でしてよ〜。


 そうだ!


 恐れ多い事ですが、今なら許されると  差し出し方を間違えなければ!と心を決めて、殿下の御髪に狙いを定める。そろりそろりと躊躇いがちに手を伸ばし、先ほど私にして下さった様に髪を耳に掛けて手を留め、微笑む。微笑む傍ら、小指で『邪魔よ!』と弾き飛ばす!


 よし、いったあ!!


 「うん?」

 

 恥じらいながら、手を下ろす。

 薄れて見え易くなったのか、少し不思議そうな顔をされる殿下に「あの…」と、今一度挑戦する。


 「殿下、お目は」

 「ああ、聖樹様との繋がりが証として強く出たみたいでね。その所為か、反動が体にきてしまって… この目は嫌かな?」


 「いいえ、いいえ!」


 自分でも大胆だとビクビクしながら、両手を伸ばして殿下の頬を挟み、微笑む。心の中で『じゃーまー!』と盛大に文句を言う。


 「?」


 殿下も感じられるのか、それとも生来のお優しさでしょうか!? 頭を下げて下される。此れ幸いと更に大胆に! おでこを合わせ、素早く風が舞いを夢想する。祓いの文言は言いたくても不敬になるので言えません。ですので、不敬にならぬ『身綺麗に!』と念じ。


 これまた素早く、顔を離す。


 「…ふふ」

 

 柔らかに微笑まれるお顔に、心底うっとりする。遮るものがないって、ほんと素敵ね!と浸ってたら、殿下のお膝の上であるのに漸く気付いた。今更な距離の近さに熱が出る。だって、邪魔だったし… 繰り広げるなら静かなる格闘だと… その一心でいたものだから…


 あ、あ、あ、あ、  きゃーーーーーーーーっ  あ!!  私、思い返すと真っ赤になります!





 殿下を支え、隣を歩く。

 ご不調な殿下と私の歩調、どちらともなく二つを重ね合わせて良い感じ。






 ねぇ、聖樹様。

 殿下の全てを覆うなんて駄目ですわ。嫌ですわ。


 私は断固拒否します。

 聖樹様のお力を穢れとするは不敬でしょう。ですが、私は殿下をお慕いしています。


 ええ、聖樹様が神鳥様を恋うように私は殿下を恋うのです。覆ってしまわれようなんて、あんまりですわ。私、ぜえーーーーーったいに認めませんの。

 

 それに私は鳥姫です。

 神鳥様を見習うお掃除上手の鳥姫ですわ。神鳥様ほど上手にはできなくても、私は私の風の羽を広げて綺麗になぁれと飛ばすのです。


 そこは鳥姫の本分ですから、ご容赦下さいませね。私、上手にしますから。



 「青の鳥姫」

 「はい」


 殿下のお言葉に耳を傾け、今後を思案します。言われるからには、そろそろ大聖官様も来られるのでしょう。


 「青の飾りを掲げる事が出来て嬉しいよ」

 

 う・れ・し・い。


 私の心を直撃です。

 自分の嬉しさも相俟って飛ぶ鳥、飛び回って歌います!! 金の鳥姫が見えましたあー!



 お部屋で殿下と隣り合って座ります。

 何かもう夢のようで気分がふわふわするのです。


 「姫、本当に頑張ってくれて有り難う」


 お言葉に顔を上げるとお顔が近く…  ちちち、ちかちか 近く!!  私の頬に… 頬に… 殿下のお手が…  あ、私 何か止まりそう…


 「それと、さっきの事だけど」


 耳に吹き込まれる言葉と、私が勝手に感じてしまう殿下の吐息…  ただのお尋ねにしてはやけに身が近くな…  きゃああああっ!? きゃあ〜〜〜 あ⤴︎


 私、忘れません。

 今後、何があろうとどのような事でへこもうとも! 飛び立てます。 もしも、私にとって悲しい未来が訪れようとも! 力強く歌い上げてみせましょう。ああ、でもそんな暗い未来を考えるより浸っていたい… 明るい未来の方が良い。


 全力で掴み取りたい! いえ、取りに行きます!!



 「殿下…  (好きぃ)

 「ん?」


 「私は殿下をお慕いしています… 初めてお目に掛かった時より、ずっとお慕いしています。私を選んで頂けるよう、少しでも私が良いと思って頂けるよう 私は私なりに頑張ります。等しき中から選ばれたいと頑張ります。どうぞ、見てくださいませね」



 私、(仮称)青の鳥姫は。

 己の玉に殿下の力を頂いて二色となり、そこから私と望まれる鳥姫となるを望みます。神鳥様の有り様を忘れず、又、聖樹様の御心も忘れず、神鳥様に再びこの地に舞い降りて頂けるよう


 私、頑張るぅうううう!  殿下、大好きでーーーす!!








高らかな鳥の歌声で【恋】の話は終幕です。


今の鳥姫は

うきうき、どきどき、にこによ + うっきゃあーーーーん♡ = やるわよー⤴︎⤴︎

状態です。


本人の宣言通り、この想いの強さで【恋愛】に発展する事を願うばかりでございます。お付き合い、ありがとうございましたー。 いぇい⤴︎


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