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第四十三話 ただひとつ、ある

 ——光が上がる。


 真っ赤で、どす黒い紅い光が。

 禍々しい帯が天を貫き、照らす。

 この世の終わりか、世界の始まりか……。

 この時、最凶最悪の災厄が生まれた。


 ——神が暇を持て余して、退屈しのぎに創った『スレイトラッド』に。


 空の一点を突き破り、伸びる紅い光は、ゆっくりと激しい勢いを次第に失くして、薄っすら消えていった。

 黒い染みが残ったのか、空は何処か黒ずんで見えた。


「ちっ」


 正面に状況を確認すると、走るセイは地を蹴り飛ぶ。


 ——神気上昇が終わりました……ッ! レ、レベルは……五百オーバーッ! マスターッ!?——


「……うるせえよ、言ったろ? 火力で殴るって!」


 災厄の真上に着く。


 ——ヒョーーーー…………


 風の音が聴こえる。

 高さは五十メートルほど。

 真下にいる、災厄を睨み、息を大きく吸って、大刀を振りかぶる。


 蹴り、——落ちる。


 見えた災厄は、肉体が紅黒く光り、全身の血管が浮き上がり鈍く脈動していた。


 ——シッ!


 小手調べの、一斬。

 音を置き去りにし——振り落とす。


 ——キンッ!


 予備動作なしで、右腕を上げて大刀を受ける災厄。

 俺を見上げる表情は暗い。

 まるで、死んでいるように見えた。

 何が言いたそうに、牙がのぞく口が僅かに動く。


「——ふっ!」


 そのままの状態から大刀に力を込め、跳ね返し、後方に飛んで逃げる。

 回転しながら着地。

 隙なく敵を睨む。


 セイと災厄は、三十メートル開けて相対した。

 立ち上がり、セイは二メートルを超す大刀を小枝の振る如く、一振りする。

 爆風が地を削りあげる。

 焦点が定まらない巨大な鬼は、ダラリと舌を伸ばし立っている。


 ——力の反動でしょうか? 意識が……、ない? 急激なレベルアップの負荷……——


「奴の仕業か……無理やり与えた力が肉体を蝕んだか」


 ——肯定。そうだと考えられます——


「……そりゃ、そうなるわな」


 大刀を両手で持ち直し、ゆっくりと斜め右下後ろに剣先を向け構える。


「上げるしかねーか、ナビ……どうだ?」


 ——『二十二パーセント』で互角の計算。しかし、言ったように……肉体が血に耐えきれずに吹き飛びます、……ダメージを再生しながらの戦いになります——


「『二十五』まで上げろ、後は……気合いでなんとかする」


 ——しかし! マスター! そこまで神血を創造したら……全身が一瞬で、破裂する可能性が!——


「死ぬか生きるかの時に、そんな悠長な事なんか言ってる場合か、……俺を信じろ」


 ——……了解。『オーテンシステム』再動……死なないで……マスター……——


「命を賭けてこそ、勝てる死闘もある」


 ——来るぞっ!!


 『ドンッ』


 爆風!!

 捲き上る土砂。


 ——早い!!


 息がかかる程に目の前に災厄が。

 紅黒い拳が飛んでくる。


 ——ギャリギャリギャリギャリッ!!


 大刀の腹で受け逸らす。

 地にくるぶしまで埋まりながらも、躱し、後ろを取り——


「ハーーーーッ!!」


 首を狙い、矢の如く地を蹴り飛び上がる。


 ——ザシュッ!


 僅かに通った斬撃。


 が、


 腕に振り払われ、ギリギリで災厄の肩を蹴り逃げる。


 ——マスター! 『20パーセント』超えます! 体はだいじょ——


「ああ——わか」


 宙でナビの言葉に返す前に、


 一瞬で左腕が膨らみ、


 ——『ボンッ』


 弾けた。


「——ッ!」


 肉片と血肉が撒き散る。


「がーーっ! クソがっ!!」


 爆発した左腕に意識を集中する。

 痛みに頭の芯が沸騰しそうだ。

 時間が巻き戻る様に腕が再生され、元に戻る。


「いってーなっ!!」


 その隙を見逃す訳がない。


 ——グアガーーーーッ!!


 叫び、迫り来る拳を大刀の腹で、何とか受ける。


 吹き飛ぶセイ。


 ——ミシ。


 大刀に入るヒビ。


 だけど、俺は……全然、別のことを考えていた。


 地面スレスレに吹き飛ぶ。


 なんだ?


 どうした?


 どうしてだ?


 災厄の叫び声は、今の俺にはこう聴こえたんだ。


「殺してくれ」って。


 お前は……、どうして……。


 吹き飛びながら見てしまう。


 疑問が胸を刺す。


 なんで、泣いている?


 ……どうして、そんな悲しい顔をしているんだ。


 泣きながら戦っているんだ……?


 遠く見た、災厄の虚の目に流れるのは……。


 ——ッズン。


 吹き飛んだセイは大地に落ちる。


 大の字で仰向けに止まる。


「そうか、」


「そういうことか……」


「とことん、馬鹿にしてるってわけか」


「神——」


「俺は、」


「運命が憎い」


「偶然が憎い」


「必然が憎い」


「明日なんて見たことない」


 フラフラになりながら立ち上がろうとするセイ。


「こんな世界が大嫌だ」


 グイッと手を膝について立つ。


「……だけどな、だけどな! 負けねーぜ」


 落ちていた大刀を足で蹴り上げ掴む。


「馬鹿笑いする、お前だけには」


「あいつが笑えない世界なんていらない」


「だから、かえてやる」


 ——お前の無念も変えてやる。


「なあっ! 災厄よ! 泣く暇あるなら戦え!」


 ——俺が殺してやる。


 ——マスター! 『24パーセント』! 神血……に、負けないでください!——


「ターコ。昔から、心配性なんだよ……佐々木」


 朦朧とする意識と、肉体を駆け抜ける激痛。


 魂が悲鳴をあげる。


 俺ではない、誰かの声。


 声がする。


 間違ったかな?


 他の道がなかったのかな?


 うまくもっと、できなかったのかな?


 ううん、これでいい。


 君はきっと、僕に出来なかった事が、


 出来る。


「あの時の僕も、きっとそうする筈だから」


 混濁する意識中、ひとつだけ。


 リリーのことを想った。


 ひとつだけあればいい。


 大切な……事が、ひとつあれば。


 俺は、俺でいられる。


 戦える。


 ——光が生まれる。


 音はない。


 それは、綺麗な紅い光。


 それは、美しい光。


 希望と言う名の光。


あー、後、数話で終わります。

最後までお付き合いよければ。

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