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第四十二話 絶血

「喰らえ」


 掲げた右手から力が生まれる。

 日が陰る。

 空を覆い隠す程の、紅い球の所為せいだ。


「……おお、なんか、でっかいのが出来たな……」


 顔を上げるセイ。

 大きさが五十メートルは、あるだろうか? 自分で生み出した癖に、間抜け面で空に浮く、紅い巨大な球を眺めている。


「でかすぎない……か? アレ」


 ゆっくりと腕を下ろす。

 球はそのままだ。

 見上げるセイの頭に、声が響く。


 ——マスター、アレに名前を付けてください。言葉には命が、言霊が宿ります。存在が変わります——


 名前? 存在? イマイチ、ナビは突拍子もないことを言ってくる……。

 急に言われても……な。

 名前……名前……名前……。


「必殺技か……」


 巨大な紅を見て——考える。


 神の血が変える理。

 交わる二つの運命。

 絶望が溢れた世界。


 ただただ、俺は想う。


 堪え切れずに、涙を流す女の子を。


 ただただ、俺は飲み込む。


 全てを渡し、消えていった男を。


 ただただ、俺は思い出す。


 この世界とは違う場所で、戦い散った仲間を。

 守り切れなかった女の子を。


 ただただ、拳を握りしめる。


 握りしめる。


 強く、強く握りしめる。


 俺たちは……お前の、おもちゃなんかじゃねえ……。


 好き勝手にさせねえ。


 世界を変える、力が——


 欲しい。


 力が、


 欲しい。


 その——————。


 閃く。


 …………。


「『絶血ぜっけつ』」


 口から言葉が自然とでた。


 ——空を覆う紅い球が変わる。


 シュルシュルと音をさせながら、一瞬の内に小さくなる。

 一メートルぐらいの大きさなり、セイの真上に止まる。


「……なんか、可愛くなったな」


 急激な変化について行けてない俺に、


 ——マスター、戦い方にはスタイルがあります。強大な敵に勝つために、三次元的に空を飛び、戦うスタイル——


 ナビは、マイペースにまた、話しかけてくる。

 ……それは、リリーの事か?


 ——マスターは、どんなスタイルですか? それによって……私の思考や行動も予測も変わってきます——


 俺の……戦い方? うーん……、 あいつは、スキル『創造』を使い、様々な武器や防具を生み出し戦っていたな……俺は……そうだな。


「圧倒的火力でぶん殴る」


 ——ぶん殴る?——


「ああ、まずは……、災厄の場所はわかるか?」


 ——はい。前方約、五百メートル少し右に立っています。後、回復、再生が終わります。災厄、動き出します!——


「よし」


 右腕を前に構え、腰を落とす。

 真上にあった紅い球は、突き出した右手の前にフワリと動き止まる。


 ふーー、息を吐き、吸う。

 一瞬、止まるセイ。


 ——右手を引き、神速で打ち出す。


「『絶血——だん』」


 ——ドオッンッ!!


 弾け飛ぶ 紅球。

 否。

 紅弾。

 紅い残像を残し、災厄目掛けて空を切り、飛ぶ。


 大地が、抉られ《えぐ》、裂け、割れ、弾き飛ぶ。

 土砂を左右に撒き散らし、木々を巨木を貫通しながら——


 ——ドオーーーーンッ!!


 空気が震え、耳をつんざく衝撃音。


「どうだ——!?」


 独り言は、驚愕と共に消し飛ぶ。


「まじか? あいつ——」


 ——マスター! 受け止めています!——


 そう、奴は、災厄は両手を使い……受け止めていた。

 渾身の一撃を。

 うねりをあげ、回転する紅弾は、止まっていた。


「はー!? ならこれはどうだ!?」


 セイは片腕をあげて叫ぶ。


「『絶血——ばく』」


 紅弾から何本もの触手が生まれ、災厄に巻きつく。


 ——グアーーーーッ!


 千切ろうともがく災厄。


「逃がさねえよ」


 上げた腕を振り下ろす。


「『絶血——さい』」


 最初は風の——ヒュンッと鋭く小さな音。

 刹那の静寂。

 大爆発。


 爆風が、三百六十度、吹き狂う。

 大地が爆散し、空気が鳴る。

 岩が吹き飛び、木々は根をつけたまま、地から飛んでいく。

 爆心地を真上から見れば、見えるだろう。紅電くでんが舞い、広がっていくのが——。


 紅い花が咲き狂う。

 大地に紅電がのたうち回る。

 花が破壊をもたらす。


 セイは、衝撃から飛んでくる石からリリーを守る為に前に立つ。


「きったねー花火だ」


 破壊の衝撃で生まれた、昇る煙を見る。


 あいつは、これぐらいじゃ……くたばらねーだろな……ナビ、引き続き頼むわ。


 ——了解。災厄は現在、感知不能。引き続き……、——


「セイ!」


 リリーの声に振り向く。


 立っているのがやっとの姿。

 ボロボロ。

 でも、その顔は怒っていた。


「え?」


 戸惑う俺の腹に——リリーの……蹴りが入る。

 それは、ゆっくりで遅い。

 だけども、重たい一撃。


「ぐへ」


 情けない声を出して、リリーの足を受け止める。

 痛くなんてない。

 だけど、痛い。

 見る影もない弱々しい蹴り。

 でも、痛い。

 なんでって、


「わけわかんないよ、わけわかんないけど……」


 泣きそうな顔をして——リリーが立っていたから。


「……わりい。今は説明する時間が……な」


「色々! 訊きたいことあるけど……髪伸びすぎとか、何個もあるけど」


リリーは笑った。


「セイ、信じてる」


「待ってるから……約束して」


 涙を拭いて、

 あの日を思い出しながら、

 父との約束を思い出しながら、

 守られなかった、約束を思い出しながら、


「帰って来てね」


 唇に軽い感触。


「おまじない」


 堪え切れない涙を、傷ついた手で拭いて、また、笑う。


 恥ずかしそうに唇を尖らせて。


「こんな事、誰にもしないんだから」


 声が出ないとは、まさにこの事だろう。

 唇が触れた感触に我を忘れて……


 ——マスター! 災厄から神気が爆発的に上がってます! こ、このままでは!——


 …………。


 ……はー、……。


「行ってくる。まだ、リリーの返事も聞いてないしな」


「バカ」


「『絶血——とう』」


 顔が赤くなったリリーに背を向け、大刀を肩に担ぐ。


「行ってくる。ちょっくら、鬼退治に」


「うん、行って……らっしゃい」


 俺は、左腕を上げて答える。


 ——息を吸い、走り出す。


 走る。


 走る。


 走る。


 教えてやろうぜ。


 神様って奴によ。


 好きな人がいるだけで、


 絶対無敵って馬鹿が、ここに居るって事をよ。


 なあ。


 なあ。


 なあ!


 世界を変えてやる——

ブクマ、評価おまちしてまーす。

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