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第三十八話 だから一緒にいたいんだよ

 ——ドンッ!


 俺の前に、突然何かが落ちてくる。

 それは、地面を跳ねて転がり、すぐ目の前まで来て止まる。


 土埃が立つ。

 視界が戸惑う。

 なんだ?

 立ち上がる地煙じけむり

 その先にうっすらと、何かが見える。

 音はない。

 静かだ……。

 風に少しずつ消えていく。


「ゴハッ!」


 苦しそうに血を吐く——知った顔。


「リリーッ!!」


 無残にも変わり果てた姿でリリーが倒れている。


「おい!! 大丈夫か!?」


 近づいて抱き上げる。

 両の拳は血にまみれ、着ていた装備は破壊され、なくなっていた。

 口から血を吐いた跡があり、頭からも血を流している。


 くそっ! どうなったんだ!?

 災厄は!?

 手の傷を確かめる。

 血だらけだ、指もおかしな方向に曲がっている。

 顔に付いている血の跡を、自分の服で拭き取る。

 薬は!? 何かないのか!?


「……ごめんね、セイ」


 小さい声。

 今にも消えそうな力ない声。

 うっすらと……静かに目を開けるリリー。


 俺は、意識があるリリーに安堵しながら、


「なに謝ってんだよ! 薬とか持ってないのか!? あの時、俺の傷を直したような!?」


 俺を安心させる為か、弱々しい笑顔でリリーはニコリと笑い、首を横に振る。


「何処かに落としたみたい……聴いて……セイ」


 ——ゴホッゴホッ……


 心配そうに私の顔を見るセイ。

 ごめんね。

 ダメだった……。

 勝てなかった。

 勝てなかった……。


 ——だけど……セイは、殺させない。


「……いつからだったのかな……?」


 セイにも聴こえない……ちいさな独り言。


 いつから、こんなに。


 ……好きになってたのかな?


 最初は、黒髪で紅目で変な異世界人だなって程度認識。

 そりゃ、いきなり胸を揉まれてびっくりしたこともあったけど……。

 不思議と嫌いにはならなかった。


 嬉しかったな……私を守るって、言ってくれた事。

 本当に嬉しかった。

 眩しい、眩しい大切な思い出。


 もっと一緒にいたかった。

 もっと知りたかった。

 もっと、いろいろしたかった。

 もっと色んなところに行きたかった。

 もっと沢山……。


 死にたく、ないな。

 死にたくない。

 生きたい。

 死にたくないよ。


 ボロボロとリリーの目から涙が溢れてくる。

 止め処なく、み空色の目から流れる涙。

 それは、どんどん溢れて俺の腕と胸を濡らす。


(一緒に、もっといたかったな……)


 どうしたらいいか、分からずにただただ、リリーを優しく抱きしめる。

 壊れそうな大切な何かを抱きしめるように……。


「セイ……」


 顔の横からリリーの声。


「どうした?」


「——生きて」


 リリーが俺の体を抱きしめてくる。


「私の分も」


 静かな声でリリーが紡ぐ。


「友よ……、私の声を聴け、力を貸せ。空に浮かぶ殻(エアフローシェル)


 紅いシャボン玉みたいな物が——俺を包み込む。

 な、なんだこれは?

 フワリと俺を包み込んだまま、浮かぶ紅いシャボン玉。


 離れるリリー。


「森の外まで、その球が連れて行ってくれる」


 空中に浮かび、飛び立つ紅球。


 なんなんだよ、これ!?

 眼下の少しずつ小さくなるリリーに、


「ふざけるなよ! 一緒ににげるんだ!」


 ——ガンッガンッ!! ガンッガンッガンッ!!


 いくら叩いても、紅い膜は壊れそうになかった。


「ダメ、私があいつをくい止めるから……セイ」


 リリーは、傷だらけの体で立ち上がり、


「さよなら」


 と、見上げ笑った。


 ——なんなんだよ! それ! なんなんだよ!! ふざけるなよ! 一人で死ぬつもりかよ! それで助かっても……笑えねーよ……。


 うずくまり叫ぶ。


「笑えねーよ!!」


 俺の声は、力は、どこまでも、どこまでも無力だった。


 小さくなるリリー。

 俺を閉じ込めた紅い球はそのまま、空を浮かび、動力は何なのか分からないが、森の外に向かって飛ぶ。


 うずくまり、遠くなるリリーを見る。


 その時、


 ——ズギャッ! パァーンッ!!


 割れる音。

 何かに掴まれる。

 ミシミシと骨が軋む音がする。


 ——ドンッ!


 大地が揺れ、俺は訳も分からず激しく前後左右に振り回される。


 俺は……、災厄に掴まれていた。


「グハッ!」


 肋骨が折れたのか、肺がやられたのか、血混じりの呼吸。


 虚ろな目で見ると、リリーがこっちに向かって走ってくる。


 飛び蹴りを右腕ですガードしながら、掴んだ俺を、興味も無さそうに投げ捨てる。


 木に激突して、尻餅をつく。

 たった、掴まれて投げ捨てられただけなのに、ピクリとも体が動かない。

 ゼヒーゼヒーと、変な息がでる。


 リリーが、災厄と戦っているのが見えた。


 意識がだんだん虚ろになってくる。


 俺は……このまま、死ぬのか?


 全身が告げる、死を。


 リリー……。


 最後に見た景色は……、


 災厄に頭を掴まれ、持ち上げられるリリーの姿だった。



 ——マスター。135番体が生命活動を停止します——


「今すぐに魂の部屋に繋いでくれ」


 ——了解。アクセス…………繋がりました。糸は安定しています。すぐに接触しますか?——


「ああ、頼む。後、停止の残り時間の報告と、彼の全快を頼む」


 ——了解——


「さてと……神よ……、覚悟はいいか——」




 □□□□□□□□□□




「ここは? どこだ?」


 俺は、何もない白い部屋で目を覚ます。

 大体……十畳はあるだろうか?

 広くも狭くもない部屋だ。

 しかし、ドアも窓もない。勿論、家具も何もない。


 俺は、体を確認しながら立ち上がる。

 痛む所はない。

 着ている装備も最後、気を失う時のものだ。


「ここは……あの世、なのか?」


「いいや、違うよ」


 声のした方に振り向く。

 さっきまで何もいなかった筈だ。


 その、視線の先には……、


 俺がいた。


 嫌、俺に似ているなにか? だろうか?

 わからない。

 理解不能な、突然な事に固まる俺を見て、そいつは、


「ああ、そうか……驚かしてごめんね……僕は君であり、君は僕なのさ」


 何を言っているんだ?


「君はね、僕の魂のカケラを使って創った——コピーなんだ」


 そいつは、俺を見ながらそう言ったんだ。









ありがとうございした。

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