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第三十六話 上を向いても溢れる涙は、どうしたらいいの?

 ——声が聴こえた。


(ちょっと、それ……ルール違反かな)


 八枚の翼が散った。


 ——!!


 それは唐突に前触れもなく、いきなりだった。

 ——なに!?


 全身全霊。

 命を研いた一撃。

 これ以上はない——煌めき。

 研鑽した魂の結晶——。


 だが、


 身体が! おかしい——上手く動かない!

 ——何故!?



 弱くて。

 小さくて。

 脆かった少女。

 命がけで強くなろうと。

 強くなりたいと……。

 守りたいと……。


 生きたいと。

 祈り、願い


 だけど、


 大切な想いは、わたしを裏切る。


 なら——戦う。


 戦う。

 戦う。

 戦う——。


 だから、強くなる。


 自分に嘘をつく。

 いつか、本当になると信じて。


 強くなりたい、そう、願う。


 想いがあった。

 大切なひとを守りたい。

 だからここまで歩いてこれた。


 思い出が、私を支えた。


 ——力を失い失速する感覚。


 体のバランスが、狂う。

 神気が消えていく。


 知らない。

 関係ない。

 今、この瞬間、命を賭して燃やす。

 魂を、煌めきを、燃やす。


 災厄。


 紅い鬼を

 やっと見つけた。

 やっと、だから。


 ——殺す。


 殺す。

 殺す。


 殺す!


 今、奴が目の前にいる。


 災厄が。

 お父さんを殺した災厄。


 翼が失くても関係ない。

 ——全てを賭ける。

 この一撃に!


 一刀に!


 ……本来なら、首を切り裂けたハズの一刀。

 空気を切る音すら超えた、必殺の一撃は——


 躱された。


 首の皮、一枚切り、躱される。

 翼が消え、態勢を崩すリリー。


 音が追いつく。


 —— ザンッ!


 首から薄く、血を流しながら、後ろに飛び、距離を取る災厄。


「……どうして」


 ——しちろく……よん……


 独り言は無慈悲に溶ける。

 神気が消えていく。

 階が堕ちていく。

 まるで、吸い取られるみたいに。


「なにが……」


 困惑を浮かべるリリーにまた、声が聴こえた。


(魔人の秘術に、神血の組み合わせは。ルール違反かなー。ワタシのペットをあまり虐めないでくれよ)


「だれっ!?」


 大声をあげ叫ぶリリー。

 辺りを、見回しても誰もいない。


(さーて、誰かな? ホラ、余所見していると——)


 瞬の油断。

 気がつけば災厄は、目の前にいた。

 リリーの胴はある、拳を振り上げ——


 ——ブンッ!


 唸りをあげてリリー目掛けて、振り下ろされる。


「くっ!!」


 ギリギリ躱し、繰り出された左拳の付け根を、飛ばさんと斬りつける。


 ——ガッキーーーーンッ!!


 跳ね返される刀。

 硬い! 階が堕ちたせい!?


(存在を消しすぎたかな? まぁ……いいか。さあ、楽しませてくれよ。玩具おもちゃ達! はは、ははははははっ!)


 全身に木霊する笑い声。

 私の頭は、真っ白になる。

 早鐘を打ち出す心臓。

 カラカラに乾いた喉。

 嫌な汗が止まらない。

 サユねえちゃんや、団長の言った通りに……。


 見つかった……。


「クっ!」


 だからと言ってなんなのよ!

 神気が堕ちても、やることは同じ!

 回転して後ろに飛び、災厄から逃げる。


「はーーーーー!」


 二刀を消して、全身に神気を込める。


「超! 身体強化!!」


 紅い光が再び私を覆う。

 目に揺らめく紅い光芒が漂う。


 大きい相手は散々してきた!


 サイラン直伝の——ギカントアーツ。


 ——ドンッ!


 右足を地面に打ちつけ構える。


「ギガントアーツ、リリー流を見せてやる!」




 □□□□□□□□□□




「巨人族が編み出した、ギガントアーツは単純だ。敵を殴り殺す! それだけだ!」


 何が楽しいのか、私の前で馬鹿笑いするサイラン。

 ギルドの修練場には、私達二人以外、誰もいない。

 多分、気を利かせて私達だけにしてくれたのだろう。


「いや、意味わからないし。もっと、わかりやすく説明してよ。技を教えてくれるんでしょ?」


 依頼を終わらせて全力で帰って来たんだから……と、馬鹿笑いするサイランを、ジト目で見上げる。


 頭をボリボリ掻きながら、サイランは、


「技はなー、うーん。そうだな。まずは、型だ。それからだな」


 型?

 首をかしげる私に。


「基本ができていないと、頭打ちになる。いつか、限界が来るからな」


 そんなものなのかな?


「リリー。お前は強い。強すぎるぐらいだ。だから弱い。基本がなっちゃないんだ。力任せで戦っている。真の敵、災厄には通じない」


 えー、と、不満げな私に。


「ギガントアーツは単純だ。神気を昇華し、相手に叩きつける」


「神気?」


「神気とは、力。神の血の強さだ。紅い靄が戦っている時、見えるだろう。それだ」


 うーん、わからない。


 息を一つ吸い込み、吐いたサイランは、


「足の踏み込み、ひざ、腰、胸、背中、肩、肘……拳。神気を練り込む。それで、インパクトの瞬間、敵に昇華した神気を叩き込む」


「つまり?」


「難しい事は私も苦手だ! 見て覚えな! リリー! まずは、正拳突きからだ!」


「はい!」




 □□□□□□□□□□




 サイラン、ありがとう。


 左拳を、構える災厄。

 右拳は切り裂いた血が、固まってダランと、ぶら下げている。


「あーーーーーーーー!!」


 リリーは飛ぶ。


 神気を練り上げ叩きつける。


 ——ガンッ!


 三メートルはある災厄と、小さなリリーが真正面から拳をぶつけ合う。


 拮抗。


 弾け飛びそうな空気に舞う紅電。


 瞬。


 ずらした拳を引き、地に落ち左足を軸に飛ぶ。


 昇華、神気は暴れる。


 反応が遅れた災厄は、左横顔に喰らう。


 魂の、一撃を。


 一撃でダメなら、十回、百回、千回、叩き込む!


 吹き飛ぶ災厄。


「はーーーー!」


 戦いは、止まらない。


 吹き飛んだ災厄を追うリリー。


 壊れながら、カウントダウンは始まっていた。







ありがとうございました。

評価、ブクマお待ちしてます。


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