第三十一話 とある少女の一日の始まり
「戻って……きた、かー……」
私の吐いた言葉が転がって、壁や床に吸い込まれていく。
六畳間の白色を基調とした部屋。
そこにある、いつも寝起きしているベッドの上で……目が醒める。
ボーッと天井を見る。
ポッカリと生まれた時間の空白。
私は身動きひとつしないで、白色の天井を眺めていた。
どれくらい眺めていただろう?
……こんな時、気の利いた冗談が口からでてくればいいけど……無理……。
疲れた……。
痛覚は共有するからなー、ばかすか殴ってくれてさー、まぁ、おねえちゃんも、で、……お互い様か……。
見慣れたはずの光景に違和感がある。気持ちが落ち着かない。
まだ、魂が体にしっかりと定着してないせいかな……。
眠い目をこすりながら、ベッドから顔をあげる。
ずっと寝返りもうてずに、寝ていたせいか、全身が、特に首がこり固まっている……。
もー、肩こりがヤバイ!
いたたたたたたー! と叫びながら頑張って動かして見る。
そこには——
世界を切り取った様な窓枠から、白くなり始めている——初夏の空が見えた。
——チュンチュンと耳にする鳴き声。
それを聴いて、帰って来たと実感する。
この世界に……。
どこか、ホッとしている自分に気づく。
白い雲と、まじりっけのない色。
嫌になるぐらいに平和な色。
だけど……生きていると実感するする色。
「いい天気っぽいなー」
その明ける朝の空を見て、安心したせいか、気が抜けた独り言が溢れた。
そして、
——グーー。
お腹が鳴る。
あはは、安心した途端これかいって……うー、それが私っぽいか……。
これは、生きている証拠なり。
コーラ飲みたいな。
プリン食べたい、塩ラーメン食べたい。
おにぎり食べたい!
お腹減った!
……だけど、思い出す。
拳を交わしていた少女のことを。
赤髪の女の子を。
——小さき神との死闘を。
もう! おねえちゃんも途中からテンション上がっちゃってさ! あそこまでやらなくてもいいでしょ!? 思い出してたらムカついてきた!
はぁーーーー……バトルジャンキーって怖い。
でも、強すぎでしょ……リリーちゃん……。
あれはないわー。
見た目は中学生? 十四、五歳ぐらいにしか見えなかったし。
私は超絶美少女のあの姿を頭に浮かべる。
いやいやいや、あの歳であそこまで強いって……何して生きてきたのよ?
一撃で、森を更地に変えます?
どこぞの戦闘民族な、の?
星に送り込まれたの?
凄すぎて意味わかんない……。
あの見た目で、あの強さは色々とチートすぎ!
でもね……きっと死に物狂いで強くなろうとしたんだろうな……あの世界の命は軽いから。
「あっ! 忘れないうちにメモしないと!」
私は、布団を投げ捨てて立ち上がり、机にダッシュする!
が、 体が言う事をきかず——つまづいて、足の小指を机の足のぶつける。
「いでーー!」
少女にあるまじき、おっさん声が部屋に響き渡る。
こ、小指が砕けた! いだーい!!
なんなのこの痛みは! ちぎれ飛ぶーー! 指はあるの? まだ、ついてるの?
床を転げ回る私は、足の痛みの先、小指を確認する。
ほっ、指あった……。
そのまま、痛みを我慢して、涙目でヨロヨロと机に座る。
見た目の年は十七、八ぐらいにだろうか。とびきりの美人ではないが、可愛らしいどこか愛嬌がある顔。
そして、……両目の眼球、普通なら黒目の所が——真紅の色をしていた。
そんな、彼女が、机の引き出し(鍵あり)から取りだしたなる物は——虎の巻の創作ノート。
趣味で書いているweb小説……そのアイディアノートだ。
「えーと……神の血使って理を外れた術? で……つ、よ、く、なるっと! うーん、考えれば考えるほど凄い力ね。限界、もしくは制限付きっぽいけど……」
私はノートに、持って帰ってきたネタを書き込む。
「——神に生るなんて、どうするんだろ」
純粋な疑問を考える。
「あんなに暴れて、本物のくそ神に見つからなかったらいいけど……」
おねえちゃんが、戦っている存在を思い出す。
「憑依合体も時間制限あるし……私もそんなそんな、しょっちゅう行けないし……。おねえちゃん、リリーちゃんと仲良くなれたらいいけど……あの人、変わりもんだからなー、いきなり変な事、言ってそー」
その通りだった……。
「しっかし! リリーちゃん……可愛かったなー。戦う姿がエモすぎだし!」
少女は嬉しそうに笑い、話しだす。
「今度、あっちに行った時! 友達になろ!」
欲しかったおもちゃを買って貰った子供のように、キラキラと笑顔をこぼした。
「えーと、てか、今何時?」
ノートを机の上に置いて、枕元を漁る。
「あったあった」
——ピコン
スマホの小さな起動音。
「えっ、七時すぎてるじゃん! やば! 学校に遅刻する!」
バタバタと机にノートをしまい、鍵をかけるのも忘れない。
「よしっ! 寝た気しないけど、今日も一日がんばろー!」
扉を開けて飛び出していく。
そこへ、
「あかねー! ご飯できたよー! 起きなさーい!」
下から大きな声がする。
「今、起きたー! すぐ行くー!」
ドタドタと走る音が、扉の向こうに消えていく。
——少女のノートの表紙にはこう書いてあった。
題名『(仮)きっと世界はきみのもの』
作者『夕暮れの自転車』と。
今日も、代わり映えしない、一度だけの一日が始まる。
さー、次回でリリー編は終わりです!
多分!
そしてー……。
評価く、だ、さ、い!
はー、ため息。
ラストまではもうできてますので、頑張って書きます!
では、次回も! よろしくです!