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きっと世界はきみのもの 〜目が醒めたら、裸の女の子にボコボコにされて死にかけました〜  作者: ねこのゆうぐれ
第二章 愛する者の声を聴いたか リリー幼少編
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第二十二話 神血の精霊術

 ——ガッ! バキッ! ドンッ!


 里にある、武闘場に打撃音が響く。

 広さは三十メートル四方、石のブロックが敷き詰められている。


 ——ガッガッガキッ!


 風呂上がりの二人は——戦っていた。


「おっと、ホラホラホラ、この程度かい?」


 ——ゴンッ!


「そんなんじゃー、中級の魔物にさえ勝てないよ!」


 ——くっ、私は右からの中段の蹴りを躱し、後ろに飛び距離をとる。


 はあ、はあ、はあ、はあ……。


 ふ——……、大きく息を吐いて吸う。


 とめどなく出る汗が額を通り、顎から滴り落ちる。早鐘の如く胸を打つ鼓動が痛い。息をするのが辛い……。

 だけど、ここでやめるわけにはいかない。

 大きく息を吸って、言葉の代わりに拳を振るう。

 

「は——っ!」


 全力で地を蹴り、——走る。


 『ズシャッ!』——目の前で一瞬溜めをつくり、その反動で殴りかかる。


 ——ガッ! ゴッ! ガッ! ゴッ!


 両手両足、全身を使って出した渾身の拳と蹴りの連続技はアッサリと受け止められた。


 サユ姉ちゃんの右腕一本に。


「見えみえだよ! 私に勝つんじゃなかったのかい!」


 お返しとばかりに飛んでくる前蹴りを、腕でガードするが、八メートルばかりブロックを削りながら吹き飛ばされる。


 くっ! ——ビリビリと強い衝撃で、痺れる腕の隙間から睨む。


「さてと、……。準備運動はもういいかい?」


 そこには赤い着物を着て、汗ひとつかかずに油断なく佇む——戦士がいた。


 鍛えてくれた人。

 私の師匠。

 お姉ちゃん。

 大好きで憧れの人。


 はあ、はあ、はあ、はあ……。


 右手の甲で額の汗を拭い、呼吸を整える。


 はあ、はあ……。


 ゴクリ……喉の奥につばを飲み込む。


 は——……、ふ——……。


「やっぱり、強いねーサユ姉ちゃん」


 精一杯の軽口を叩く私に。


「これぐらいは、当たり前だぞ」


 ニヤリと笑うサユ姉ちゃん。

 なんだか悔しくって、つい空を見上げた。


 実戦だと命取りな行為。

 だけど、私は胸のなかにあるどうしようもない感情をごまかしたくて……。


 あおいろ……。


 ひつじ雲が、まばらにいる。どこまでもどこまでもあおい空。


 今の私には……真っ直ぐ見れない……ただ、綺麗な空が広がっていた。


 ……負けたくない。


 負けたくない……。


 守れる強さが欲しい。


 大切な人を守れる強さが……。


 悔しくて情けなくて辛くて。


 よわっちくて……。


 それでも、勝ちたい。


 勝ちたい。


 ……勝ちたいんだ。


 だから——。


 あげた顔をゆっくりと戻し、真っ直ぐに見る。


「お姉ちゃん覚悟はいい?」


 それは、私の覚悟。


 言葉にする、——覚悟。


「ん? しかし、リリー。この状況で、どう私に勝つつもりだ? 確かにお互いまだ……強化はしていないが……」


 首をかしげて、不思議そうに私を見るお姉ちゃん。


 だと思う。私でもそう思う。この力の差で覚悟もないと思う。


 だけど。


「サユ姉ちゃん、今から全力で精霊術で強化して」


「どうしてだい? それは……リリーの言っていた秘策ってやつかい」


「そう……、手加減ができない。だからお願い」


 お姉ちゃんは少し考える素振りを見せて。


「——いいだろう」


 少し間をあけ……唱える。


「友よ、声を聴け。力をかせ。ウソつきの誓いの歌(バトルクライ)


 ……最初は静か、そして……突然爆発する。


 ——ドンッッッ!!!!


 白い光が上がる。その中に立つ戦士。


 緑色の髪が小さな束になり、それぞれ風も無いのに力強くひかり揺れ動いている。

 その目は龍人特有のなのか、普段とは変わり、縦に瞳孔が切れている。

 体からは薄い緑色のオーラが漂い次から次へと溢れている。


「さーて、どうする? リリー」


 鋭い眼光で威圧を撒き散らしながら私を見る。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 お姉ちゃんから受ける凄まじいプレッシャーで流れ出る汗——それを無視して……。


 私は命の使い方を決める。


 初めて使った時は、力の制御ができずに暴走してアッサリ気を失った。

 たまたま偶然見つけた力。

 何回も何回も倒れた……だけど。


 今なら——戦える。


「いくよっ!」


 右手を前に、左手を腰に構え……右足を静かに前に出す。

 うるさい心臓の音と呼吸の音を混ぜて——叫ぶ。


「——解放!!」


 神の血で全力で強化をする。

 白い光が私を包む。

 

 そして、精霊術を重ねて唱える。


「友よ、私の声を聴け! 力をかして! ウソつきの誓いの歌(バトルクライ)!!」


 神の血を元に世界の理を変える。


 変わってしまう。


 唯一無二の力。


 リリーだけの力。

 彼女は理解してはいなかった。


 それは、神への階段を一段上がった瞬間だった。


 ——ドドドドンッッッ!!!!


 真紅の光が真っ直ぐに立ち上がる。

 それは、神の力の証明。

 神の血の瞬き。


 リリーの肩まで伸びた髪はさらに紅く深く変わっていく。

 みそら色の目が真紅に染まり、その光芒が強くひかりユラユラ揺れている。

 全身からは濃い瘴気の如く真紅のオーラがのぼる。


 どうする?


 どうする?


 どう戦う?


 どう殺す?


 違う、違う——……。


 意識を消すな。


 私はわたし。


 私の名前はリリー。


 私は誓う。


 この力は……守る力。


 強がりを、嘘を本当にする力。


 あ……あ……あ……あ——。


 全身に力を入れ叫ぶ。


「あああ"————!」


 両足を踏ん張り、地面に突き刺す。

 目を閉じて俯いて……取り戻す。


「リリー?」


 声が聴こえる。

 それだけで、もういい。

 それだけでもう、私は戦える。


 大切な人の為に。


 私はわたし。

 運命なんかくだらない。

 あれだけうるさかった心臓の音が小さくなって——。


 空を見上げる。


 綺麗などこまでもあおい空。


 どこまでも……。


 大丈夫。


「ごめん。お姉ちゃん、まだこの力に慣れてなくて」

 

 お姉ちゃんは、どこか呆れて……でも、笑う。


「面白いじゃないか、神の血と精霊術……神血の精霊術(ソウルイコル)とでも呼ぶかな……さて、私に勝って討伐に行きたいんだろ?」


「——来な」


 私は頷いて、蹴る。

 地は爆発して石の破片をあげる。


 小細工は無用。力と力の衝突。単純明解、強いほうが勝つ。


 紅い光と緑の光がぶつかる——。


ありがとうございました!

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