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きっと世界はきみのもの 〜目が醒めたら、裸の女の子にボコボコにされて死にかけました〜  作者: ねこのゆうぐれ
第二章 愛する者の声を聴いたか リリー幼少編
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第二十一話 いつだって本当は決まってる

 もうもうと、白い湯気が立ちこめている。

 

 ——風はない。


 その白は、二人の姿を隠し曖昧にはしているが、その裸体を隠すほど濃くはなく、空は青かった。

 大人ほどのサイズの岩を何個も使い、作られた露天風呂。

 なみなみと湯を張り、たたえている。

 そこは、三十人が入っても余裕がありそうな大露天浴場だった。




 □□□□□□□□□□




 小さな椅子に座ったリリーは、泡が目に入らないよう、ぎゅっと瞑っている。

 何かが腐ったような……温泉独特の臭いがリリーの鼻孔を抜ける。


「くさいー」


 ポツンと、リリーの小さな独り言。

 それは漂い、湯気と一緒に空に浮かんできえていった。


『ワシャワシャ……ワシャワシャ』

 

 サユお姉ちゃんが細い指を動かして、私の頭を洗ってる。

 その軽い振動が、私のポコっと膨らんだお腹を揺らす。


「うーん、お腹いっぱい……く、ぐるしい〜」


 ごはんを食べすぎた苦しさで、私は顔を俯いて息を吐く。


「コラ、じっとしろ。洗いづらい。大体、八杯もおかわりするからだ。その小さい体のどこに入っていったんだか……」


 お姉ちゃんは、私の頭を押さえつけるようにして、両手で強くワシャワシャしてくる。


「だってー、お腹ぺこぺこだったし……、サユ姉ちゃんの作る料理はいっつも食べすぎちゃう……美味しいから!」


『……ワシャワシャ……ワシャワシャ、ポンッ』


「よしっ終わり!」


 照れ隠し……? 最後に何故か、私の頭を叩いて……。


『バッシャーン!』


 サユ姉ちゃんがお風呂から桶でお湯をすくって、泡まみれの私の頭に掛ける。


『バシャ、バシャ、バシャ、バシャ!』


 何回も。


「ゴホッゴホッ! もうっ、掛ける時は言ってよ! 口にはいったじゃない!」


「いっつも、ポカーンと口を開けているからだろう? さあ、早くお湯に入りな」


 私の抗議はあっさりとスルーされて……両脇を抱えられて、「えいっ」っと投げられる。


 小さい放物線を描いて……。


『バッシャーーーーン!!』


 ——お風呂のなかに落ちる。


 落ちる前に見た、サユ姉ちゃん……少しだけ嬉しそうだった。


 素直じゃないなー。


『ブクブクブクブク……』


 息をはき出しながら沈む私、……落ち着いて底を蹴ってお湯から飛び出す。


「ぶはっ! はーー」


 顔を出して息を吸う。

 大人が立ってちょうど、肩ぐらいまでお湯がある。

 背の低い私には足が届かない……。

 みんなが、お風呂好きなのはいいんだけど、私にはちょっと大きいのよね……。


「はーー、はーー」


 お湯から顔を突き出して泳ぎ、大きな岩を掴む。

 窪んだ丁度いい所を見つけて私は座る。


「ふーーーー、いいお湯だ」


 肩までお湯に浸かり、ビヨーンと足を伸ばし目を瞑り、おっさんくさいため息をつく。

 チラッとサユ姉ちゃんの方を見ると、頭を洗い始めている。


 うーーん? 湯気に多少隠れてるけど……ぶるるん……ぶるるんと……。

 やっぱり、何回も見てるけど……すごい。

 けしからんっ! 何食べたらあんな大きくなるの!?


 私はじーっと、ゆさゆさと揺れるサユ姉ちゃんを見て、「いい事を思いついた」と、小さい声でニヤリと笑い……唱える。


「友よ、私の声を聴け。力を貸して。一人ぼっちの隠れんぼ(アローンハイドシーク)


 精霊術で、私の存在はだんだん希薄になっていき……気配が消える。


 ——よし、と心の中でつぶやいて、静かにゆっくりと、ゆっくりと湯船から上がる……。


 ソロソロと、私はサユ姉ちゃんに近寄る……もちろん呼吸も止めて。

 そうとも知らずに頭を洗っているお姉ちゃん……。

 にひひ。ついつい我慢しきれず笑いがでる。


 後、その距離一メートル……いけるっ! 私は、そのたわわな二つの果実に突撃しようとするが……。


「リリー、そこにいるでしょ? 馬鹿ね、バレバレよ」


 ——えっ? なんでわかるの? どうして!? 焦る私の気持ちを遮るように。


「そりゃ、いきなりリリーの気配が消えたら警戒するよ。ほら、動揺して術が解けかかってる」


 サユ姉ちゃんは変わらず頭を洗っている。


 くっ、ここまで来て、諦めるなんて!

 しかし……その後ろ姿には……隙がないっ!

 流石、里の二番目の戦士!

 えーい! ままよっ!


 ——私は突撃するっ! 揉み揉み大作戦発動だっ! いけいけいけ!


 後ろから抱きつく形で、揉み揉みしようと手を最速で伸ばす……と、『ガシッ!』っと掴まれる。


「甘いなリリー……。気配を残して、消すべきだったな」


 意味不明な言葉を言い、頭から流れる泡の隙間から右目で私を見る。

 片手で掴まれた両手首はビクとも動かない。

 悔しくて、ツーンと私は唇を尖らして……尖らして……真正面から見てしまう。


 サユ姉ちゃんの裸を。


 綺麗だな、なんて思ったその時。


 ヒュンッと視界が一瞬で回る。


 クルクルと回転する景色。


 あれれ?


 空高く投げ飛ばされた私はそのまま落ちて……。


『バッシャーーーーーーンッ!!』


 さっきの比ではない、しぶきを上げて沈む。

 

 もうっ、ギャグが通じないんだから……。


『ブクブクブクブク……』


 底を蹴り、また浮き上がる。


「いったーい。もう、サユ姉ちゃんやりすぎ」


 バシャバシャと泳いで岩を掴む。


「ん? そこまで力は入れてなかったのだけどな」


 泡を流したお姉ちゃんは、何事もなかったようにパチャッとお風呂に入って、隣に来て座る。


「人を二回も投げ飛ばして、よく言うよ」


 私は、サユ姉ちゃんを見て悪態をつく。

 

「はっはっはっは。でも、なかなか良い精霊術だったぞ、理を理解し始めている」


「そんなん言ったって、すぐお姉ちゃんにはバレちゃったし……」


 お姉ちゃんは笑った後、真面目な顔をさして私に聞く。


「……リリーは今、レベルはいくらだ? 私たち龍人族はいくら神血の災厄(ディザイコル)を討伐しても上がらないからな」


「……八だよ」


「そうか、それは自然とわかるのかい?」


「なんか、声が聴こえる。上がる時に」


「なるほど……また……、討伐に行きたいかい?」


 私は思い出す……神血の災厄(ディザイコル)討伐。

 無理やり、おじいちゃんとサユ姉ちゃんにお願いして連れて行ってもらった。

 それは、大きな赤いツノを持ち、二本足で立つ牛。ミノタウロスタイプのディザイコルだった。

 

 最後はおじいちゃん……、団長がトドメを刺し勝ったけど……何人もの仲間が倒れ、私も大怪我を負った。

 

 怖い。


 ——だけど、もっと怖いものがある。


「行きたい」


 私はバチャンと音をさせて、サユ姉ちゃんと向き合い言う。


「今度の討伐にまた、連れて行って」


 お姉ちゃんは言う。


「北に一体みつかったらしい。団長はそれを確認しに今、北に飛んで行っている……でも、リリー。まだ君の、力じゃ足手まといなのよ。神血の災厄(ディザイコル)を狩るのが私たち一族。まだまだ……リリー、君は弱い」


 分かっている。だから、私は用意していた言葉を使う。


「じゃあ、私と勝負してサユ姉ちゃん。勝ったら……討伐に連れて行って」


 私の言葉は、空にきえることなくとどまり答えを待つ。

 それは、上手くなんて行かない、だけど、だから考える。

 

「お姉ちゃんが、考えてるよりずっと強いよ私」


 ハッタリだとしても、少女は言う。


「秘策があるんだ」


ありがとうございました!

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