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第1章 第4話 冒険者

前回投票がありませんでしたので、今回も作者が選択肢を選ばせていただきました。

③「クソ面倒だが、俺が何とかする。お前はお嬢さんを連れてここを離れろ」

で、ストーリーを進めさせていただきます。

 トールさんはファテリナお嬢様をチラリと見ると、深くため息をついて、


「クソ面倒だが、俺が何とかする。お前はお嬢さんを連れてここを離れろ」


 と、なんだか似合わないこと言い出したであります。


「どういう風の吹き回しでありますか」


「うるせえ」


 ブツクサと何か文句を言いながら、トールさんは周りにいる逃げ出す準備をしていた冒険者の方々、まあ十数名はいるでしょうか、に大きく声を上げました。


「おい、聞け!!ダンジョン案内所のトールだ!からっけつなお前らに耳寄り情報がある!」


 うるせえ!邪魔すんじゃねえトール!だの、おいクソ野郎金返せ!だの、大人しく受付でマスかいてろ!だのと、冒険者の方々から口汚い野次が飛び交います。


 ほんとお下品な方々であります。


 しかし、トールさんは余裕の笑みで、まあまあとそんな荒くれさんたちをなだめます。


「まあ聞け。モントレはたしかにヤバい。だがヤバいからこそ、その鎮圧には報償金が出る、ってのは知ってるか?」


 金、と聞くと目の色が変わるのは冒険者のサガでありましょうか。


 少しザワザワし始めました。


 しかし、当然中には命あっての物種だ!と叫ぶ方もいらっしゃいます。


 しかしトールさんはチッチッチッと指を振ります。


「状況が違う。いいか、このセーフポイントの維持にはべらぼうな金がかかるんだ。ここの結界石は最近取り替えたばかり。組合にしちゃあここを潰されるのは絶対避けたいことなんだ。つまりだな」


「ここを守りきりゃあ、報償金に色がつく……?」


 察しのいい人がそう呟きました。


 トールさんはニヤリとして


「そのとーり!5、6回穴蔵に潜ってもお釣りがくるぐらいの金が手に入るぞ!こんな割のいいクエストはねえ!俺は組合職員だ!ここで踏ん張った奴の報酬は必ず保証する!」


 おおお、とどよめきが広がり、よし、やってやるか、と乗る気になった方もいましたが、やはりまだしぶる方もいらっしゃいます。


 するとトールさんは、おもむろに自分の得物である大振りのグレートソードを振り上げ、地面に突き刺しました。


「逃げたい奴は逃げりゃいい。てめえの命第一も冒険者には大事なことだ。だがな、どデカイ報酬を目の前に、この程度の「冒険」もできねえ奴には冒険者を名乗る資格はない!そうだろ!?おめえら!」


 トールさんは剣を抜き、それを高く掲げました。


「さあ、勇敢な冒険者どもは俺に続け!剣を抜け!杖を構えろ!がっつり稼ぐぞ!」


 うおおおおおおおおお!と、冒険者の方々の雄たけびが蛍光の森に響き渡ります。


 まあ、何というか、ひいき目に見ても、盗賊団のボスに扇動された金目当てのごろつき集団の図、でありますね。


 とは言え、いざ動き出すとなると、彼らも一応戦闘のプロ。迫りくる大量のモンスターに備えて陣形を構築し始めます。


「ほんとによく回る口でありますね。報酬、大丈夫でありますか?」


 私の呆れ口調に、トールさんはニヤリと不敵に笑います。


「俺は別に嘘は言ってないぞ。俺が「そう思ってる」のは間違いないだけで、それをどう思うかはあいつらの勝手だ……それより、お嬢さん連れてとっとと行け。そんで戻ったら、ゼクトのおっさんに言っとけ。モントレからセーフポイント守ってやるから金庫開けて待っとけってな」


「さてさて、あのゼクト組合長が簡単に気前よく財布のひもを緩めるとも思えませんでありますが」


 まあ、とにかくここは一刻も早くお嬢様を連れて離脱であります。


「さあ、ファテリナお嬢様。ここはトールさんたちに任せて我々は――」


「いや。私も残ってみんなと戦う」


 たき火の炎に照らされて爛々と光る瞳を震わせながら、ファテリナお嬢様は真剣な表情でそう言い放ちます。


「お、お嬢様!」


 イゴールさんが慌てた様子でお嬢様をいさめようとしますが、聞く耳を持ちません。


 ……しかたありません。ここは少し厳しくいったほうがいいでありますね。


「お嬢様。はっきり言うでありますよ。足手まといであります。強さが問題なのではありません。あなたは冒険者じゃない。このダンジョンにはゲストとして足を踏み入れている立場であります。あなたの安全や命をあなた一人の思惑や決断で危険に晒すことは許されていないのを自覚しなさい、であります」


 このお嬢様は未熟で無鉄砲ですが、バカではないと思うであります。きちんと道理を解けば分かってくれる。


 しかし、理解と納得は必ずしも一致しないもの。お嬢様の決意に満ちた眼差しは変化を見せませんでした。


「私がわがままを言ってるのは分ってるわ。それでも、ここで背を向けるわけにはいかないとどうしても思うの。立場や未熟を理由にして……おじさんの言うような「この程度の冒険」もできない自分自身を認めちゃうと……きっと私の夢はここで終わってしまう」


 お嬢様は腰に提げるミスリルの剣を撫でます。


「私は冒険者になりたい。ずっと憧れてた。私はこの人たちのようにお金が欲しいわけじゃない。私が欲しいのは「未知」。まだ誰も足を踏み入れていない場所に行って、全てを見て、知りたい。未踏を踏み越えて、そしてそのさらに先へ。そして私は……いつか「英雄」になる」


 英雄になる。


 このお嬢様はそう言います。


 英雄。それは冒険者のある意味極地であります。金、名誉、未踏への挑戦。そのいずれかを、または全てを求めるのが冒険者というもの。そして、その全てを手にした者が「英雄」であります。


 危うい。このお嬢様を見ているとそう思います。


 どうしてもそう思ってしまうのは、経験則というフィルターを通してしか見れない私の色眼鏡、または老婆心なのでありましょうか。したり顔でお嬢様の邪魔をするのは、豊かな才能を持つ者の足を引っ張るだけの愚挙なのでありましょうか。


 トールさんが、お嬢様のそんな言葉をどういう風に受け取ったのかは分かりませんが、不敵にニヤリと笑いました。


「……いいだろう。お嬢さんは逃げずにここにいろ」


「トールさん!?」


「ただし」


 トールさんは、突然剣を地面に走らせ、真っ直ぐ線を引きました。


「戦うことは許さん。猫娘とここで見てろ」


「っ!で、でも!」


「お嬢さんはまだ冒険者じゃないだろうが。ひよっこにはひよっこなりの戦い方ってもんがある。退くのがダメなら見て勉強しろ。冒険者ってもんをな。こいつらが嫌という程教えてくれるだろうさ」


 トールさんはそれだけ言うと、踵を返して他の冒険者の方々のところに向かいます。


「と、トールさん!」


 私が慌てて追いかけようとすると、ポツリとトールさんが呟くのが聞こえました。


「……英雄なんてクソ神のおもちゃなんだけどなー……」


 ?……何を言っているでありましょうか……?このおっさんは。


 私が真意を問いただそうとすると、ちょうどその時、ガシャガシャと鎧の派手な音をたてながら数人の冒険者がセーフポイントに転がり込んできました。全身汗と泥にまみれてぜえぜえと荒く息をつきながらへたり込んでしまいます。


「てめえらか!モントレやらかした野郎どもは!」


「す、すまない……本当にすまない……」


 他の冒険者の方たちから飛び交うヤジに、真面目な青年といった面差しのやらかし冒険者の方は無念そうに唇を噛み、項垂れてしまいました。


「まあ、こいつらのことは後にして、そろそろお客さんのお出ましだ。ちょっとお前らどいてろ。こう木が多くちゃ、狭いわ暗いわで戦いにくくてかなわん」


 トールさんは、セーフポイント外で陣形を組んでいた冒険者の方々の前に進み出ると、おもむろに魔力を集中させ始めました。それを見て、周囲がざわつきます。


 ちょっ!いきなり魔法を使うつもりでありますか?!


「ちょっと辺りを掃除だ。『ファイアストーム』」


 トールさんの魔力が解放され、竜巻のような炎の渦が目の前の森を飲み込みます。


 ファイアストームは、攻性魔法の中でも中級魔法に属するものであります。連発はできない代わりに殲滅力には定評のある魔法でありますね。しかし、森の中で火の魔法ですか、そうですか。


 ゴオッという凄まじい熱風と立ち昇る炎の柱が、暗い森の中で荒れ狂っています。


 なんというか、思い出しますね。故郷の祭りでのキャンプファイアー。あれは楽しかったでありますねー(棒)。


「ばかやろう!森でいきなり火ぃつけんじゃねえよ!!」


 冒険者の方々の悲鳴のような怒号にも、トールさんはどこ吹く風。


 一瞬で木を燃やし尽くしてしまう魔法の炎の渦が収まった後、目の前の木々はすっかり焼き払われ、ちょっとした広場が出来上がってしまっていました。


 しかし、燃え残った周囲の木々の一部はまだメラメラと燃えて辺りを照らしているであります。


 トールさんはそれを指差してニコリと笑います。


「ほら、広くなったし、明るくなったろう?」


「ろう?じゃねえよ!このアホンダラ!こっちも燃えちまうじゃねーか!」


 見ると、出来上がった広場の奥に、モントレのモンスターの集団が戸惑ったように蠢いていました。あ、一部のモンスターが巻き込まれて焼きモンスターになっているようでありますね。


 トールさんはグレートソードをモンスターの方に向かって掲げます。


「そらお前ら、焼け死にたくなけりゃ、とっとと行って方を付けろ!あれだけ数いるんだ。魔核も取り放題だ!狩れ狩れぇ!」


「くそっ!おめえら!行くぞ!」


 トールさんの号令に、戸惑っていた冒険者の方々もそれぞれの武器を手に、一斉にモンスターの集団に向かって駆けだしました。


 揺らめく炎のオレンジ色の明かりの中、それぞれの得物を手にした冒険者たちとモンスターたちの戦いが始まります。


 ある者はスプリガンの首を飛ばし、ある者はヘルハウンドを風の魔法で切り裂きます。


 よく見れば、確かに4層にいるようなトロールやエヴィルウォーカーなどもちらほら見かけますね。


「あんな大きなモンスターもいるんだ」


 お嬢様がトロールを見て目を丸くしております。まあ、地上ではあんな大型モンスターは滅多にお目にかかる事はないでありますからね。


 冒険者より体躯で勝る、例えばあのトロールのような大型モンスターを相手取るには、複数人で当たるのが基本であります。


 例えば、壁役の戦士さんがトロールの丸太のような腕から繰り出される攻撃を盾でいなし、体勢を崩したところを他のアタッカー役の冒険者がヒットアンドアウェイで攻撃を加えるのです。分厚い皮膚を持つモンスターは一撃で仕留めようとすると、こちらに隙が生まれて大変危険なのです。


 などなど、老婆心ながらお嬢様に色々と解説していたのでありますが、彼女は炎の明かりの中で戦う冒険者の方々の姿を追うのに夢中で、私の話を聞いていたのか怪しいところであります。


「……どうですか。冒険者の方々の戦いぶりは」


 私がそう尋ねると、ファテリナお嬢様はフルフルと首を横に振ります。


「みんな強いね。でもこれは、私が憧れる冒険者の姿じゃないと思うな。でも」


 お嬢様は、フッと楽し気に微笑みました。


「みんなお金のために必死。でもどこか生き生きとしてる。これも、冒険者、なんだね」


 ……そうでありますね。冒険者の数だけ、それぞれに事情があり、夢があり、野望があります。


 生きる道としてこの穴蔵の中で戦うことを選んだのです。どんな理由であれ、命を賭して戦う姿は、それだけで美しいと私は感じてしまうのであります。


 と、燃えさかる森の中で戦う冒険者の方々の戦いぶりを眺めていましたが、彼らから離れてこそこそととこちらへと戻って来る一人のおっさんの姿を捉えてしまいました。


 トールさんであります。いやー参った参ったと頭をガリガリと掻きながらカラカラと笑います。


「……何をしてるでありますトールさん。あなたが焚き付けた冒険者の皆さま、まだ一生懸命戦ってるでありますけど?」


 トールさんは腰をトントンと叩きながら、わざとらしく顔をしかめるであります。


「いや。腰がな?久しぶりにハッスルするとダメだな。ここは若い者に任せよう」


 やっぱり、この人クズであります。


「おじさん、大丈夫?」


 ファテリナお嬢様が心配そうにトールさんを見つめます。いや、そんなん信じるなよ、であります。


「大丈夫だ。いいかお嬢さん。負傷などで戦いの足手まといになると判断した場合は躊躇することなく後退することだ。決して仲間の邪魔だけはしちゃいけないぞ」


「なるほど!わかった!」


 すがすがしい程の詭弁でありますね!


 ……トールさんは普段から極度の面倒臭がりで、余計な面倒ごとからは全力で逃げようとする怠惰が服を着て歩いているような人であります。


 ですが、以前、この人の戦う姿を目にしたことがあります。


 おそらく本気ではなかったでありましょうが、私のような者にも見抜けた事があります。


 このおっさんは、強い。おそらく、ここにいる誰よりも。


 ある人の言葉を思い出します。


 ――あやつは底が見えぬ。その性根も、その得体のしれない強さも含めてな――


「はー、早く帰って酒飲んで寝たい」


 小さくそうつぶやいて欠伸をするトールさん。


 ……まあこの人は、ダンジョンで暴れるよりも、案内所の休憩室でダラダラとサボってる方が似合っているでありますよ。


今回は選択肢はありません。

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