第1章 第3話 蛍光の森
前回に引き続き投票がありませんでしたので、作者が選択肢を選ばせていただきました。
③「まあ、いいんじゃねえか?3層の入り口からちょこっと覗くぐらいならさ」
が選択されたとして、お話を進めます。
「まあ、いいじゃねえか?3層の入り口からちょこっと覗くぐらいならさ」
などと、トールさんがお嬢様の味方を始めます。
「斥候が得意な猫人族のお前さんがいれば、不測の事態はそう起こらんだろうし、お嬢さんには俺がつく。そこの龍族の兄さんもそこそこやれるみたいだし、めったなことは起こらんだろうぜ」
それを聞いたファテリナお嬢様は、パァっと顔を輝かせてトールさんを見上げます。トールさんはお嬢様に向けてぐっと親指を立てて、歯を光らせながら笑います。
なんでありましょうかね。
子供にいい顔をして甘やかすばかりで株を上げる父親に対して、躾のために厳しくしているだけなのに一方的に嫌われる母親の苛立ちって、こんな感じなんでありましょうか。
って、我々が夫婦みたいな例えは、想像だけでも気持ち悪すぎでありますね!おえ。
「……はあ。しょうがないでありますね。ですが、いいですか?くれぐれも勝手な行動は控えること。いいでありますね?」
「うんっ!分かったわ!」
ピョンと立ち上がり、嬉しそうにクルクルと体を躍らせるファテリナお嬢様。
それを見ながら「よかったなお嬢さん」とウンウン頷いているトールさん。そんな彼にお嬢様は「味方してくれてありがとうねっ!」と愛嬌のある笑顔を振りまいております。
うーん。なんでありましょう。
とりあえず、このおっさん、殴りたい。
2層に関しても、出現モンスターや構造は1層とほとんど変わりがないので、同じような調子で難なく踏破してしまいました。
今我々は、3層へと続く螺旋スロープの入り口に立っています。
周囲には、3層に向けた準備をしている冒険者の方々がたくさんいらっしゃいます。
まだ上層とはいえ、3層以下はなお一層の警戒が必要となるのです。
私は、皆に装備や回復薬などのアイテムの点検を促します。それが済むと、フォーメーションの再確認であります。
「いいでありますか。今までと同様、基本私が先行、中衛としてイゴールさん。そのサポート兼遊撃役としてファテリナお嬢様。殿はトールさんという感じで進みます。ただし、3層は今までのように両端が通路の壁で遮られているというわけではないので、今までのような縦軸の連携だけではなく、常に円陣であることを意識して下さい。基本、円陣の両端を私とトールさんが受け持ちますので、ファテリナお嬢様とイゴールさんは陣を抜けてきた敵を殲滅することだけに集中すること。いいでありますか、私とトールさんのフォローは気にしなくていいでありますから、とにかく突出せず、目の前の敵の殲滅だけを考えて下さい。よろしいでありますね?」
私がお二人にそう言うと、イゴールさんは深く頷き、ファテリナお嬢様はふんふんと顎に手を当てて何やら考えているようでありましたが、私の目を見ると、
「うん!分かったわ!なんとなく!」
と、満面の笑みで答えました。
……大丈夫でありましょうか、この子は。
「大丈夫だっての。俺たちが居れば何とでもなるだろ。ほれ、さっさと行くぞー」
トールさんは、首をコキコキと鳴らしながらさっさとスロープを降りていってしまいます。
「しゅっぱーつ!」
お嬢様は、元気溌剌といった感じの軽い足取りでそれを追いかけ始めました。
「ま、待つでありますよ!」
仕方なく、私とイゴールさんも後に続きます。
まったく、一番のベテランがあんな調子でどうするんでありましょうかね。
螺旋構造の長いスロープを下りきると、目の前に3層の風景が広がります。
「わあ……」
ファテリナお嬢様が、思わずため息をもらします。
「ここがファナトリア第9未踏破領域第3層、通称「蛍光の森」であります」
その通称通り、この階層の特徴はこの層に住むルシオラと呼ばれる大量の蛍の光に彩られた、漆黒の森であるということです。
ゆらゆらと輝く蛍火に彩られた夜の森の光景は、それはそれは美しいものであるのは間違いありません。
ここが地上で、モンスターがはびこっていなければ、恰好のデートスポットでありましょうね。
私は、ランタンに火を入れ、耳をそばだてながら周囲を観察します。あちらこちらで冒険者がドンパチやってますね。まあ、いつも通りであります。
「ねえ!すごいわね!ここどうなってるの?なんでダンジョンの中に森があるの?」
ファテリナお嬢様が興奮した様子で尋ねてきます。
「どうして森が、ということに関しては、完全に謎でありますが、構造としてはこの階層は大きく二つのフロアに分かれているであります。一つのフロアが、まあとにかくだだっ広いのですよ。およそ、ファナトリアの南地区がすっぽりと収まる広さだと言われているであります。見ての通り、天井も見えないほどの高さがありますし。そこになぜか森ができているのでありますよ」
「へえええええ」
キラキラと瞳を輝かしながら、光が乱舞する森の様子をうっとりと眺めているであります。
「満足したでありますか?じゃあそろそろ――」
「冗談。もうちょっと探索させて!」
「……で、ありましょうね。ではとりあえずレストポイントを目指して進むとしましょう。トールさん。お願いしますでありますよ」
「あいよ」
私たちは暗い森の中を行軍し始めました。足元は土が柔らかく、大小の張り出した木の根で足が取られやすくなってます。この足元の悪さと、視界の悪さ。これが初心者殺しと呼ばれる大きな要因の一つであります。
「……この先に何かいるでありますね。注意を怠らないように」
私はモンスターの気配を感じ、皆に注意を促します。
木々の間をゆっくりと進むと、少し開けた広場に出ました。そこには、鮮やかな緑色に光る数体の木の人形のようなモンスターが踊っているかのようにゆらゆらと体を揺らしながらたむろしております。
スプリガンでありますね。慎重に対処すれば、どうってことはないモンスターで――
「わあ!なにあのモンスター!すっごく可愛い!」
などとファテリナお嬢様は興奮冷めやらぬといった様子で「わーい」と飛び出していってしまいました。
「お、お嬢様!?」
イゴールさんが思わず悲鳴のような声を上げます。
あのバカお嬢様は!
「ちょっ!ま、待つでありますよ!トールさん!あのじゃじゃ馬娘様を止めるでありま――」
見ると、お嬢様のすぐ後ろを「わーい」と同じようにはしゃぎながら付いて行くおっさんの姿が。
「わーいじゃねーよ、おっさん!!!!」
もう殴る。もう殴るでありますよ。あのおっさんの鼻面をへし折ってやるでありますともっ!
「大丈夫?おじさん。ごめんね、私のせいで」
「いやいや、大丈夫だお嬢さん。それより悪かったなあ。怖いもん見せちまって」
「いやー、怖かったねえ」
そう言って、お嬢様はケラケラとひどく楽しそうに笑っています。
私たちは、スプリガンがいた広場より、少し進んだ先にあったレストポイントにたどり着き、たき火を囲んで思い思いに腰をおろしていました。
私たちの外にも、結構な数の冒険者の方々が体を休めておられます。
ちなみにレストポイントとは、光と闇の神ケヘドの加護を受けた結界石を配置して、モンスターを寄せ付けなくしている、まあいわゆる安全地帯でありますね。
さらにちなみに、結界石は寿命がある上に、ひじょーに高価、というか結界石を作成するケヘドの司祭様にお支払いする喜捨金がとても高額でありますので、それを維持しなければならない冒険者組合にとっては悩みの種の一つであったりなかったり。
「分かっただろ?3層のモンスターより、よっぽど猫型モンスターの方が恐ろしいんだ」
「誰が猫型モンスターでありますかっ!!!」
「ダンジョンで冒険者をボコボコにするような奴は、モンスターで十分だろがっ」
トールさんはそう言って、自分の痣だらけの顔を指差します。
「自業自得でありましょう!まったく!」
スプリガンを蹴散らした後、トールさんをボコボコにしてからお嬢様共々、散々に説教してやりました。未熟なお嬢様に範を示さなければならない立場なのに、一緒になって迂闊な行動を取るなんて、年長者失格なのであります。
プンプンを怒りながらたき火に薪をくべる私に、ファテリナお嬢様がにじり寄ってきます。
「でも、やっぱりエヴァ姉さまは強いね!動きなんて早過ぎて、私じゃ全然目で追えないもん」
お嬢様は、そう言って尊敬がこもった目で私を見上げてきます。それを聞いて、私の耳が思わずピクピクと動いてしまいます。
……姉さま、でありますか。
「ま、まあ、お嬢様もかなりの素質を持っていると思うでありますよ?これから徐々に冷静さと慎重さを身に付けていけば、私なぞに追いつくのはすぐでありますよ」
「ホントに!?やったっ」
胸の前で両こぶしを握って、やけに嬉しそうに笑うファテリナお嬢様。
「エヴァ姉さまに追いつくのは大変だろうけど、私、頑張るねっ!」
そう言って無邪気に微笑むお嬢様に、何やら胸がキュンキュンしてしまいます。
「わ、私に教えて欲しいことがあれば、なんでも聞いてくるでありますよ。どんなことでも教えて差し上げますからねっ。えへ、えへへへへ」
チョロっ、と小さく呟いたトールさんの顔面に薪を投げつけてやってから、私とお嬢様でしばらく冒険者談義に花を咲かせていたのですが、程なくして。
「ん?なんか騒がしいな」
と、トールさんが剣を引き寄せて周囲を見渡し始めました。
……確かに、ちょっと何か様子がおかしいでありますね。
妙なざわつきを感じ、私は耳をそばだててみます。何やら遠くからドドドド、という地鳴りのような音が聞こえるでありますね……
やがて、
「た、大変だ!モントレだ!モントレが起こったぞ!」
と、一人の冒険者が血相を変えてレストポイントに転がり込んできました。
「モントレ!?」
レストポイントにいた冒険者の方々が騒然とし始めます。
「よ、4層のモンスターも混じってるって話だ!まっすぐこっちに向かってるぞ!」
「っち。モントレかよ」
トールさんが舌打ちをしました。非常に忌々しげであります。
内心、私も同じ気持ちであります。
「も、モントレ?モントレってなに?」
事情が分からないファテリナお嬢様は、騒然とした空気に戸惑っている様子であります。
「モンスタートレインでありますよ。モンスターから逃亡を図った冒険者が、逃げる途中で別のモンスターの群れを引きつけて、その群れがさらにモンスターを引き寄せるという悪循環が起こることがあるのであります。これを私たちはモンスタートレインと呼んでいます。逃げまどう冒険者に引き連れられたモンスターの大群が、まもなくこちらにやって来る、そういうことでありますね」
「……そんなことが」
ファテリナお嬢様は、恐怖というよりも、好奇心と戦意に満ちた高揚感で、危ういぐらいに瞳が輝いておりました。
「お、お嬢様。早くここから立ち去りましょう。危のうございます」
お嬢様の様子に危機感を抱いたのか、イゴールさんが彼女にそう促します。当然でありますね。
「で、でも」
「ダメでありますよ。お嬢様方は速やかにここから離れるであります。問題は私たちですが」
私はトールさんに顔を向けます。
「私たち案内所所員は、このレストポイントの維持と安全を確保しなければならない立場であります。どうするでありますか?トールさん」
私が尋ねると、トールさんはボサボサの髪をガリガリと掻きむしります。
①「お嬢さんの安全が最優先だ。全員でずらかるぞ」
②「知るか、お前なんとかしてこい」
③「クソ面倒だが、俺が何とかする。お前はお嬢さんを連れてここを離れろ」
④「イゴール君、君が生贄だ」
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