第1章 第2話 おてんば娘様
前回の投票数が0という結果でしたので、作者が独断と偏見で選択肢を選ばせていただきました。
②「おい、ふざけんな。なんで俺がそんなもんに付き合わにゃならん」が選択されたとして、お話を進めさせていただきます。
トールさんは、ゼクト組合長をジロリとにらみます。
「おい、ふざけんな。なんで俺がそんなもんに付き合わにゃならん」
めんどくせぇ、などと呟きながら耳に小指を突っ込み、ソッポを向いてしまいます。
「だよねっ!ごめんね、おじさん。偉い人ってすぐ無茶振りするからダメだよねー」
ニコニコと笑顔でそんな事を言い放つファテリナお嬢様。
それを聞いたゼクト組合長のこめかみにピクピクと青筋が浮かぶのが見えました。このお嬢様の神経はロープ並みでありますね。
「……エヴァはどうだ?」
怖い笑顔のゼクト組合長は次に私に尋ねてきました。
……まあこのことに関しては、トールさんと同じ意見でありましょうか。
案内所の業務内容ではないのはもちろんのこと、危険なダンジョンにそんな観光気分でのこのこと来られては、正直なところ甚だ迷惑なのであります。不慮の事故でもあったらどうする気でありましょうか。
困っている方を助けるのはやぶさかではありませんが、遊び半分の金持ちの小娘様に付き合っていられるほどこちらも暇ではないのであります。
「まあ、あまり気は進みませんでありますかね。というか、観光なんてやめた方がいいと思うでありますよ?たとえ1層でも素人がのこのこと足を踏み込めば、あっという間にあの世行きでありますし」
ダンジョンの中は常に死地であります。高レベルの冒険者であっても、弱いモンスターしか出現しない1層ですら気を抜くことはありません。
ダンジョンでは何が起こるか分からないのであります。
なんでよっ!大丈夫よ!と、荒ぶるお嬢様を龍族のお兄さんが必死になだめています。なるほど。けっこうなおてんば娘様であるようですね。
ともかく、私の言葉にゼクト組合長は頷きました。
「そうだな。もっともだ。……まあ、その点に関しちゃ不安は少ないっちゃ少ないんだが……」
「?」
私が首を傾げていると、組合長は私どもに手招きをして呼び寄せました。そしてコソコソと耳打ちをしてくるであります。
「お前らの言い分は分かるし、いきなりだったのも謝る。こっちもバタバタしててな。そのかわり、だ」
組合長は私たちにボソボソと報酬の話を始めたのでありまして……。
それを聞いた私とトールさんは目の色を変え、ドンッと胸を叩き、高らかに宣言したのであります。
「「ここのダンジョンの案内は任せてくれ!」であります!」
薄暗く、冷たくもねっとりと肌に張り付く様な湿気を帯びた空気と、多くの生き物が蠢く気配が絶えることがないダンジョン特有の不気味な雰囲気こそあれ、1層に関しては、別段特別な特徴があるわけではない石造りの遺跡の内部といった感じであります。それに特に複雑な迷路状の構造でもありません。
多くの冒険者によって、暗いダンジョン内の光源となるヒカリゴケの繁殖も進み、罠の類もとっくの昔に解除されてしまっているので、ダンジョンとしての危険度は低いのであります。
出現モンスターも、地上で見かけるような低レベルの個体しかいませんので、初心者冒険者でも踏破することは容易でありましょうね。
しかし、先ほども言いましたように、ダンジョンは死地であります。
ダンジョンは、どこまでも暗く、深く、神の気まぐれ次第で思いもよらない悲運に見舞われることもあります。
そしてモンスターという、人を容易に殺害できる爪や武器を持った存在が、熱烈な殺意を持って無慈悲に襲い掛かってくるのでありますから。
「……なのでありますけどねぇ……」
1層の狭い通路に出現したゴブリンに襲い掛かっているファテリナお嬢様の様子を見て、私は思わずため息をつきます。
「たっ!ほっ!やぁーー!」
ファテリナお嬢様は、やたらと値の張りそうなミスリル製と思しき片手剣を振り回しながら、逃げまどうゴブリンに軽快なステップで斬りかかります。
ギィギィと叫びながら逃げるゴブリンに素早い動きで肉薄し、その背中にお嬢様は容赦なく剣を振り下ろします。剣は見事にゴブリンの背中を捉え、短い悲鳴と共に、憐れゴブリンは前のめりにドオッと倒れて絶命してしまいました。
出現した5匹のゴブリンを一人で瞬殺です。
「やった!」
ミスリルの剣を高く掲げて、頬を紅潮させながら、会心の笑みを浮かべるファテリナお嬢様。
そんな彼女に、龍族のお兄さん、名をイゴールというらしいのですが、彼が「さすがです、お嬢様」と熱心に拍手などを送っています。
「どう思うでありますか?トールさん」
周囲の警戒を行いながら、私はトールさんに尋ねてみました。
「何が?」
鼻をほじりながら呑気な調子で答えるトールさん。
……あんたも真面目に仕事しろ、であります。
「……あのお嬢様でありますよ。ただ無鉄砲で世間知らずなおてんば娘様だと思っていたでありますが……」
「まあ、そうだな。それなりの戦闘訓練を受けている感じだな、ありゃ。思ったより楽な仕事になりそうでなによりだ」
そうでありますね。私も同じような感想でありますよ。まあ、あなたはどっちみち仕事してないようでありますけど。
お嬢様は、次に出現したアルミラージに狙いを付けて襲いかかっていました。
アルミラージはウサギ型の小型モンスターで、これも地上で見かけることもあるような低レベルモンスターでありますが、その鋭利な角と俊敏な動きを持つ、決して油断していい相手でもありません。
「ほっ!やあっ!このっ!」
最初こそ、アルミラージの素早い動きに対応できずに剣を空振りさせていたファテリナお嬢様ですが、次第にその速さにも対応を始めてしまいます。
しかし、アルミラージが、剣を空振りして体勢を崩したお嬢様の脇腹めがけて、鋭利な角を武器とした必殺の体当たり攻撃をしかけました。
私は少しまずい、と思いましたが、お嬢様は素早く体をひねり、反転させながらその攻撃をさけると、反動を使って空中のアルミラージの体を剣で見事に捉えました。
剣をもろに食らったアルミラージは一瞬で絶命です。なかなかお見事であります。
動きは荒削りで、周囲への目配りができていない感じもしないではないですが、相手の特徴をすぐに掴んで瞬時に対応する様は、天性の素質を感じさせるものであります。
勘所もいい。よほどのことがない限り、この1層で不覚を取ることはなさそうであります。
まあ、仕事が楽に越したことはないであります。商売の神、トトスよ。楽なお仕事でいっぱいのボーナス、感謝いたしますでありますよ。
「それに」
トールさんは、目を細め、じっとお嬢様を凝視し始めます。
なにやらやけに念入りにじっくりと見つめておりますね。
なんでありますか。視姦でありますか。ロリコンでありますか。気持ち悪すぎますね、このおっさんは。
「……ありゃ、英雄の器かもな」
「……は?」
英雄?何を言っているでありますか、このおっさんは。
英雄とは、一つの無踏破領域の全領域を踏破したと認められた者に贈られる称号であります。その称号を持つ者はロディニア大陸で、今現在12名ほどしかいないはずであります。
「あのお嬢様がいつか英雄になるって言ってるでありますか?何を馬鹿な……」
「ふーむ。かなりいいとこのお嬢さんてことだし……こりゃ、色々恩を売っておいても損はないかもな」
トールさんはニヤリ、とゲスい顔を浮べると、こちらのことはお構いなしに、さっさとお嬢様の方に近づいてあれやこれやとアドバイスを始めます。
「お嬢さん、ダンジョンのモンスターには魔核という器官があってな。これを取り除かないと死体が残って腐敗を始めるんだ。取り出してやると、死体は灰になって消えちまう」
「あ、知ってる。たしか、魔核を取り除くのはダンジョン内のエチケットのようなものだって聞いた事があるわ」
「そうだ。それに魔核は冒険者組合で買い取ってくれるから、貴重な収入源にもなるわけだ。さて、魔核はだいたい生き物の心臓の位置にあるから、そこから取り出すんだ。お嬢さん、動物の解体とかの経験はあるか?」
「な、ないけど……」
「それじゃあ、俺がちょっと手本を見せるから、やってみろ」
などと、あの面倒くさがりのトールさんが、えらく甲斐甲斐しく世話を始めるじゃありませんか。
何を企んでいるのでありますかね。あのおっさん。
トールさんは、軽く手本を見せたあと、おっかなびっくりな手つきで何とか魔核を取り出したファテリナお嬢様に「いいぞ!」だとか、「才能あるな!」とか褒めちぎってるでありますよ。
宴会場の太鼓持ちにでも転職すればいいんじゃないでありますかね。
「ふーん、魔核ってこんな感じなんだ」
わりと綺麗なんだねー、と言いながらお嬢様が鈍く黒光りする魔核をためつすがめつ眺めていると、ふと何かを思い出したように言いました。
「あ、そう言えば、最近話題のファナトリアの輝石ってこの辺りで採れたりしないのかな」
「ファナトリアの輝石、ですか。そう言えば、そんな宝石が最近よく出回るようになったと聞きますねえ」
上流階級の方々の中で最近もてはやされるようになった宝石らしいのですが、どこで産出されるものなのかは秘匿されているらしく、まったく情報がないとのこと。うわさでは確かにダンジョン由来の鉱物ではないか、と言われてるでありますね。
まあ、そんな高価な宝石には一生縁がなさそうでありますから、どうでもいいでありますけど。
「その辺に落ちてたりしねえかなあ。一攫千金なのになあ」
落ちてるわけないでありましょうに。
そして、猫人族の優れた聴覚は、その後に続くトールさんの小さな呟きも漏らさず聞いてしまうのです。
(フローレンスの店にいたなあ、宝石好きの姉ちゃん。あのお姉ちゃんにプレゼントすりゃ一発で……うひひひひ)
もげろ、であります。
冒険者の必須技術であるマッピングを軽く教えながら、1層を特に問題もなく踏破した私たちは、2層へと通じる螺旋スロープの入り口に差し掛かったであります。
ここまでの道中において、お嬢様に関しては、強さという面では問題はありません。私が少し意外だったのは、気弱そうな印象だった従者である龍族のイゴールさんの戦いぶりもなかなかに堂に入ったものだったことでありましょうか。
ハンドアックスを巧みに振るって、お嬢様に近づくモンスターを蹴散らしていました。
それを素直に褒めると「同じお師匠様に教えを受けましたので……恐縮です」と、細長い舌をチロチロと恥ずかしそうに口から出し入れしておりました。
なかなかに謙虚な好青年であるようです。
さて。
「どうでありますか?大体のダンジョンの雰囲気はつかめたんじゃないでありますか?」
私がそう言うと、ファテリナお嬢様は、うーんと首を傾げました。
「ねえ、このダンジョンってずっとこんな石造りの遺跡みたいな感じが続くの?」
「いいえ。これは2層まででありますかね。3層からはまた少し趣が異なってきますですよ」
「本当?!じゃあ、そこまで行きたいっ!」
などと言って、目をキラキラさせるファテリナお嬢様。
3層までですか……
これはどうしたものでありますかね。
「ファテリナお嬢様。3層は初心者冒険者にとっての最初の鬼門と言っていい階層であります。お嬢様は強さにおいては申し分ありませんが、いかんせん、ダンジョン内の戦闘や行動に関しては経験が無さすぎます。今日のところは、このあたりで引き返した方が賢明であると思うでありますよ」
私の進言に、ファテリナお嬢様は案の定、不満たらたらのふくれっ面になったであります。
「えー……でもせっかくここまで来たんだもん。どんな感じなのかだけでも見てみたい」
といって、ぷうっと頬を膨らませて膝を抱えるようにしゃがみこんでしまったであります。
「お、お嬢様。お二人にあまり迷惑をかけては……」
「やだ」
あー。これはまずいでありますね。
買い物中に甘いお菓子をねだる子供のような駄々のこね方であります。こうなると厄介なんでありますよねえ。子供って。
そんなファテリナお嬢様の様子を見ていたトールさんがいいました。
①「猫娘の言う通りだ。ここは一旦引き返した方がいい」
②「嫌ならお前だけ帰ってもいいぞ、猫娘。後は俺が引き受けてやる」
③「まあ、いいんじゃねえか?3層の入り口からちょこっと覗くぐらいならさ」
④「何はともあれ、おっぱいを見せろ。話はそれからだ」
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