第1章 第17話 7層の怪物
前回は選択肢の投票はありませんでしたのでこのままストーリーを進めます。
翌朝。
私たちは「白霧の山」の麓に広がる湖のほとりにやってきていました。
ファナトリア第9未踏破領域第6層、通称「濃霧の湖」。
7層に向かうにはこの湖を超える必要があるのですが、その名の通りここは常に濃い霧が立ち込めておりまして、船を使ってむやみに先に進もうとしても、すぐに方向感覚が狂わされて迷ってしまうばかりであります。
しかも、ここは4層と同じように所々にループポイントが存在しており、正確な航路を辿らないと延々に霧の中を彷徨う羽目になりかねない恐ろしい場所なのであります。
しかし悲しいかな、ここも所詮は踏破されてしまった階層。今では魔力によって光る魔光石が設えられた石柱が7層へと続く航路に複数建てられておりまして、それが船を導く灯台の役割を果たしているので迷いようがないのです。
船はそれぞれの冒険者が「白霧の山」から伐り出した材木で簡易な筏を作ることもありますが、湖の「渡し」を商売にしている冒険者の頑丈な船や大きな筏を利用することが多いようであります。
さて、エロクソオヤジことトールさんの「魅了」によってケティさんは色々と話してはくれましたが、結局のところデニスさんや他の冒険者の方々の失踪の原因をはっきりと特定するには至りませんでした。おそらく、ケティさんの言う7層にいるという強力なモンスターが何か関係していると思われますが……
とにかくそのモンスターがどういう存在であるのか確認はしておく必要はあると判断した私たちは、このまま7層へと向かう事にしました。約一名のおっさんが行きたくないだの帰りたいだのとブツブツ言っているでありますが。
「ともかくも、表向きの依頼を達成するには『七光の雫』が必要なのでありますからね。行かざるを得ないであります。帰ってもいいでありますが、トールさんの分の『七光りの雫』は知らないでありますよ」
こう言ってやると、トールさんは渋々ながらも我々に付いて7層まで向かうことにしたようであります。ニナさんによると、あの「血まみれの処女神官」に頼まれてこのクエストの代行をすることになったようです。あの人に何か弱みでも握られているのでありましょうか?
私たちは、ケティさんに先導されて湖のほとりを歩いて行きます。ところが、それは7層への正規ルートがある皆が使う船着き場とはまるで逆方向で、位置的にはほぼ山の反対側に向かって進んでいるのでありました。
「……こっちでいいのでありますか?」
「そうよ。今さら嘘ついたってしょうがないでしょ」
ケティさんはそう言ってフンッと鼻を鳴らします。
今、ケティさんにはトールさんの「魅了」は掛かっていません。朝方にはもう効果は切れていたようですが、ウォレスさんに睨まれてはどうしようもないとばかりに素直に7層にあるという「巣」とやらに案内してくれることになりました。裏の仕事をしているような連中は特にウォレスさんの恐ろしさをよく知っているでありますからね。
ただし、いくつかの条件が。
一つ、ケティさん本人は「巣」の中には絶対入らない。
二つ。『七光の雫』は採取して持ち帰り、依頼を達成すること。
三つ。直接的に失踪事件とは関わりがないので官憲の手には引き渡さないこと。この三つであります。
「ついでにこのおっさんは私に近づけさせないで。ほんと気持ち悪い」
と、トールさんを睨みつけて接近禁止を希望したりも。その時のトールさんのショックを受けた顔がそれはそれは面白かったであります。プークスクス。
左手にそびえる「白霧の山」の山容を望みながら、しばらく湖のほとりを歩いていくと、山の方から微かにドドドドと水が落ちるような音が聞こえてきます。近くに滝でもあるのでしょう。
「この辺りでいいわ」
ケティさんは、我々の方に向き直ると、片手を腰に当てながら面倒くさそうな仕草で手に持った杖で自分の肩をトントンと叩きます。
「じゃあ始めるわよ」
「ほんとに言ってたようになるの?」
ファテリナお嬢様が興味深々といった様子で顔を輝かせております。
「まあ、見てなさい」
ケティさんはストレージから黒い袋を取り出しました。その巾着状になっている袋の紐をゆっくりと解いていきます。そして袋の口を開いていくと、中からなにやら淡く白銀の光が漏れ出てきました。
その時。
――ウオォォォォォォォン……――
霧深い「濃霧の湖」の奥から腹の底に響くような低いうなり声のようなものが聞こえてきました。
――ウオォォォォォオン……ウォオオオオオン……――
その不気味な声は、何度も何度も霧の奥から繰り返し聞こえてくるであります。
「な、なにこの声……」
我々がその不気味な声に戸惑っていると、やがてその声に混じるように、「バキキッバキキッ」という硬質な音が聞こえ始めました。
「あ、あれは……」
突然、霧の奥から薄い緑色に光る大型のトカゲ型モンスターがぬっと顔を出したかと思うと、すぐに湖にザブンと落ちてしまいます。水に入った瞬間、そのトカゲ型モンスターの体はバキキッという音と共に砕け、水の上に浮かぶ大きな緑色の結晶となってしまったであります。
その結晶の上を再び同じトカゲ型モンスターが姿を現し、同じように水に落ちて結晶化して次にやってくるトカゲ型モンスターの足場となっているのです。次々と姿を現すモンスターたちは真っ直ぐこちらへと向かっているようであります。
「そろそろいいかな」
モンスターの一団がそろそろ私たちがいる岸辺へと到達しようかという頃合いで、ケティさんは黒の袋の口を閉じ、ストレージへと収納します。すると、トカゲ型モンスターたちは突然ピタリと動きを止めてしまいました。
そしてしばらく辺りを伺う様子を見せていましたが、やがてノロノロと元来た方向に向き直ると全てのモンスターが再び霧の奥へと姿を消していきます。後に残されたのは湖に浮かぶトカゲ型モンスターの成れの果てである結晶の塊だけ。それはまるで橋のように霧深い湖の奥へと続いているのでありました。
「こういう具合よ。これを渡れば、7層への入り口へと辿り着けるわ」
「ほう!これは面白い!こんな湖の渡り方もあったのだな!」
「……さっきの黒い袋の中身は何なんだ?あのトカゲどもが好きな餌でも入ってるのか」
「うっさいハゲ。話しかけんな」
「……」
トールさんの質問に容赦ない言葉を浴びせるケティさん。ぐっと押し黙るおっさんの姿が面白すぎであります。もっとやれであります。まあ、それはともかく。
「……いや、本当に何でありますか?あの袋の中身は」
「ガストから預けられてるアイテムよ。何なのかは私も知らないわ。見た目はただの結晶の塊ね。「巣」にいるモンスターはこれになぜか引き寄せられるみたい」
「そうでありますか……それにしてもあのトカゲ型のモンスター。正規ルートではお目にかかったことがないモンスターでありますね。水に触れた途端に結晶化してしまうなんて聞いた事ないであります。しかも人に対してあまり害意を持っていない様子でした。変わったモンスターであります」
踏破された階層とはいっても、こういった未踏のルートがあったり、未知のモンスターがいる場合も数多くあります。問題はこの先、さらに下の階層へと抜ける道があるのかないのか、または4層のウッドゴーレムのようにやっかいなモンスターが存在しているかいないで、このルートが実用に足るかどうかが決まるであります。
使えるようであれば案内所でこのルートの情報を取り扱ってもいいでありますが……謎アイテムを使用しなければならなかったり、原因は分からないとはいえ、行方不明者を出すような可能性のあるルートを紹介するわけにはいかないでありましょうねえ。
「じゃあ早くこれを渡りましょうよ!」
ファテリナお嬢様が待ちきれないといった様子で湖に浮かぶ結晶の上に飛び乗りました。
「あ、これ、意外としっかりしてる。大人一人が乗るぐらいなら余裕みたい」
そう言ってピョンピョンと結晶を飛び跳ねるように先に進んでしまいます。
「お嬢様!勝手に一人で進んではダメでありますよ!」
お嬢様をたしなめつつ、私も結晶に乗り上げます。フワフワとした感触ではありますが確かに予想していたよりもしっかりしているようであります。
「じゃあ早く渡ってしまうわよ。この結晶、時間が経てば崩れちゃうみたいだし」
ケティさんに促され、私たちは「濃霧の湖」に掛けられた結晶の橋を渡っていきます。いつもの正規ルートの船上ではウォーフィッシュやホーンテッドイーグルなどのモンスターと出くわすことも多いのですが、この周辺にはモンスターの気配はしないであります。
「……なんだか妙な気分だな」
後ろを歩くトールさんがそうつぶやきます。
たしかに……霧深い湖の上を徒歩で歩いていくというのは、とても不思議な気分がするものでありますね。
結晶の橋を渡った先。
そこには霧の中に浮かぶようにそびえる巨大な岸壁がありました。
見上げても高さが分からないほどの巨大なその岸壁の下には、僅かに上陸できるような陸地があり、そこの岩壁には縦に大きな亀裂が走っていました。
見ると、何匹かの例のトカゲ型のモンスターがのそりのそりとその亀裂の中に入っていくではありませんか。どうやら、この先が「巣」に続いているようであります。
「あそこから7層に侵入するのでありますね?」
「そうよ。ただし、本当のところを言えば、はっきりと7層かどうかは断言できないわよ。構造は一緒だからまず間違いないとは思うけど」
聞けば、ケティさんはこの先で8層へと続く道は発見していないそうであります。どうやらここより上層である4層の「迷いの森」へと続くルートがあって、そこからいつも帰還しているようでありますね。
私たちはその亀裂の中へと侵入していきます。
大人二人が並んで歩けるといった程度の広さの亀裂の中を慎重に進んでいきます。
猫人族である私はある程度の夜目がきくのですが、ここはヒカリゴケが繁殖していないためにとても暗く、ケティさんが『灯火』の魔法で照らしてもらわないと進むのは困難なほどでした。
左右の壁は、最初は普通の岩壁だったのですが、進むにつれて次第に淡いパープルブルーに輝く水晶が岩壁に点在し始めました。
そして、それは段々と壁一面を覆う程になり、少し広めの広場に出た頃には、壁はもちろんのこと、天井から地面に至るまでびっしりと大小の水晶に覆われる程になっていました。
これは確かに7層の構造と同じであります。
ファナトリア第9未踏破領域第7層は『水晶迷宮』と呼ばれています。
7層からは出現するモンスターの強さが格段に上がり、踏破するにはそれなりの実力と覚悟が必要な階層であります。しかし、稀に希少な宝石などの鉱物をドロップすることがあることから、中堅以上の冒険者には人気のある稼ぎ場所となっています。
「見たところ7層みたいだな……だが、妙な気配がしやがる」
「ふむ……そうだな……」
辺りを伺っていたおっさん二人が妙にピリピリとした雰囲気を出し始めます。
……確かに、この先からなんだか嫌な気配がする感じがするであります。なんでしょうか、この肌にまとわりつくような気配は。
「この先よ」
ケティさんに案内されるまま、狭い水晶の洞窟を進んでいくと、やがてやけに明るい淡い紫色の光が溢れる大きな部屋の入り口へと差し掛かります。そこから中を覗くとそこには。
「わあ……すっごい……」
私たちは息を飲みます。
大きな部屋一面を覆う水晶の山。その部屋のほぼ中央部分に巨大な水晶の台座のようなものがあり、その上にその台座に負けないほどの巨体を横たわらせるモンスターがいました。
全身がぶよぶよとした丸みを帯びた体躯の持った巨大なトカゲ、といった雰囲気でしょうか。淡い緑色に発光させながら、ゆらゆらと長く太い巨大な尻尾を揺らしていました。
水晶の台座の足元にはおびただしい数のトカゲ型モンスターがたむろしております。
「あのモンスター……私たちは、勝手に『水晶魔龍』って呼んでるけど……あいつが流す涙が『七光の雫』なのよ」
ケティさんは杖を握りしめながら、気味の悪い物を見るように巨大モンスターを見やります。『水晶魔龍』ですか。確かに竜種っぽくはありますが……。
しかし、なんでありましょうね。あのドラゴンは。一見禍々しい感じはしませんが、何やら空恐ろしいほどの不気味な力の気配を感じます。このモンスター、恐ろしく強いのではないでしょうか。
「……あんなやつの涙をどうやって採取するでありますか」
「さっきのアイテムを使うのよ。聞いたでしょ、あの大きな声。あれはあいつの泣き声よ。あのドラゴン、わんわん泣くのよ。それはもうすごいわよ」
「わんわん泣くって……あのドラゴンがでありますか?」
赤ん坊じゃあるまいし。
「だからとにかく、あの台座の側で空き瓶を構えておけば勝手に『七光の雫』は採取できるのよ。まるで涙が雨のように降り注ぐから」
「襲われたりしないのでありますか?」
「あのドラゴンは泣くばっかりで不思議と人は襲おうとしないのよ。あのトカゲたちは興奮してこっちに向かってくるから水魔法で対処しなきゃいけないけど」
「なるほど……」
その時、私たちの後ろでトールさんとウォレスさんが何やらコソコソ話をしているのが聞こえてきました。
「おい……あれ、どう思う」
「ふむ……かなり強いな。戦うとしたら私とトールとエヴァだけでやるしかあるまい」
「「やらない(であります)けど?!」」
思わずトールさんと同じように突っ込んでしまいました。
――何はともあれ、『七光の雫』は採取せねばなりません。
さて、どうするでありますかね。
①七光の雫を採取後、魔龍を討伐する
②七光の雫の採取のみ行う
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