第1章 第16話 魔法使いの告白
前回の選択肢の投票の結果
④逆に魅了魔法をケティにかける
に決まりました。
この「選定の神」の意思に基づき物語を進めます。
「ふふふ……トールさん。これであなたは私の虜……」
ケティが妖艶な笑みを浮かべながら俺の顎をゆっくりと撫でる。
「……」
……お嬢さん。悪いんだが、俺には「魅了」は効かないんだよ。
ごめん、ウソ。めちゃ効いてる。もう、がっつり惚れてる。ああ、いい女だなあ、ケティちゃん。
「さあ、トール?少し私のお願いを聞いて欲しいのだけれど」
だけどな、虜にまではなってやれないんだわ。俺の「状態異常耐性」のせいで。
俺をこの世界に引っ張り込んだあの「クソ神」から与えられた能力の一つだ。これを発動すると、あらゆる状態異常攻撃を「ほぼ」無効化することができる。
この「ほぼ」というのが鬱陶しいところで、完全には無効化してくれないのだ。
今だって、「魅了」のおかげでケティに惚れてしまっている。が、理性までは飛んでいないし、こいつが仮に何か命令をしてきたとしても。それに無条件に従う気はさらさらない。
さて、問題なのは魅了魔法をケティに使うってやつだが……。
正直、変容魔法の「魅了」なんて使ったことがない。
そこで、さらに俺の奥の手。能力『真なる神の魔導書 』を使うことにする。
このくっさいネーミングの能力。これは、一日三回のみという制限はあるが、習得していない魔法を含め、神聖魔法を除くすべての魔法を使用することができるという能力だ。
ちなみに、俺はチート抜きにすれば魔法で素養があるのは時空魔法だ。理由は簡単。日常生活で便利な魔法が多いからだ。攻性魔法もそこそこ扱えるが、習得難度が高い変容魔法はさっぱりだ。
変容魔法は主に、物体や、人やモンスターの精神を別の状態へと変化させる魔法で、等級が最上級ともなると概念すら変化させる魔法すらあるという。
『魅了』
俺は、『真なる神の魔導書 』を発動させ、変容魔法『魅了』を行使する。
「!?」
笑みを浮かべながら俺の顎を撫でていたケティは、俺の魔法に驚愕の表情を浮かべるが、次の瞬間には半ば瞼を閉じて、トロンとした表情をし始めた。魔法が効いたか?
「ふふふ……トールぅ?」
ケティが俺にしな垂れかかってくる。手をさすりながら俺の二の腕に自分の頬を擦り付け始めた。よし、完璧に効いてるな。
「おい、ケティ。聞きたいことがある」
「……うん?なあに?何でも聞いて」
「お前、俺にお願い事があるとか言ってたな。魅了まで使って俺に何をさせようとした?」
「うふふふ……それはねえ……」
ケティが俺の胸に人差し指を当てながらクスクスと笑う。
「あの龍族のアイザックをぶっ殺してもらおうと思って」
「はあ?!」
ウォレスをぶっ殺す?!
なんでだよ!あいつ、何かよっぽどの事やらかしたのか?!まあ、ちょっと分からなくもないけど!
「な、なんでぶっ殺したいんだ?」
「んー?だってぇ……あいつ頭おかしいでしょう?7層で色々面倒な事されそうだから、今のうちに始末しちゃおうと思って」
「頭がおかしいってのは完全に同意だが……7層にあいつが行くと面倒なのか?」
「そりゃそうよ。折角の金づるを倒されちゃたまんないもの」
金づるを倒す……?どういうことだ?
「それよりぃ……」
ケティが椅子に座る俺の上に向かい合うようにまたがってきた。
「……ねぇ……しよ?」
耳元で熱い吐息と共に囁かれる魅惑の言葉。
頭の芯がじーんと熱くなり、思わずケティの背中に手を回して甘い香りのする身体にむしゃぶりつきたくなる誘惑に駆られる。魔法のせいとはいえ、惚れた女にこんな風に迫られて理性を保つのは至難の業だ。
「くっ!」
俺は自分の太ももを思い切りつねり上げて何とか正気を保とうとする。
いくらなんでもウォレスを殺そうとか言う女とどうこうなるわけにはいかない。
ああ、でも、しかし。
「ふふふ……ねぇ、早くぅ……」
「ま、待て、落ち着けケティ」
「ええ……?どうして?」
「こんなところで……まずいだろう?」
「こんなところだから……燃えるんじゃない……♡」
ケティが俺に顔を近づけてくる。俺は思わずのけぞり、ガタガタとケティごと椅子から転げ落ちてしまった。ケティはそれでもなお俺の上にまたがってのしかかってくる。
「……どうしてそんなに慌ててるの?もしかして、その年で童貞?」
「ど、どどど、童貞ちゃうわ!」
「なら、ね?」
ケティは顔を紅潮させながら鼻息荒く俺のシャツをめくり上げにかかる。
「う、うわー。犯されるー」
必死に抵抗しようとするが、まるで力が入らない!
これは思いの外、俺に魅了の効果が効いていると見える。
な、なんて恐ろしい魔法だ!これは最後までイタしてもしょうがない……!しょうがないったらしょうがない!
くっ!体は好きにできても心までは……!
その時。
カラン。
何かが床に落ちる音がしてそちらに目を向けると。
「……」
足元にコップを転がした人族の女が顔を真っ赤にしながら立ちつくしていた。猫娘だ。
「……ちゃうねん」
俺がそう言うと、猫娘はハッとした様子で慌ててコップを取り上げ、立ち去ろうとする。
「お……お邪魔したでありますっ」
「おい!本当に違うんだよ!いいから助けろ猫娘!」
「……ケティさんが、トールさんに「魅了」を使って誘惑してウォレスさんを殺させようとした、でありますか」
「そうだ。な?ケティ」
「うふふふふふ。そうよぉ」
ロープで拘束されたケティが嬉しそうにクネクネと体をよじる。暴れられても困るので「魅了」は解除していない。
「なんとな!そこまでの悪心を抱いていたか!」
ウォレスが腕を組みながら唸っている。
「ひっどーい!そんな人だったなんて!」
と、ファテリナお嬢さんなども頬を膨らませてプンプン怒っていた。
この場には臨時パーティーの全員が集まっている。猫娘、ファテリナお嬢さん、ウォレスの三人の変装は解かれていた。やはり変容魔法の「ミミック」をつかっていたようだ。
ニナはその事実にも平然とした顔をしていたが、どうやらウォレスの事は知っていたようで、「お久しぶりですウォレス様」と言いながら俺の後ろにコソコソ隠れてしまっていた。「退かぬ媚びぬ省みぬ」が家訓らしいニナを退かせるとは、さすがにウォレスだ。
「……それで、トールさんが逆にケティさんに「魅了」をかけてこのありさまになっているわけでありますね……」
「そうだ。魔法が効きすぎて危うく犯されるところだった。危なかったぜ」
「お、おか……?!」
ファテリナお嬢さんがそれを聞いて顔を真っ赤にしてしまう。おっと、こんな話は子供にはあまり聞かせられないな。
「……魅了しているなら、命令して止めさせればよかったのではないでありますか?」
「……」
なるほどな!思いつかなかったなー。
「……ゴホン!とにかく!お前らも「七光の雫」狙いなんだろう?こんな借金がらみの依頼になんでお前らが参加した?しかも変装なんかして」
「……それはでありますね」
俺たちはそれぞれの事情を説明し合う。
聞くと、猫娘たち三人は冒険者の失踪事件の手掛かりを得るためにこのクエストに参加したのだという。
変装していたのは、クエストの代表請負人であるケティと既に接触していた、実際にクエストを受けるはずだった内偵者に成り代わるためらしい。よくわからんが面倒なことをするものだ。
「7層にその失踪事件の手掛かりがあるっていうんだな?」
「おそらく。とにかく妙な連中が暗躍しているのは間違いないであります。代表請負人であるケティさんも怪しいとは思っていましたが、案の定でありますね。7層にたどり着く前にこのようなアクションがあるとは思いませんでしたが……」
猫娘はケティに近づき、質問を投げかける。
「ケティさん。7層に何があるであります。最近頻発している冒険者の失踪と何か関連があるでありますか?」
しかしケティはツンとそっぽを向いて何も答えようとしない。猫娘はため息をつく。
「……トールさん。お願いするであります」
……しょうがないな。
「ケティ。知ってること洗いざらい話せ」
俺がそう言うと、ケティはパッと顔を上げ、嬉しそうに再びクネクネと体をよじり始める。
「いいわよ♡そのかわり、話したら私のこと、ちゃんと抱いてよ?」
「だ、だっ……!?」
ケティの発言に例によってファテリナお嬢さんが顔を真っ赤にしてワタワタし始める。猫娘なんかは半眼で俺のことをしらーっと見てくるが……お前が頼んだんだろうが!
「……確かにねえ、これまでに私が7層に連れて行った冒険者の連中が失踪してるって話は聞いてたわね。でも、どうしてかは私だって本当に知らないわよ。私はガストの奴に雇われてるだけだもの」
「金貸しのガスト・ウィロックでありますね?クエストの発注者である」
「そうよ。私がこの仕事請け負うようになってから、あいつやたらと羽振りがいいのよね。すごく金払いがいいの。「七光の雫」のおかげで儲かってるんだろうけど。噂によると、最近どこかの大きな商会と大口の取引があって、そのおかげって話もあるわね」
「ふむ……」
ウォレスがそれを聞いて黙り込む。なにやら珍しくマジな顔をしてやがる。
「それで?7層には何がある?「金づる」とは何のことだ?そいつを倒されるわけにはいかないからウォレスの奴を殺そうとしたんだろ」
ケティはウォレスをチラリと見てため息をついた。
「……まさかあの龍族がウォレス・トールキンだったとはね……」
ケティは諦めをにじませた声色で語り始める。
「……私が冒険者たちを連れて行っているのは7層にあるモンスターの「巣」よ。そこにとりわけ強い個体がいてね。そいつから採れる体液が「七光の雫」なのよ。そして」
ケティは、その美しい顔に嗜虐的な笑みを浮かべる。
「ガストの奴からはこう言われているわ。『死にたくなければそいつには近づくな』ってね」
今回は選択肢の投票はありません。




