第1章 第14話 階層主の憂鬱
前回の選択肢の投票の結果
④ウォレスが勝手に突撃する。
に決まりました。
この「選定の神」の意思に基づき物語を進めます。
「承知したぁ!いくぞおおお!トール!」
いきなりそんな大声をあげると、意識のないトールさんの襟首をつかんでぶん回しながら大樹の穴に突撃し始めるウォレスさん。
「えええええ?!何してるでありますか?!」
私の叫び声も虚しく、はっはっはっは!とバカみたいな高笑いを残し、ウォレスさんはとうとう穴の中に姿を消してしまいました。
トールさんといいウォレスさんといい、あのおっさん2人の奇行は病気か何かなのでありますか!?
「ああっ!ず、ずるい!私も行く!」
などと小人族のおばさんロイナ・バレットことファテリナお嬢様がその後を追って穴の中に駆け込んでしまいます。
「こうなったら退けませんね。私も参りましょう」
と、鼻息荒くニナさんまで突入してしまう始末。
「……」
恐る恐るケティさんを伺いますと、手持ちの杖をメキメキ折らんばかりに握りしめて引きつり笑いをしてました。
「あのぉ、ケティさん」
「は、はい、イネスさん……な、なんでしょうか〜?」
「……ここで二手に分かれるよりも、むしろ彼らに付いていった方が面倒は少ないかと」
私がそう進言すると「ええ〜そうかもしれませんわね〜」と半ばやけくそ気味に頷きます。
この方、どんどん人相が悪くなっているような気がしますが大丈夫でありましょうか?
とにかく、私たちもしぶしぶではありますが、皆の後を追うことにします。
これだから、ウォレスさんとは関わりたくないのでありますよ!
◆◇◇◆
がくがくと体が揺さぶられる。
俺はジェットコースターが大嫌いだ。
わざわざこんな危険な乗り物に好き好んで乗ろうという奴の気がしれん。
そら、もう吐きそうだ。
だからこんなものには乗りたくなかったんだ。
……だが。
「こいつら」がこんなに喜ぶのなら。
やせ我慢の一つでもしてやろうか。
そう思った瞬間。
――こんなことはあり得ない。
頭の片隅でそんな声が聞こえたような気がして、突然、俺の意識は覚醒した。
「う……う、うぇええ?!」
俺の体が首元からブンブン前後左右に振り回されているのに気が付いた。目の前の景色がまるきり定まらない。どうなってんだ!
「おお、トール!目覚めたか!」
突然揺れが止まったかと思うと、耳元で暑苦しい声が聞こえてきた。クラクラと眩暈のする中、目の前に龍族の顔がドアップで迫る。色々吐きそうだ。
どうやら俺はウォレスの奴に襟首を掴まれて吊り上げられている状態のようだ。
「降ろせ!バカ野郎!」
「おお!すまないすまない!」
と、ウォレスが突然手を離し、俺は尻から落下する。痛てえ!
「くそ、てめえウォレス!お前どういうつもりだ?」
「んん?何がだ?」
「色々だよ!だが、とにかくその姿だ。なんでそんな龍族に変装している?猫娘やファテリナお嬢さんも姿を変えているようだが、お前の仕業だろう。お前ら、何して遊んでるんだ」
「はっはっはっは!これも正義のためだ!正体を隠す正義のヒーロー!うん、いい!」
オーケー。まったく意味不明だが、これ以上関わるのはよそう。
「……俺はエレナの奴に強制クエストかまされてな。とにかく黙ってお前たちの後ろにくっついていく。……ところでここはどこだ」
見たところ、薄暗い広場のような場所だが……周囲の壁は……木か?
「はっはっは!まだ4層だ!ほら、見ろ。久しぶりだろう?」
ウォレスが指差した方向。
暗闇の奥からズシリ、ズシリと大きな影がこちらに近づいてくる。
姿を現したそれは、一見大木のようにも見えるが、顔の部分には大きな目があり、口のようにも見える空洞があれば、人型のように手足もある。全身を太い木の枝が複雑に絡みつき、所々黄緑色の鈍い光が明滅していた。
その見上げるような巨躯がギシリと傾き、不気味な眼球がこちらをじろりと睥睨してくる。
そしてその木の化け物は、その節くれだった大きな腕を左右に広げ、腹に響く低音でこちらに向かって声を上げた。
「いらっしゃいませーーーーーーーーだな!」
「なになに!?どうなってんの?」
駆け込んできた小人族のおばちゃんがそんな驚きの声を上げた。
あれは……たしかファテリナお嬢さんだったか。
ニナは特に表情を変える事なく首を傾げているだけだったが、ケティとかいう魔法使いは杖を両手で握りしめてギョッとしている様子だ。
人族の女は……猫娘か。なんだか疲れた顔をしてため息なんかついてるな。
まあ無理もないだろう。
目の前の巨大な木の化け物、「ウッドゴーレム」が、ギシギシと体を揺らして小躍りしながら俺たちを熱烈歓迎しているんだから。
「うおおおおおん!久しぶりだな!久しぶりだな!本当に久しぶりのお客さんなんだなーーーーー!大歓迎なんだな!」
「なにこのモンスター?しゃべってる!それになんでこんなに喜んでるの?」
「……冒険者に久しぶりに会ったのでありましょう。ここはとっくに踏破された階層でありますからね。罠だとネタが割れているのに、こんな階層主の部屋に飛び込むような馬鹿は普通いないであります」
猫娘がファテリナお嬢さんにそう説明している。
その通り。ここは確かに5層への近道だ。だが、遠回りではあるが比較的安全な別ルートがすでに分かっているのに、わざわざ強力な階層主と戦ってまでショートカットするような冒険者はいない。
ダンジョン案内所でも、4層の未経験者にはこの階層主部屋には立ち入らないようにと指導している。
つまり、ここに飛び込むような奴はよほどの物好きかバカだ。
俺は、横でウンウンとなぜか満足げにうなずいているウォレスを見る。
……こいつだな。ここに真っ先に飛び込んだ物好きのバカは。
そういえば、昔俺がここに来たのもこのバカのせいだった。
「うっ……そ、そうなんだな……最近じゃあめっきり冒険者の皆が来てくれないから寂しくてしょうがないんだな……」
猫娘の言葉が聞こえたのか、そう言っていきなりウッドゴーレムはズシンとその場に座り込んで哀愁を漂わせ始める。はぁ、とため息をつく姿は、寂れた商店街の店主を思わせる。世知辛いな、なんか。
「ここが出来た頃は、それはもう大勢の冒険者が毎日のように来てくれたんだな……。あの頃はよかった……」
「な、なんですのこのモンスター……」
ネガティブオーラを全開にする階層主に、魔法使いのケティが戸惑っているというかドン引きしている。
そうかと思えば、お嬢さんなぞは「かわいそう……」と同情を寄せてしまっているし。いや、こいつモンスターだから。
「お前、割と強いくせに倒してもろくなドロップアイテムも落とさないだろ。報酬が近道だけって、別ルートが知れた後に誰がこんな所来るっていうんだ。初期コンセプトからして間違ってるじゃねえか」
俺がそう言うと、ウッドゴーレムはより肩を落とす。
「そんなの……ワシにはどうしようもないし……生まれた時からワシはここで人間を迎え撃つように決められているんだな……もうどうしていいか」
「まあ設定ミスだ。あきらめろ」
「設定ミス……!」
それを聞いてガーンとショックを受けたように絶句するウッドゴーレム。そして、ついには、おんおんと咽び泣き始める。
「おじさん言い過ぎ!」
「このおっさん、鬼畜でありますね」
なぜかお嬢さんと猫娘に非難の目を向けられる。
「いや、なんでだよ!こいつモンスターだぞ」
「モンスターだって傷つくんだよ。人の心があるんだよ」
お嬢さんが諭すような口調で言う。
いや、モンスターなのに人の心って。
「そうかそうか!だが気を落とすことはないぞ!ウッドゴーレム!今はこうして我々がいるじゃないか!」
ウォレスが大きく手を広げて俺たちを指し示しながらそう言うと、ウッドゴーレムはハッとしたようにギシリと顔を上げて口から息を吐く。
「そ、そうなんだな!今はお前たちがいるんだなっ!」
ウッドゴーレムはギシギシと木が軋む音を立てながら、その巨体を持ち上げ、立ち上がった。
「ようし!やるんだな!張り切ってお前たちをぶっ殺すんだな!」
いきなり大きく振り上げられるウッドゴーレムの巨大な腕。それが俺たちに向かって襲い掛かってくる。
ほれみたことか!
今回は選択肢の投票はありません。




