第3話ーバスティーユー
つ「ヒロイン候補」
よろしくお願いいたします。
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第1章
第3話
ーバスティーユー
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さて、突然だがこの世界において男女の価値観とは、地球の価値観のそれとは全く違う。というか真逆と言っていい。
女は働き、男は家を守る………そんな感じなのがこの世界だ。強姦事件も被害者は大体男だし、街角で色を売っているのも男だ。
男は弱いとされ、女は強いとされる。それがこの世界の価値観である。
つまるところ、俺のように女に媚びず、マフィア業界にどっぷり浸かるのは俺ぐらいということだ。
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○辺境都市:ノヴァーヴァ○
○シパ地区○
「………さて、どうしたもんかな?」
荒んだ街の中、護衛の部下2人を連れて、俺は考え込みながら歩み続ける。
「(新しい部下は、心配だったが問題児はいなかった)」
俺直属の配下になったマフィア13名は、一先ずは俺に逆らうような馬鹿はいなかった。その分野心はありそうだがな。
しかし、それによりというべきか………大きな問題が一つ発生した。
「("金"だ‼︎ 部下が増えたせいで金ばかり出ていく‼︎)」
俺………というか、俺の【ベック一派】の収入は、マフィア達への授業料と、その他小遣い稼ぎ程度の物しかない。
この収入では、費用を賄うことは出来ても、貯蓄ができない状況だ。
「(しかし、収入になりそうなものは、大体どこかの幹部が管轄してる………新しく収入源を作るしかない。とはいえ、そのために開拓費を用意する余裕はない)」
金をあまりかけずに、儲かる方法が必要だ。
「(たく、少しは夢のあることで悩みたいぜ。 日本でゲームクリアできなくて悩んでたほうがマシだぜ………ん?"ゲーム"?)」
俺はふっと、そのワードで引っかかる。
「そういえば、この世界結構娯楽が少ないんだよなぁ。 まあ、娯楽に興じる余裕もないってのもあるけど………」
「ボス?」
部下の女が独り言をつぶやく俺に、心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。 それより急いで事務所に戻るぞーーー金儲けの時間だ」
俺はニヤリと、悪人のような笑顔を浮かべる。
「それと木材を集めろ。それを加工するための刃物もだ」
「「はい」」
こうして、俺の金稼ぎ計画が始動した。
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○語りside○
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ベックが計画を思いてから3ヶ月。
その魔の手は領主の元まで届いていた。
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○辺境都市:ノヴァーヴァ○
○領主邸宅・執務室○
「と、当主様‼︎ またご息女様が‼︎」
メイドの声に、当主であり領主である中年女性は表情を怒りに染め上げる。
「あ・の・ば・か・む・す・め‼︎」
「ひっ、お、落ち着いてください‼︎」
メイドが領主を諌める。
「はぁ………ごめんなさいね。 娘は、また"あの場所"よね?」
「は、はい」
「あまりスラム地域には入ってもらいたくないんだけど………」
ノヴァーヴァは、確かにその地域のほぼ全てが、スラム街で無法地帯である。しかし、一部地域は普通の街と変わらないレベルの治安が保たれていた。
実質的に領主が統治できているのは、その健全なノヴァーヴァの安全地域だけであった。
「一応護衛は連れて行ったようですが」
「スラム地域には、下手な傭兵よりも腕の立つゴロツキも少なくない。正直なところ、領軍兵士では安心しきれないわ」
実際、かつてスラム地域の犯罪組織撲滅に乗り出した当時の領主が、その軍を全滅させられて領主を解任させられた事があったぐらいだ。
「こちらから関わらなければいいのに、あのバカ娘は………帰ってきたら説教よ‼︎ おまけに"犯罪組織の人間に惚れた"なんて末代までの恥よ⁉︎」
「ああ、確かあそこの元締めでしたよね?」
「ええ、馬鹿高いプレゼントを買おうとしてたから、しばいておいたわ」
ふぅと領主は息を吐き出す。
「それにしても、そんなにあそこって楽しいのかしら?」
「一度行ってみますか?」
「確かに、馬鹿女が惚れた男も見てみたいしね………今度お忍びで行きましょうか? ただしーーー」
「ご息女の説教が終わってから………ですよね?」
「ええ、その通りよ」
領主とメイドがクスクスと笑っていた。
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○シパ地区○
○【カジノ:バスティーユ】○
元はホテル跡地であり、ベックの事務所のあった場所はーーー欲望渦巻く娯楽の場と化していた。
「あっはっは‼︎」
ドレス姿の太った女性が、高笑いをしている。その顔には目の部分を隠すように仮面がつけられていた。
他の客達も仮面をつけている。その様子はまるで仮面舞踏会である。
「お、今日も勝ちましたかな?」
そこに、目だけが空いたお面をつけたドレス姿の女性が、声をかける。
「おや、これはナベーーーこほん、ここでは相手の本名を呼ぶのはルール違反………でしたね」
「ええ、私のことは【無情】とお呼びください。【マダム】様」
「よろしくね、無情様」
2人は楽しげに話を進める。
「それで、本日はどのようなゲームをされたので?」
「今日は"麻雀"と"人間レース"よ?」
「それはそれは、リターンの大きいゲームを選ばれましたね?」
「麻雀は奥が深くて楽しいわ。あ、人間レースは少ししかやってないわ」
このカジノにはいくつかのゲームが用意されており、麻雀と人間レースもその一つである。
麻雀は牌と呼ばれる駒を揃えて役と言われるものを揃えるゲームであり、人間レースとは人間同士を競わせてその勝敗をかけるゲームである。
どちらも人気が高く、人間レースは負けた時のデメリットが大きいが、勝った時のリターンも大きいゲームである。
「変な客はマフィアが排除してくれるし、金さえ払えば送迎までしてくれるから、旦那が待っててくれなければ、毎日でも通いたくなっちゃうわ」
「いっそのこと、旦那様もお連れになっては? 男性は基本的に家にこもりっきりになることが多いですから、こういう場所は楽しめるかと思いますが?」
「そうね。そうしましょうかね?」
クスクスと2人は笑う。
「あーあ、私の所にもカジノできないかしら?」
「ベック君に相談してみては? カジノ進出への協力は惜しまないって言えば、もしかしたら2号店は近くにできるかもしれませんよ?」
「あら、それはいい話ね。 考えてみるわ」
その瞬間、カン‼︎ カン‼︎ カン‼︎ と音が響き渡る。
「ご来店の皆様、ようこそ夜の楽園、カジノ:バスティーユへ」
そこには、鳥の顔のお面をつけたベックが立っていた。
「今宵は大イベント‼︎ 宝クジを開催予定でございます‼︎ 1等は金貨100枚‼︎ 2等は50枚‼︎ 3等は10枚となっております‼︎ 1口銅貨30枚となっております‼︎ お買い求めは特設コーナーまで‼︎」
「ですって、無情、さ………ま?」
「………ああ、ベック君」
マダムと呼ばれた女は絶句していた。 無情と呼ばれた女はベックを見て、まるで恋する乙女の気配を発していたのだ。 というか、視線がベックから全く離れない。
「む、無情様?(え? 嘘よね?)」
「え? あ、何ですかマダム様?」
「い、いえ、何でもないです………ほほほ (冗談じゃないわよ?領主の娘がスラム街のマフィアの幹部に惚れてるなんて………)」
「ーーーおや、マダム殿」
そんな時、ベックが声をかけてくる。
「(こ、このタイミングで⁉︎) これはこれはベックさん。お久しぶりですね?」
「お久しぶりです、マダム殿。 本日はお楽しみいただけましたか? それとも、お楽しみの最中でしたかな?」
「いえ、もうそろそろ帰るところよ」
「そうでしたか」
ふっと、ベックの視線が無情に向かう。
「おや、無情殿も一緒でしたか」
「は、はひ」
無情は緊張しながらも、ベックの問いに答える。
「無情殿が来ているということは、今日の人間レースは無情殿の勝ちですかな?」
「い、いえ、き、今日は麻雀をしに来ただけで………」
「そうでしたか。 無情殿が人間レースにかけると大体当たりなので、つい」
ベックはクスクスと笑う。
「申し訳ありませんが、他のお客様の様子も見てこなければなりませんので、私はこれで………」
「ええ」
ベックは足早にその場を立ち去る。
「………ベック君」
「(大丈夫かしら)」
マダムの悩みは尽きない。
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○sideEND○
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エンド
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