第1章第2話ー小頭ベックー
遅くなりました。第2話です。
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第1章
第2話
ー小頭ベックー
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おいっす、今月で14歳になるベックである。
そう、なんだかんだで2年の時が過ぎた。
強烈な勧誘をしてきたレイフ率いるレイフ・ファミリアは、じわりじわりとではあるがこの街で勢力を拡大させている。
対する俺といえば………。
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○辺境都市:ノヴァーヴァ○
○【シパ地区】○
シパ地区はレイフ・ファミリアの支配地域であり、周囲は味方ばかりの安全地帯でもある。
そんな場所にある元ホテル跡地に俺ーーーレイフ・ファミリア小頭ベックの事務所は設置されていた。
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○ベックの事務所○
「ふぅ、やっと終わった」
俺は自分の椅子に腰掛け、机の上に組んだ両足を乗せる。
「お疲れ様です」
「ああ」
声をかけてきた部下の女に答え、両目を閉じる。
「兄貴、大頭がいらっしゃいました」
「………おう」
俺は足を床におろし、立ち上がる。
「玄関か?」
「はい、今さっきいらっしゃったところでーーー」
「やあ、私の少年」
目の前にレイフが現れる。
「少しは待てないのか? レイフ」
「一応君のボスなんだけどなぁ」
「敬語でも使いましょうか?」
俺は肩をすくめる。
「今更すぎる気がするね。いつもので構わないよ」
「了解」
ここまではいつもの流れである。中々にこいつもしつこい。
「で? 今日は何の用だ?」
「顔を見にきたついでに仕事を頼みにね」
「面倒な仕事っぽいな」
「奥借りてもいいかい?」
「どうぞお好きに」
俺とレイフは奥の談話室に入る。ここならば誰にも話を聞かれることはない。
「ーーーさて、君の"授業"のおかげでうちの事務方はかなり質が向上した」
「あの程度で授業ってのもあれだがな」
俺がしたのはレイフ・ファミリア構成員で知能の高そうな奴や非力な奴に小学生レベルか少し上の知識を与えただけだ。本当なら中学生レベルまでいきたかったが、レイフが『最悪計算さえできればいい』というので飲み込みのいい奴以外は小学生レベルの算数止まりだ。
なお、この授業は教える方はもちろんのこと受ける方もレイフの命令を受けている。 そのため構成員は真面目に授業を受けたし、結果を残すために俺も頑張った。
ーーー何せ、この街では"過程"よりも"結果"が重視されるのだから。
「さて、そんな君に新しい仕事だ」
ああ、来た。 これ絶対面倒くさいやつである。
「というか、正直遅いくらいなんだけど………君専属部隊を作ってよ」
「俺専属部隊?」
「だって私の愛しい少年も立派な小頭。一つの地区を支配する幹部だ。直属の部隊くらい持ってもらわないと何かあった時に人手が足りなくなるよ?それに箔がない」
「そ、それは………」
確かに、現在の部下からもそしてレイフからも何度か促された話ではある。多分命令するからやれって事なんだろうが。
「無茶言うなよ。俺はお前の下につくまでは一匹狼でやってきたんだ。そう簡単に部下を集められるわけないだろう?」
精神年齢の違いのせいか上手くスラムの子供達と馴染めなかった俺は、一匹狼として活動していた。妹以外親しい人間などいないも同然だ。
今いる部下の2人だって、レイフから借りている兵隊である。
「実らこの前潰した組織からうちに鞍替えしたいってのが十数人入ってね。良かったら君の専属としてどうかな?」
「新人か………上手く手綱を握れるか分からんぞ?」
「構わないよ? まあ、逆らうようなら"始末"して構わないしね」
ぞくりと悪寒が走る。 そして同時に認識する。 『レイフもまたこの街の人間である』と。
この街では命の価値は金貨一枚より軽い。道端に死体が落ちているのも珍しくない。そんな街の人間の価値観からすれば、人を殺すのになんの躊躇もない。
「やめろ。人的資源が勿体無いだろ」
「"じんてきしげん"?………ああ、人間を資源とした考えだったかい?」
俺が昔教えたことを思い出したレイフがほうほうと頷いている。
「人間を資源と考える、か」
レイフが懐からタバコを取り出す。
「タバコなんて吸ってたか?」
「ん?ああ、最近吸い始めてね。これがまたなかなかやめられなくてね。こんなことになるなら手を出さなかったかもしれないけどもう遅いからね」
タバコに火をつけたレイフが、煙を天井に吐く。
「で、専属部隊の件は受けてくれるかな?」
「………ツテもないしな。その鞍替えした新人達はこっちで面倒を見よう。幸い部屋と金はなんとかなるだろうしな」
「それじゃあ明日には来るように伝えておくよ。もしも使えないようなら処理は任せるよ」
そう言い捨てて、レイフは立ち上がり、部屋の出口に向かう。
「また食事にでも行こうよ。僕の愛しい少年。今度はいつもと違って2人っきりでさ」
「考えておく」
「うわ、絶対誘いに乗らない答えだ」
レイフがドアに手をかける。
「また会おう、私の愛しい少年」
レイフはキザったらしくそう言って、おまけとばかりに投げキッスをして部屋を出ていく。
「………何度話してもあいつには慣れないなっと」
部屋の外で部下達の挨拶の声が聞こえる。
「………さっさと帰ろ」
気付けば退勤時間であった。
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エンド
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