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ゲットゴールのりお  作者: おしりファルコン
8/19

ビー玉 vs. 公開処刑執行人岩田

不良二派(正統派 vs. ミスリル派)の抗争は「松平」「のりお」そして正統派のリーダー「ラインバレル」の算段で一旦の和解へと舵をとることになった。しかし和解交渉における決め手が彼らにはなかった。

4月中旬某日。


のりおとラインバレルが再会する約一か月前。


風紀委員長シャングリラは、不良の公開処刑を宣言する。公開処刑とは、毎週1名、程度の甚だしい不良を捕まえてシメあげて晒しものにする、風紀委員会の校内健全化活動の一つである。シャングリラは剣道部部長で風紀委員の岩田を執行人に任命した。


そして4月20日、金曜日、初の公開処刑が実施された。

岩田は袴姿で木刀を片手に校内を徘徊。

この日の公開処刑は不良(正統派)2年生の原。

原を見つけた岩田は木刀で躍りかかると面打ち一発で原の額を割った。

そして原を担いで剣道場へと連れて行った。




剣道場には、風紀委員長シャングリラ、側近のジョバイロ、および原の被害にあった生徒達などギャラリーが鎮座していた。長谷川および他の風紀委員達は、再教育イベント「シャングリラファイトクラブ」の準備のためいない。


原は無理矢理に竹刀を握らされ防具を装備させられると、竹刀に持ち替えた岩田と地稽古をとらされた。

岩田は防具なし。しかし岩田の体に原の竹刀はとうとう最後までかすりもしなかった。


この日、今は抵抗勢力レジスタンスに所属する剣道部2年生、烏丸は太鼓を叩く役目だった。

烏丸が太鼓を叩くと地稽古が始まる、3分間滅多打ちにされる原、そして3分間のインターバル、その繰り返しだった。原が立てなくなるまで続いた。


岩田は立てなくなった原の面をとり、パイプ椅子に座らせると、原の被害者代表1名の面打ち一発が許された。


原の被害者代表は、


「原くん、僕のお小遣い、もう返してくれなくていい、返してくれなくていいけど、もう僕のお小遣いとらないで。」


など陳述してから盛大に一発をお見舞いした。




最後、原は「剣道部がムカつくから殴り込みに来ました。」と書かれた念書に拇印を押され、懐に入れられ、救急車で運ばれた。岩田は仕方なく地稽古をとったと救急隊員に言った。


これが風紀委員会の実施する公開処刑、その典型的な執行である。




2年生烏丸は、これまでの岩田に対する恩義から、この日1日は太鼓役をまっとうしたが、以来、道場には行っていない。「岩田先輩から教わることはもうなにもない。先輩の剣道の程度が知れました。」と岩田に直接、言い放ったうえで、幽霊部員になった。そのようにして事実上の離反をした者は烏丸をいれて総勢10名、うち6名がそれぞれのタイミングで風紀委員会などへの抵抗勢力レジスタンスに加わるも、烏丸以外は限定的な協力に留まるとした。




別の言い方をすれば、いま剣道部にいるのは岩田の、度が過ぎる不良更生思想に大なり小なり賛同できる者たちであり、1年生と3年生でまだ20名ほどの部員がいた。




岩田のこうしたやり方にはわけがあった。1年生の春、岩田は当時2年生にして学校の王だった大田に喧嘩を挑まれる。大田は岩田を手下にする目的だった。竹刀を持たされた岩田は大田に負けてしまった。しかし「自分は剣道家だ」と言い張り大田傘下に加わるのを拒んだ。だが他の剣道部員や剣道場が大田傘下の不良に狙われたり荒らされたりすると、仕方なく大田傘下に加わった。似たような境遇の現風紀委員長シャングリラとは、相通じるものがあった。岩田は不良ではなく、シャングリラ、ジョバイロ、長谷川などと共に風紀委員会のほうに在籍し、いつの日か不良を排斥できることを願ってこの日を待っていた。


※大田は不良と風紀委員会の相反する2つの勢力をコントロールすることで校内を統制していた。大田の卒業後は風紀委員会による不良排斥がはじまる。公開処刑はその一環である。






さて、5月18日、金曜日。


大河内が昼休みの風紀委員会臨時会で断罪された次の日の放課後。


不良(正統派)3年オカマ芸の岡崎をターゲットとする公開処刑が開始された。




袴姿に木刀を持って校内を徘徊する岩田。しかし岡崎は見つからない。岡崎のような、ラインバレルの側近クラスとなると学校にいる日のほうが少ないし、まず授業にはでていない。


「これまでのザコとは違うのか。」


岩田はボソっと呟いた。




シャングリラから「金曜日、ラインバレルはキックボクシングのジムでトレーニングをしていて、ビー玉の仕切りになっている。プール小屋でたむろしていて、岡崎は高確率でそこにいる。」と言われていたが、なるべく一人歩きしているところを捕まえたかった。




そして仕方なくプール小屋にいく岩田。


するとすぐに岡崎に出会った。


岡崎は小屋の外でタバコをふかしていた。




「きゃあああああああああ!」


「お侍さんがきたわああああああ!」


「きっとアタシよ!」




岩田に気づいた岡崎は、そう言って小屋の中に逃げ込んだ。


すると小屋の中から、この日登校していた不良16名がぞろぞろと出てきた。


木刀を構える岩田。しかし数が多いため、いきなり躍りかかりはしなかった。




「ねーねーどういうこと?!」


「プール小屋には来ないから、金曜日学校来たら、放課後はみんなで過ごそってなったじゃない!」


「なんでこのクソ侍が余裕であがりこんでくるのよ!あたしらの縄張りに!」


岡崎はうるさかった。




「つか帰れよ。勝てなくね?」


不良の一人が岩田に言う。


すると不良達はクスクスと笑い出した。




「なんか便秘の人みたいな顔なんですけど。」


「いやなんかもう帰んなくていいわこれ、みんなでシメようぜ。」


不良達が動き出した。


岩田は最初に間合いに入ったものから打ち据えるつもりだった。




「待てよ」


誰かが不良達をとめた。




「やるなら俺がやってやるよ。」


ノソノソと動き出した大きな影。




「今日のターゲットが誰かしらねーけど俺なら不足はないだろ。」


ビー玉だった。ラインバレルの側近中の側近。




「てっちゃんがいない日の仕切りは俺だ。そんときに仲間が減るわけにもいかねーじゃん。」


「いいよいいよ、まかせとけ。」


「ていうか、このクソ侍にいたっては、この手で砂にしないと気が済まねんだ。」


岩田の7メートルほど手前で足を止め、仁王立ちするビー玉。




ビー玉は知っていた。


一足一刀の間合い、出足で一歩踏み込んで面打ちがあたる距離。厳密には「一歩踏み込めば打突ができ、一歩退けば打突を避けられる距離」である。皆、これを知らずに打ち据えられてしまう。


このときビー玉は振りモノも持っていないため、用心して7メートルを適切な戦闘開始距離とした。






「いい加減にしろ」


岩田は静かに言い放った。


「お前らなど何度打ち据えても飽き足らない。」


「俺はこの学校生活を通じて、絶対に警察官になってやると決めた。お前らの蛮行を、剣道部を人質にとられたうえで、大田傘下でただ見ていた俺の無念がわかるか。」




「・・・そっか。」


ビー玉も静かに語った。


「あんなふうに弱くて小さい相手(原など)を打ち据えて、それ毎週やってさ、まだ陽のあたる世界でのし上がる気でいるのか。」


「真面目くんが裏で弱い者いじめしてもいいと思う。真面目くんが陽のあたる世界でのし上がってもいいと思うよ。でも裏で弱い者いじめしちゃった真面目くんが、陽のあたる世界でいい子ぶってのしあがるのって、違うと思うよ?」


「案外世の中そんなんだと思うけどね。」




言い終わるとビー玉は姿勢を低く前傾姿勢をとった。クラウチングスタートよりは姿勢が高い。


ビー玉の言いぶんが、若干、心に刺さった岩田は、躍りかからず下段に構えたまま待機した。




するとビー玉は低い姿勢のまま岩田を目掛けてダッシュした。


木刀の威力を知らないかのようだ。


岩田は悩んだ。殺しかねない。そこで肩を打ち据えてやろうと思った。




呼吸を合わせ、踏み込む、


「覚悟・・・」




次の瞬間だった、




ヒュッ!




ビー玉がビー玉を投げた。


1個や2個ではない、20個。


いつの間に握ったのか、両手合わせて20個、バスケットボールのパスのようなフォームで真っすぐ、岩田の顔面目掛けて投げつけた。




「ガッ・・・」


岩田は咄嗟に一瞬、顔をそむけた、そして向き直ると目の前にもうビー玉がいた。


デカい。




ドゴオォッ!




ビー玉のパンチ、フックでもストレートでもない素人の力任せな右、しかし顔面に強打。




ダダッドダダダッ ドオオ




もんどりうって倒れる岩田。


ビー玉の体格、腕力、助走したぶんの威力、そして、




「やっぱちょっとこれ威力ありすぎるわ。マジで潰してえ奴だけにする。」




ビー玉が右手を開くと、いつの間にかまたビー玉が握られていた。


500円の袋に一個入っている大きいやつ。




「あれ、どうしたお前ら?」




静まり返るプール小屋前。


ビー玉が仲間たちの方を振り返る。




「あ、あなたそんなに腹立ってたのね!」


岡崎がかろうじて口を開いた。


皆、ビー玉を畏敬。


普段、口数もどちらかというと多く、ラインバレルの横でどこか呑気なビー玉、その圧倒的暴力。




「と、とりあえずクソ侍どうする?」


「これは、びょ、びょーいん・・・かなー」


不良達が口々に岩田について呟きはじめた。




「土産だ。このクソ侍は。ちょうどいい。」


ビー玉が言う。




「土産?」


「土産って言った?」


「あ、あの、ビー玉さん、土産ってなんの土産ですか?」


不良達はビー玉に恐る恐る尋ねる。




「てっちゃん、ミスリルと和解するって言ったろ。でも和解って要は詫びなんだよ。誰かがミスリルに詫びないと。」


「てっちゃん、プライド高いし、頭なんて下げないだろ。だから俺が、このクソ侍みつくろって、ミスリルに詫び入れてきてやるよ。処刑人のクソ侍なら体裁もいいだろ。」


「これできっと、頭のいいてっちゃんの言った通りに事が運ぶぜ。だから縄か何かで徹底的に縛り上げろ、道中逃げられないように。早くしろお前ら。」


ビー玉は興奮状態だった。




「は、はい。」


「はい。」


「はいやります。」


不良達はサンクスでロープ上のモノを買ってきて、意識が戻りかけた岩田を徹底的に縛り上げた。




「病院にも連れてってあげないといけないから、今すぐ行ってくる、第二音楽室だよな、あのデブ女。」


そういうとビー玉は岩田を担いで校舎の非常階段をノッシノッシと上がっていった。








「あなたー、いい男だけど、ほんと大きく育ちすぎよー、殺人だけはやめてねー。」


唯一、岡崎だけがビー玉の背中を見送った。


他の者は皆、恐れをなし、下を向いて一歩も動かず、ビー玉の帰りを待った。




つづく

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