ラインバレル
風紀委員会 vs. 不良(正統派) vs. 不良(ミスリル派)による校内の覇権争いにレジスタンス(抵抗勢力)がうまれ混沌とするなか、主人公の野球部員「のりお」は友達の野球部員「斎藤」を風紀委員会の再教育イベント「シャングリラファイトクラブ」に強制参加させられそうになるも、レジスタンスリーダー「松平」によって救われる。
5月16日。大河内断罪の前日。
のりおは松平に助けられた恩もあり、16日付けで抵抗勢力レジスタンスに正式に加入した。しかし条件付きだった。
1.ミスリル派のミスリルを打倒すること。
2.風紀委員会を排斥すること。
以上の2つのみをレジスタンスにおける、のりおの目的とした。
つまりラインバレル率いる不良グループ正統派の排斥には一切加担しないという条件だ。
これにはわけがあった。端的に言うと、のりおとラインバレルは古い付き合いがあった。のりおが小3のとき、ラインバレルは小4で、のりおがジュニアユースに呼ばれるまでの間、彼らは同じサッカーの少年団に1年半ほど所属していた。つまり「かつての学校の王・大田」を含めた3人で旧知なのである。ラインバレルは中学に入るとキックボクシングをはじめたが、ジュニアユースまで上り詰めたのりおには一目も二目も置いていた。
レジスタンスとして活動する以上、ラインバレルにとって不都合なこと、不利益なことを、どうしてもしてしまうわけだが、そこはある種、仕方ないと割り切った。できればラインバレルとレジスタンスで組んで風紀委員会を排斥したい。ラインバレルには威風堂々、不良をやりきって卒業してもらいたい。そんな風にのりおは思った。
そんな想いがあったため、部活が終わり暗くなった午後7時、水曜日の夜、ラインバレル達が毎週この日は集合して遊ぶゲームセンターへと向かった。松平から聞いた校内情勢を知ったうえでの自分の身の振りを、ラインバレルには伝えておこうと思った。
駅前徒歩3分のゲームセンター、水曜日は3ゲーム100円だ。
弁当屋のあるビルの地下にある。
階段を降りていると突然、緊張してきた。
そういえばもう半年近くサシで話していないかもしれない。
ゲームセンターに着くと、もう声がした。
いる。
そう思うと、のりおは格闘ゲームのブースに入っていった。
すると正統派の不良ばかり6人で遊んでいた。
そうだこのメンツだ、特にラインバレルと親しいメンツだ、どこか懐かしいとのりおは思った。
「あの、先輩方、こんばんわ、のりおです。」
すると不良達がほぼ同時にのりおの方を向いた。
そして、
バン!
バン!バン!
ドカ!
不良たちはアーケードを手のひらで叩いたり、足で蹴っ飛ばしたりした。
そしてのりおを睨みつける。
「ん?」
「のりお?」
「はい、のりおです。」
「え、まじ、のりお?」
「のーりお?」
「はい、のりおです。」
ギャハハハハハハハハハ
不良達は意味もなく笑い出した。
「ふっ」
「はっははははっはははは」
立ち上がって近づいてきた。
背はのりおと同じくらいだが、歩き方と威圧感が尋常じゃない。
ある不良が言っていた、あいつが立っている道を歩きたくないと。
ある不良が言っていた、あいつを街で見かけたら隣の街で遊ぶと。
ある不良が言っていた、あいつと同じ色のインナーを着たくないと。
「元気かよ?」
3年生、木村鉄治、通称、ラインバレル。
浦和のラインバレルと言えば川越の不良だって知っている。
「あ、はい元気です!」
のりおはさっきまで固かった表情が緩んだ。
「ラインバレルさん、あのおれ・・・」
言いかけると、不良達が声をあげた。
「のりおくーん!」
「松平って女と仲良くなってどうするの?」
「えっちなことー!」
ギャハハハハハハハハハ
不良達は手をたたいて笑った。
「あ、いや、すんません・・・」
するとラインバレルはのりおの肩に強引に手を回し、笑顔で言った。
「知ってんだよ。」
そして肩に回した手を今度はのりおの頭の上に乗せ、少し強引にのりおの頭をクシャクシャにしながら言う。
「こいつ、来なかったらどうすっか考えてたんだ。」
最後にのりおの背中をバシっと叩いて言った。
「俺らとは揉めねんだなつまり。」
「はい。」
のりおは答えた。
すると体の大きな奴が声をあげた。
「おおお、俺らを選んでくれたかー、のりおー!」
ビー玉。本名、原山英彦。
「てっちゃんには逆らえねーよな!」
嬉しそうだった。
「えーうっそ、のりおくん、ウチらに味方するのー?」
「かーわーいーいー!」
オカマ芸に定評のある岡崎がうるさい。
「のりおくーん!」
「じゃあやっぱ松平とはエッチするのー?」
ギャハハハハハハハハハ
不良達は大笑いだ。
「あ、はい、そうなんです。」
ギャハハハハハハハハハ
「えーうっそ、のりおくん、エッチするために仲良くしてるのー?」
「かーわーいーいー!」
「最低だな!」
「のりおくーん!」
また笑われると思ったら今度は静寂に包まれた。
ラインバレルが笑っていないからだ。
そしてラインバレルは急に睨みつけてきた。
「なわけねーだろ、松平とはどういうつもりだ?」
のりおは言った。
「その話をしに来ました。」
するとラインバレルは眼をカッと開き、口は笑いながら言った、
「そっか、じゃあ表で二人で話すか。」
言われるがまま、ラインバレルとゲームセンターを出て、階段をのぼり、弁当屋の前まで出た。
のりおは正直に胸中を打ち明けた。
ラインバレルはのりおをジッとみたまま聞いていた。
そしてランバレルは話の終わったのりおに言った。
「いいなそれ。」
「野球部はもういい。野球部はレジスタンスにくれてやる。その代わりミスリルを潰してミスリル派を解散させろ。ミスリルには俺の手下を返してもらう。」
ランバレルを顎のあたりをポリポリと掻きながら言った。
「だからミスリルと和解してミスリル派の独立をいったん認めてやりゃいいんだな。俺らと揉めながらレジスタンスの代表者とタイマンなんて、さすがのミスリルも絶対に受けねえだろ。しかし俺らと和解して、かつレジスタンスの手中に野球部があったら、条件次第でタイマンを受けるかもしれねえ。」
「俺らは俺らでそうやって背後を固めて、お前らより先に風紀委員会に逆襲をかける。長谷川の仕事を増やしてやらねーとな。」
「俺は考えるのが苦手だ、それ以上は、もうわかんねえよ。」
のりおは驚いた。
「あの、ラインバレルさん、なんで、そんな・・・」
のりおは、いまさら、まだタイマンをはると決まったわけではない、とは言えなかった。
ラインバレルは、ぽかーんと口をあけた後、語りはじめた。
「許せねえんだよ、シャングリラの奴。もはや大田さんのこと何とも思ってねーだろ。」
「それに俺はワルタレしかできねえ手下率いて喧嘩上等を売ってんだ。もちろん他人様なんて知らねえ、知らねえが、明らかに弱い奴には手をださねえ、そういう集まりだ。」
「でもシャングリラは違う、人間様で遊んでやがる。なにが公開処刑だ、なにが再教育だ、風上におけねえとはこのこと。」
「とにかく、お前、つーかお前ら、俺にそんな話持ちかけたんだ。負けましたじゃすまねえからな。」
のりおは、最後、一切合切を松平に伝える了承を得て、帰宅した。
つづく