みんなのシャングリラ
5月15日、風紀委員会臨時会。
「昨日、放課後の中庭で起こった喧嘩について。担当者、報告せよ。」
臨時会の司会進行は副委員長の長谷川。
担当者が起立する。
「報告します。」
「野球部と2年生の集団の間で起こった喧嘩です。2年生の集団は現在調査中の抵抗勢力レジスタンスと思われます。なぜなら首謀者の松平が現場にいたからです。野球部のゲットゴールのりおが一方的に相手方を殴打しています。以上。」
担当者、着席。
「以上で御座います、シャングリラ様。」
「松平は既に重要参考人として写真添付で共有してあります。見間違いはないと思われます。」
長谷川は真面目だった。
委員長シャングリラはゆっくりと口を開いて言った。
「紅茶が不味くなるニュースね。」
「のりお君の暴力は処分保留にします。」
「どうしてですか?シャングリラ様!」
長谷川が聞く。
下座にいる平の風紀委員達は口を閉ざしたまま上座に鎮座するシャングリラに傾聴する。
「そうね」
「・・・ジョバイロ。」
シャングリラの席の斜め後ろに用心棒のように立つ長身の男、ジョバイロ。
ジョバイロはニコっと微笑むと、半歩だけ前に出て話しはじめた。
「シャングリラ様になり代わり、申し上げます。」
「のりお君をウェンディ認定し風紀委員会が彼を再教育することは、これまで大田さんの後輩として野球部を扱ってきた我々としては一つの転換点となります。」
「しかしそうした野球部への介入、特にゲットゴールのりおのような中心人物を人質をとってコントロールするやり方は、現在の野球部をめぐる複雑怪奇な情勢(我々+不良二派+レジスタンス)を意図せず大きく動かしてしまう可能性があります。そこで他勢力との戦況を読み切ったあとで、あくまで我々のタイミングで、やるべきです。」
ジョバイロは終始、ニコっとしていた。
「いいわジョバイロ。わかりやすい。でも読みが浅いわ。」
シャングリラは下座を見渡すと一呼吸してから話し始めた。
「政治性や戦略性の高い決断になるため公務として淡々と執り行うことができないということです。しかし野球部とレジスタンスの接触は情報交換だった可能性があります。喧嘩になってしまったのは、本来的な軋轢があるからです。しかし情報交換自体は大なり小なり、なされたと思います。」
「言い換えれば我々、風紀委員会は、火中の栗をレジスタンスに拾われたという意味で、すでに後手に回った可能性があります。もちろんあくまで可能性です。」
「そこで、のりお君に対してはジョバイロの言う通りですが、のりお君以外の野球部員が、少しでも風紀を乱した場合、なんくせつけてウェンディ認定しなさい。一人でいいわ。」
「これでいいかしら?」
シャングリラはジョバイロを見ずに言う。
するとジョバイロはシャングリラに深々と礼をして言う。
「とんでもございません。わたくしの心得違いで御座いました。」
すると今後は長谷川が、今度は大声で叫んだ。
「いいかお前ら!野球部員は微罪でもしょっぴけ!そいつが人質だ!」
長谷川は真面目だった。
それを聞くとシャングリラは満面の笑みを浮かべ、満足げに席を立ち
「みなさま、ごきげんよう」
と静かに言う。
するとジョバイロが下座に向かって大声で叫ぶ。
「はいっ!せーの!」
すると下座の平委員が声をそろえて叫ぶ。
「おつかれさまでございます!」
去っていくシャングリラに長谷川が立礼、平委員が座ったまま礼、ジョバイロは共に退室した。
臨時会は閉会した。
つづく。