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ゲットゴールのりお  作者: おしりファルコン
2/19

勃発

坂本は一つ前の席の小泉と親しげだった。

小泉とは中一で同じクラス、また連番だった。

のりおも、一つ前の斎藤が同じ野球部で、よく話した。


勉強のできない斎藤は教科書をよく忘れた。

そのたびに小泉が見せていたが、拝観料といってシャーペンの芯を徴収していた。

斎藤が教科書を雑に扱うと修繕費といってやはりシャーペンの芯を徴収していた。

斎藤がまだ問題を解けなくて先に進めないときは、遅延損害金などと言い出した。

そのときは流石に先生が教科書をかした。


小泉と斎藤にそういう一幕があるたびに坂本はのりおに話しかけた。

「なかいいよねー」

毎回、同じセリフなのでのりおはイラっときた。

しかし少し後ろの席の寶井たからいも同じ野球部で、後ろから斎藤を軽くいじって、教室を盛り上げた。

そのおかげで坂本とのりおも会話が続くようになった。




ある日の教室。


坂本はぶっちゃけのりおが好きだった。

どうすれば昔のふざけきったのりおに戻るか悩んでいた。

そこで思い切って放課後、聞いてみた。


「佐藤くん、なんで笑いとらなくなったの?」


無視された。


「佐藤くん、笑いとれなくなったの?」


のりおは、


「成長したんだ。お前と違って。ガキが。」


と返した。


そこで坂本は

「ガス♪ガスガス♪ぅふふ♡」

と歌った。


のりおはハッとした表情で坂本をみると少し悔しそうにして、

「それはすごく大事にしているんだ。家でまだやる。」

と返した。


坂本は、とりあえず、うれしかった。

まだやるんだと思った。



すると寶井がやってきた。

「のりおー。4組の松平っているじゃん。女。のりおに用だって。」


廊下にいた。

腕組みをして仁王立ちしている。

まず挨拶をした。

「野球部の佐藤です。」


すると松平は言った。

「レジスタンスの松平です。」

「・・・レジスタンス?」

「とりあえず来い。中庭だ。レジスタンスについて説明してやる。」


失礼なやつだとのりおは思った。

いきなりサラ金の返済が滞った人のような扱いをうけた。


「いやです。」


「君に拒否権はない。」

「調べたら君ら野球部も大田といっしょに悪さしちゃってるからな。君らをどうするか裁判だ。」

松平は怪訝そうに言った。

なぜかすでに御立腹の松平。


おれなんかやらかしたのか?

大田さん?そういや不良だったからなー・・・

でもなんでおれ?


とのりおは思った。


松平は目をカッと見開いてしゃべるやつだった。異様に迫力がある。

背の低い女のくせに堂々としやがって。

かなり自己中心的とみた。嫌だ。しかし、


「さいですか。」


のりおは、もう話だけでも聞くことにした。

おとなしく中庭に連行された。

ただし寶井にも一緒にきてもらった。

様子をみていた坂本はとても腹が立った。


話は3年前にさかのぼる。東小で一番偉い大田は中学に入学すると片っ端から不良をシメてまわり、あっという間に頂点に登り詰めた。やがて大田は校内の格闘技経験者など猛者を見つけては喧嘩で撃破、服従させたのち、あえて不良を取り締まる風紀委員会に編入させた。風紀委員会は、大田の息のかかった武装組織へと変貌した。相反する二つの武装組織をコントロールすることで、大田は学校の王として君臨した。善良な生徒たちは大田の機嫌だけは損ねたくなかった。


そして今年、大田は卒業。すると不良グループ約40名が二つに分裂した。大田のオンナだった山口(通称:ミスリル)のミスリル派が、大田から不良グループを任された木村(通称:ラインバレル)の正統派から独立した。独立をめぐる抗争は、廊下で突然喧嘩が始まるなど、校内を無法地帯にした。


風紀委員長、渡辺(通称:シャングリラ)は、支配者大田がいなくなったいま、不良グループとの協調的支配に意味を見出さず、風紀委員会だけで校内を支配する秩序構想を掲げた。つまり不良グループは排斥する意向。しかし不良同士の潰しあいは静観した。参戦しての敗戦が許されないため弱体化を待った。その代わりに公開処刑を実施。程度の甚だしい不良を毎週1名だけ選んで捕まえてシメあげて晒し者にした。さらに不良以外の生徒で素行の悪い者を「ウェンディ」と呼び、風紀委員会が毎週末開催する再教育イベント「シャングリラファイトクラブ」に強制参加させた。そうした恐怖政治と並行して、シャングリラは毎週火曜日放課後に家庭科室で茶会「愛羅会」を興じ、善良な生徒達との対話を惜しまなかったが、もっぱら危険分子の早期発見を意図した。


さて大田の直属の後輩、のりおを含めた野球部員達であるが、のんきに野球を続けていた。いまだ大田に忠誠心のあるミスリルとラインバレルは、野球部をきちんと大田の後輩として扱ったので平和だった。それどころか彼らは野球部を自軍に引き入れ対抗勢力に備える構想を持っていた。


不良から特別扱いを受ける野球部を、他の運動部は苦々しく思い、野球部のいないところでは野球部の悪口はもちろん廃部論まであった。東小時代にサッカーで英雄的存在だった人気者、のりお、彼の存在によってかろうじて野球部は守られていた。


ここで2年生の松平は、校内の平和主義を唱え、不良グループと風紀委員会の両方を排斥する思想を掲げた。そして自らリーダーシップをとり抵抗勢力「レジスタンス」を結成、同級生を中心に10名での決起だった。レジスタンスの目的は、武装勢力の撃破を通じて、武装勢力のせいで機能不全に陥っている生徒会の権限回復、および形骸化した生徒総会の復興である。


校内をさらに混乱に陥れる危険を十分承知していた松平は、まずのりおに接近した。最大の不確定要素である野球部、その実質的中心人物のりおを見極めることからはじめた。


つづく

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