出る杭は打たれるとしても
風紀委員会 vs. 不良正統派 vs. 不良ミスリル派のみつどもえの争いに抵抗勢力レジスタンスが生まれ混沌とする中、不良二派閥が停戦し、風紀委員会 vs. 不良正統派 が今後の展開として予想されるなか、レジスタンスに所属の主人公のりおは、抗争とは関係ない話で、日常の人間関係の難しい場面に会った。
5月25日、金曜日、昼休み。
雨上がりの金曜日。
水たまりがチラホラある中庭。
風紀委員会が教職員の指導で実施する再教育。
「教職員の指導で」とは、再教育に値する生徒のリストを教職員が作成した事実を意味する。
再教育そのものは風紀委員会が風紀委員会のタイミングで実施する。
佐藤のりおは選定された人物の一人だった。
しかしのりおはまだ無事だった。
週明けの放送委員会、島貫のプロパガンダを風紀委員会が待ったため。
しかし風紀委員会は今週、抗争をピタっとやめた不良達に苛立ちを感じていた。
もっとも善良な生徒達に対する不良特有の蛮行は相変わらずだったが。
不良正統派を率いる「ラインバレル」も今週は様子を見た。
自分から見てアホなミスリルがキチンと和解交渉通りに停戦するか慎重になった。
また風紀委員会の次の手も見ておきたかった。
今週、ラインバレルが不良達を統制し、善良な生徒達への蛮行をやめさせながら風紀委員会のみを狙って軍事行動に出ていれば、島貫のプロパガンダには一定の難しさが加わっただろう。
しかしそのようにはしなかった。ラインバレルはそこまで考えない。
もっとも、不良ミスリル派の善良な生徒への蛮行は輪をかけてひどかった。
坂本も相変わらずだった。
一人で問題集を解いたり、本当に仲の良い女子生徒としか会話しなかった。
仲良し5人組は、水曜あたりから三谷が加わって仲良し6人組になったが、坂本がこんな調子なせいで、いまいち盛り上がりに欠けた。
しかし三谷が寶井経由で休み時間に絡んでくるようになったせいか、逆に仲良しグループが暗くなったりもなかった。たとえば小泉と三谷が成績のことで小競り合いをして、斎藤と寶井が楽しそうにする感じだった。それに寶井がのりおを、小泉が坂本を巻き込んで会話が続くような構図の6人組だった。
昼休み、のりおはバスケ部2年の土屋に呼び出された。
土屋と言えば中1で県の選抜に呼ばれたイケメンバスケットマンである。
のりおとは東小で一緒だった。
春のバスケ大会と秋のサッカー大会で名声を分け合った二人でもあった。
バスケを続けた土屋とサッカーを辞めたのりお、しかし土屋のほうがジュニアユースまで上り詰めたのりおを高く評価していた。
「のりお。ぶっちゃけた話するけどいいよな?」
土屋はどこか高圧的というか威圧感があった。
「ああ。いいぜ。」
のりおは昨今の喧嘩やレジスタンスについて色々と言われるのだと思った。
「坂本っていう子が噂だ。のりおに猛アピールしててウザいって。」
土屋ははっきりと言った。
「なんとなく言われてるのわかる。ていうか誰かに直接に言われたんじゃないのか?」
のりおは、こりゃ俺も言われてるなと思った。
「坂本なんて知らない。見せつけやがるとか、のりおを悪者にするやつもいて俺はそっちが許せない。」
土屋はさらにはっきりと言った。
「いや、俺はいいんだけど、ひどくね?」
「坂本、暗くなった・・・」
のりおは噂話が嫌いだった。
そういう事のせいで一人の人間が暗鬱になるのは本当に大嫌いだった。
しかし、そういうのを面白がる連中は結局、大したことはできないとジュニアユース時代に監督から教わっていたし、実際にそう思うので、自分は平気だった。
「そういうのがいけないんだ。好きでもない女の面倒なんかみるな。俺は小学校で経験した。思い出したくもないが忠告に来た。好きでもない女にアプローチされたら、そいつに大恥かかせてでも突っぱねろ!」
土屋は一番言いたいことを言った。
のりおは土屋の剣幕に押された。
まだ水たまりがチラホラある中庭。
なんで大嫌いなものと折り合わないといけないのか。
しかしのりおは土屋の剣幕に押された。
「そっか。ありがとなツッチー。」
のりおは中庭の花壇のレンガに腰かけた。
そして動かなくなった。
「俺、ちょっとこうしてるわ。」
のりおは土屋を見て言う。
土屋は軽くうなずくと自分の教室へ戻っていった。
のりおは5時間目をばっくれた。
掃除の時間になると、のりおに気づいた藤倉が中庭にやってきた。
「やあ、ゲットゴールのりお。いい身分だな。」
「ああ、授業なんて受けたくなくてな。」
のりおは一切悪びれる様子がなかった。
「ゲットゴールのりお、聞いてくれ。僕はミスリルさんを好きになったぞ。ミスリルさんは家庭環境などから科学と接する機会がなくてああなんだ。僕にできることはたくさんある。悪い人では絶対にない。」
それから藤倉はずっと和解交渉で初めて会ったミスリルについてしゃべりだした。
のりおは面白いからずっと聞いていた。
藤倉が話し終わると、のりおは掃除場所に行った。なんとなく掃除はやりたかった。
つづく




