ゲットゴールたからい(後編)
ゲットゴールたからい(前編)の続き
5月20日、月曜日、朝。
日曜日、寶井は、三谷、そして女子4人組の計6人でラルカラをした。
6人で2時間だったがまずまずの盛り上がりだった。
寶井を好きな三谷はキャミソール重ね着にホットパンツという勝負服で挑んだ。
本当にラルカラをしたかっただけの他の女子に比べて服装で明らかに浮いていた。
三谷はポツンとしていた。
他の女子達とそこまで親しくなく、会話の中心が基本的に寶井だったため。
寶井は当初、よく話す三谷と一緒なら間が持つと思っていたが、意外にも女子達が自分を中心に会話を盛り上げた形になった。
三谷は途中何度もトイレに行った。
要するに失敗である。
なんとなく三谷が楽しめていないように思えた寶井は、三谷が買い損ねたというラルクアンシエルの花葬(初回限定版)を与野本町駅線路下のCD屋で中古で探し出して買ってきていた。
なぜかというと、5月10日の会話の流れ的に自分が三谷を巻き込んだ気がしていたからだ。
「三谷ー。」
寶井がホームルーム前の教室で三谷に話しかける。
「うん?」
昨日はぐっすり寝た三谷。
さすがに「寶井も私のことが好き」は妄想だと気づいていた。
気づいたらぐっすり眠れた。
「ほら!」
寶井が三谷にCDを渡す。
「?!」
驚く三谷。
「これ・・・わーありがとう!」
嬉しそうにする三谷。花葬の初回限定版が欲しかったのは本当だったから。
「ありがとうじゃなくて、500円!」
寶井は500円を徴収した。
「家帰って俺が最初に聞いて、カセットテープに録音したんだ、だから500円でいいぞ。」
寶井は500円のわけを説明した。
「・・・」
黙って意気消沈の三谷。
自分のために買ってきてくれたと思っていた。
と同時に、寶井の家はお金あるんだろうなと思った。
「今度払う。」
「おっけ。」
三谷はこれで本当に妄想劇場が閉会した。
自分の席に座ろうとする寶井。
寶井のとなりの女子の列、三谷のとなりの男子の列、間に二列隔てた二人の席。
寶井を見つめる三谷。
このまま自分が話かけなければ、このまま終わる気がした。それでいい気もした。
よくよく考えれば「寶井も私のことが好き」という妄想に支えられた恋でもあった。
端的に言うともう頑張れないのである。
しかしそんな気持ちとは裏腹に言葉が出た。
「寶井・・・」
小さな声、寶井には聞こえた。
「なんだよ?」
三谷に振り返る寶井。
笑顔だった。
三谷は思った。
「たからいかわいい」
すると三谷はガタっと席を立った。
「寶井!どこで買ったか今度教えて!」
三谷は大きめの声で言った。
「うん?与野本町駅の・・・」
今、場所を言おうとする寶井。
そんな寶井を制するように三谷は言った。
「『今後』だってば・・・」
三谷は二人でデートがしたいというニュアンスだった。
「たからいかわいい」
ただそれだけの恋心、それでも紛れもない恋心だった。
妄想劇場が終わっても、その気持ちに変わりはなかった。
三谷は思った。
自分が寶井を好きなんだと。
どんなちっぽけな思いでも、やはり終わらせることなんてできないと。
自分が毒リンゴを食べたとして、いつか寶井が迎えに来てくれるくらい、自分が寶井に好かれればいいんだと、ただ三谷はそう思った。
「あ、じゃあ今度行くか!アハハ」
寶井は笑いながら着席した。
伝わった。
三谷は急にギョッとした顔をして下を向いて着席した。
しかし「どういう意味?」というお決まりのセリフは言わなかった。
自然と言わなかった。
共に過ごした時間は互いを裏切らない。
そんな二人が何年かのちに、街を歩いている気がする。
頑張れ!三谷さん!
つづく
(ゲットゴールたからい・終)