放送委員長島貫
5月22日、火曜日、放課後、家庭科室。
火曜日の放課後はシャングリラこと渡辺愛羅による茶会「愛羅会」が家庭科室で興じられる。愛羅会は参加希望者のうちシャングリラから指名された10名規模の生徒達が、シャングリラと談笑して過ごす時間である。しかしこの日、シャングリラはある人物1名のみを愛羅会に呼んだ。
放送委員会委員長で新聞部部長の3年生、島貫絵里である。
島貫とシャングリラは同じ空手道場にいた旧知であり、1年のころから仲が良かった。
愛羅会では、緑茶、紅茶やハーブティーなど好きな茶類を選んで飲むことができる。おかわり自由。淹れるのはジョバイロである。
「絵里。お元気かしら?」
シャングリラがファーストネームで呼ぶ数少ない人物の一人、島貫。
「あーはい、元気っすよ。おかげ様で新聞部も予算をしこたま貰えました。誠心誠意ジャーナリズムに励んでいく所存っすよ。」
「そんなことより聞いてくださいよ。SMAPのライブ行きたくて、父の仕事の手伝いしてるんすよ、小遣い欲しさに。」
「したらエクセルとかWindows95の使い方がかなりわかってきて、新聞も電子化しようかなって思ってるんす。でもしたら使える奴しか新聞部の仕事ないやんって顧問に言われて、うざっ!・・・みたいな。」
島貫はよく喋る性格だった。
「いいわね。お父さん、Windows98にしないのかしら?」
シャングリラは興味ありげに聞く。
「や、なんか、Windows98にしなくていいってみんな言ってるらしいっす、親の周辺。よくわかんないんすけどね。」
「あーでもなんか、ワープロあんま好きじゃないっす、字は手書きのほうが慣れてて、書道もやってたじゃないすか私。」
島貫は言ってることがコロコロ変わる性格だった。
そのまま島貫とシャングリラの歓談は小一時間続いた。
今日は雨。
外の雨音が二人には素敵な音楽に聞こえるくらいだった。
「・・・そろそろいいかしら?」
シャングリラは言う。
「あ、はい。すみません。」
島貫は頭を下げる。
「我々、風紀委員会は4月に、教職員の指導のもと校内健全化に寄与するとプロパガンダしたわ。校内放送や校内新聞で、公開処刑や再教育イベントに関して、絵里に文面を委託してプロパガンダしたけれど、かなりいい出来だったわ。善良な生徒達の大半が賛意してくれていたわ。」
「それでプロパガンダをもう一回やることになったの。『教職員の指導』というのが今日、具体的にあったのよ。そこで我々の支持率が低下しないように、指導内容を踏まえて今後の校内健全化の取り組みを、再度プロパガンダしたいの。また絵里にお願いできるかしら?」
シャングリラは静かに語った。
「いいっすよ。」
島貫は快諾。責任重大なのは百も承知だ。
「ただ指導の内容って、公開処刑廃止と、教職員作成の素行不良者リストに従うって話ですよね?これどう転んでも『風紀委員会すべりましたよ』にしかならないですよ?」
島貫は歯に衣着せぬところがある。
「『素行不良者が手に負えない』という主張に改めて大勢の同調がほしいわ。」
シャングリラは言う。
「あ、いや、それは前回も使った手口っすよ。『改めて』って言われても二番煎じっすよ。」
島貫はよくわからない様子だった。
「ジョバイロ。」
シャングリラはジョバイロに答申を求める。
ジョバイロは紅茶を淹れながらニコっと笑って言う。
「岩田に処刑された不良の被害者達の声って、これまで大々的に報じられてないじゃないですか?このタイミングで特集を組んでください。」
「あ、あーなるほどですね。わかりました。やらせていただきます。」
島貫はジョバイロに礼をした。
「今日の茶会に私しかいない理由これっすよね?お邪魔でなければ茶会、このあとも普通にやりたいっす。愛羅とおしゃべりとか中々できないし。」
島貫は、こいつらは本当にクソだなと思った。
つづく