のりおピンチ?
不良二派閥の和解交渉は成功し、抗争は停戦になった。今後は風紀委員会 vs. 不良正統派という様相を呈すと思われ、さらに不良ミスリル派と抵抗勢力レジスタンスが野球部を巡って対立する様相を呈すると思われる。
5月22日、火曜日。
朝、のりおが登校すると坂本が熱心に数学の問題集を解いていた。
「偉いな坂本!」
のりおは上から目線で話しかける。
「・・・」
返事をしない坂本。
「・・・」
のりおも後が続かない。
会話終了。
この日は一日、こんな感じで問題集を解いている坂本だった。
いつもならのりおに気の利いた言葉の一つや二つかける坂本だったがこの日は違う。
のりおもなんか変だなとは思った。
しかしそこまで気にしなった、別にのりおから坂本と付き合いたいわけではない。
坂本とのりおは悪い意味で噂になっていた。
のりおにこれ見よがしにアプローチする坂本、曖昧なのりお。のりおには松平のこともある。
そんな彼らをある生徒が辛辣な言葉で評価したのが発端。
2年生の一部地域では「ウザい」「クサい」といった声があり、昨日の部活で坂本は女子テニス部の仲間から指摘されてしまっていた。
のりおはもちろんそのことは知らない。
雨。
いつまでも降り続きそうな五月雨。
五月雨はいらないシャワーのようだ。
同じ日の朝、風紀委員長シャングリラ、副委員長の長谷川、ジョバイロは職員室に朝呼びだされた。
風紀委員会の担当教員、御手洗は彼らに話があった。
御手洗は三人に告げた。
「先週、再教育をした糸井君、PTSDだそうだ。金曜日に帰宅したら顔面も腫れあがっていたし、親が病院に連れて行ったら、そう医者に言われたそうだ。見学した細矢君もずっと部活を休んでいて、やはりPTSDの疑いがある。再教育はくれぐれも子供の喧嘩の範疇に収めてくれないと困るよ?」
言い終わると御手洗は気味の悪い笑いをしてみせた。
「申し訳ありません。」
三人は謝る。
「うん。それで君らのやっているウェンディ認定だが、やはり行き過ぎた暴力に発展するようだから、これは廃止にする。その代わり、これまでの全校生徒の素行から再教育が必要と思われる生徒のリストをつくっておいた。不良と不良に準じる素行の悪い者のリストだ。このリストは増えはしない。必ずこのリストに従って再教育の対象者を決めてくれ。」
そういうとシャングリラにリストを渡した。
チラッとみるシャングリラ。
「わかりました。ご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません。」
平謝りのシャングリラ。
「うん。行っていいよ。くれぐれも危なくないようにね。」
御手洗はそういうと、三人を他所に別の仕事をしだした。
職員室を退出する三人。
退出すると開口一番ジョバイロが言う。
「絞め殺してえあのガマガエル。」
笑う、長谷川。
「リストにあったわ。佐藤のりお。」
落ち着いた声のシャングリラ。
「長谷川。でもなんで嬉しいのかしら。週明けからピタッとやんだ不良同士の喧嘩といい、ここに来て不測の事態だらけだわ。」
怪訝そうなシャングリラ。
「のりおの再教育ができるのは楽しみだろ。長谷川、のりお大嫌いだし。」
ジョバイロが言う。風紀委員会の外では普通にしゃべるジョバイロ。
「そうなの?長谷川。」
「いえ、違います、しかし申し訳ありません。」
真顔に戻って長谷川は答える。
シャングリラは歩きだした。
「のりお君がリストにあるのは不幸中の幸いです。教職員による今回のルール改正で、反乱分子など我々にとって不都合な人間を、そういう理由で消せなくなりましたし、人質として管理下におくこともできなくなります。風紀委員会は不良とは違い、ルールのないところで暴力は働けません、ルールが変われば行動は制約されます。」
するとシャングリラはピタっと止まって言う。
「ジョバイロ。」
ジョバイロが静かに語る。
「お気持ちお察しいたします。しかし、教職員が作成したリストは『暴行を加えながら管理下に置いてよい』『武力で撃破してもよい』対象者のリストです。」
「口も腐る思いですが、ある意味、ある種の『お墨付き』です。我々は、教職員という公権力の代理という立場から一歩も動くことなく、不良やそれに準じる者を排斥できます。」
ジョバイロは、いつもの作り笑いはしなかった。
するとシャングリラがまた歩き出した。
「そうね。いままでの政治戦略的やり方から、戦力を投入しての武力行使に転換していくべき。」
「でも不良の抗争の動向を見極めてからね。」
そう言ってスタスタと歩いていくシャングリラ。後を付き従う、ジョバイロと長谷川だった。
つづく




