5月第3土曜日
公開処刑執行人岩田が撃破され、二の手、三の手を打たんとする風紀委員会。彼らの虚を突いて和解する抗争中だった不良二派閥。さて抵抗勢力レジスタンスの次の一手とは?
5月19日、土曜日、第三土曜日のため午前授業あり。
「さーとおくん♪松平と仲良くなって♪どーするのー♪」
のりおはギクっとした。
坂本だった。
「その歌、どこかで聴いたのか?」
のりおは尋ねる。
「廊下で歌ってる人いたよ?オカマっぽい人・・・」
と坂本が答える。きっと岡崎だ。
公開処刑執行人岩田が撃破された。
不良達は土曜日にもかかわらず登校し、校内を好き放題に闊歩した。
別に誰の指図でもなくそうした。
「佐藤くんさ。」
坂本がそのまま話しかけてきた。
「相方の寶井くんが三谷さん達とカラオケ行って、斎藤くんもさとみ(小泉)とファッションセンターしまむらに遊びに行って。」
「『なんかおれだけねーな』と思ったりはしないの?」
松平の強引さを、恋愛感情に基づくのりおへのアプローチと思い込んでいる坂本はもはや暴走特急だった。
のりおは悩んでいた。
坂本ってこんなんじゃなかったよな。
もっと良い意味で明るくてアホだった気がする。
見た感じ明らかにデキている斎藤と小泉のせいもあるんだろうなとも思った。
のりおは坂本に言う。
「坂本、ジョテニだよな?」
ジョテニとは女子テニス部。
自分に好意を持っていることもわかったし、なにより周りがそのように認識しているため、粗野にもできなくなっていた。
「そうだよ♪」
嬉しそうな坂本。
「・・・」
のりおは次の言葉が見当たらない。
「うんとー。えっとー。したら。」
言うに事欠くのりお。
「俺らもカラオケ行くか?」
のりおは言ってみた。
ガタッ
席を立つ坂本。
「ふたりは、やーだよ♪」
そう言って小走りでどっか行った。
「・・・そっか。」
のりおはホッとした。
最後、以前の坂本だった気がした。
「佐藤のりお・・・」
ボソっと誰かが呟いた。
「見直した・・・」
三谷だった。
「あ。ああ、さいですか。」
のりおは三谷に言う。
「手ごたえがないと、どうしても醜態さらしちゃうんだよ、坂本みたいな子は。7来たら3返せ。」
三谷はのりおを見下ろしながら言った。
ガタッ
誰かが席を立って教室をでた。
チラッとみたら寶井だった。
5月19日、放課後、部活前。
のりおは松平に廊下で会った。
会ったというか、ほぼ待っていた。
「のりお!」
案の定、話しかけてくる松平。
すると急に小声になって言う。
「ラインバレルとミスリルの和解、今日の午後8時だからな、私も同席することになった。」
「のりおも出席させるよう言われたが、拒否しといたからな。そういう事だから、ラインバレルに会ったら上手くかわしておいてくれ。あと念のため、のりおには場所は言わないでおく。悪く思うな。」
松平は続ける。
「公開処刑執行人岩田が撃破されたが、おそらく岩田の代役はない。もう4回も救急車騒ぎだからな、このまま公開処刑自体、教員の認可が下りず、廃止になるだろう。これで横綱相撲とはいかなくなった風紀委員会は、必ず汚い手を使ってくる、野球部やのりおは完全に標的だろう。」
「あー。そっか。」
「したらちょっと考えてたことあって、それ前倒しでやるか。松平、ちょっと来てくれ。」
のりおは松平に言う。
「松平って写真愛好会だから、どこの部も入ってないよな?」
意味ありげに聞くのりお。
「ああ、入ってないぞ。家で腹筋、背筋、スクワット200回やってるけどな。」
以外に身体を鍛えていた松平。
のりおは松平を連れて職員室に行くと、野球部顧問の柴田に頼み込んで、松平を野球部の臨時マネージャーにしてもらった。のりおが丁重に頼み込むと、柴田は二つ返事で快諾した。
「女子マネージャーか、部が明るくなっていいな。大田が来て以来、どこか暗鬱だったんだ。」
松平は女子マネージャーとして野球部に携わりながら野球部とレジスタンスの同盟をすすめていく。
また今後のりおがウェンディとして風紀委員会の管理下に置かれても、野球部はレジスタンスを背景に自律できる可能性がある。
松平はそのまま、ジャージに着替えて野球部の手伝いをした。
「今日はみんなに明るいニュースがあるぞ。」
部活開始時の集合で柴田は部員たちに松平を紹介した。
「4組の松平心愛です!」
「ホークスファンだけど大丈夫かな?」
ハハハハハハハハ
「あ!大丈夫そう!」
「なんでもしまーす!」
パチパチパチパチ
松平は意外とウケが良かった。
というか松平を知らない部員がほとんどで驚いた。
本当にコイツら野球だけやってたんだなと、のりおも松平も思った。
これで俺たち野球ばっかやってられないんだろうなと寶井は思った。
つづく




