岩田の離脱をうけて風紀委員会の対応
5月18日、金曜日、部活終了後。
サッカー部部長の細矢は風紀委員会副委員長の長谷川に連行された。
細矢はウェンディではない、しかしサッカー部のウェンディ糸井の再教育をよく見学するようにと連行された。ここで再教育とは「シャングリラファイトクラブ」のことである。ウェンディとは不良ではないが素行の悪い者を意味する。
この日は、公開処刑執行人岩田が不良(正統派)3年の「ビー玉」によって一時意識不明の重体で病院送りにされたため、予定されていた公開処刑は中止となった。公開処刑とは風紀委員会が実施している校内健全化活動の一環であり、不良1名を剣道部部長の岩田が地稽古でボコボコにするというものだ。
岩田を倒された風紀委員会、委員長シャングリラは、異常事態にもかかわらず公開処刑のあとに予定されていたシャングリラファイトクラブを強行。ただし内容を少し変更した。再教育されるのはサッカー部の糸井のみ、そしてサッカー部部長の細矢に見学させるというものだった。
長谷川は糸井を小一時間殴打した。
途中、ポリバケツで水を三度ぶっかけるなどした。
糸井の顔面は腫れあがった。
シャングリラファイトクラブは、通常、ここまでの暴行はしない。
しかしこの日はある目的があったため過度に暴行を加えた。
細矢は涙をながしながら「俺を呼んだ目的はなんなんだ?」と聞いた。
主催者である委員長シャングリラは答えた。
「糸井君を再教育から卒業させたければ、のりお君と喧嘩をしなさい。細矢については不問にするから。」
細矢は泣く泣くその申し出を聞き入れた。
細矢は来週中にのりおと喧嘩をしなくてはならない。
のりおは喧嘩をすれば素行の悪い者としてウェンディに認定される。
あわよくば、のりおの戦線離脱も期待できる。
これまでの経緯から、シャングリラは、現時点では「のりおのウェンディ認定による人質化」を風紀委員会の最善策とした。そして、これまで下知していた「のりお以外の野球部員を微罪でもウェンディ認定する」を取り下げた。
以前、あえて「のりお以外」としたのは「中心人物を人質にとることで戦局に与える影響が大きいため慎重になるべき」という論調だったが、公開処刑執行人岩田を倒されたこともあり、逆に戦局への影響力を回復すべき、その一環として「のりお以外」という注文はなくなった。逆に「のりお以外を微罪でもしょっぴく」が取り下げられたのは、はっきり言って、想像以上にリスクがあったこと、それに対するリターンも今となっては微力だと思われるためである。
しかし抵抗勢力「松平」、野球部「のりお」、不良正統派「ラインバレル」の3勢力の事実上の同盟関係について風紀委員会はこのときまだ知る由もない。ただし先日の「松平の賄賂と大河内の収賄」によって、こうした同盟関係が今後できうるという認識はあった。しかし不良正統派と不良ミスリル派の間で和解交渉が行われることについては、完全に風紀委員会は虚を突かれていた。
さてそもそものウェンディ認定の基準であるが、まず「シャツがでている」「ハンカチがない」「爪が長い」「上着のボタンを開けている」など衛生チェックでウェンデイ認定は原則なされない。そのような微罪で再教育しては、さすがに生徒から支持されないため、また人手も足りなくなると思われた。そこで「喧嘩で誰かを殴った」「モノを壊した」「タバコを吸った」などがウェンディ認定の対象である。要は、不良ではない者が不良と同じような悪事を働いたらウェンディ認定されるのである。(斎藤はのりおを殴打したが友達同士のふざけあいにすぎなかった)
ただし風紀委員会臨時会で処分保留とした場合は認定されない。その他、善良な生徒からの反発があった場合も現場で善処されたり、臨時会で処分保留になったりする。処分保留は、以前にのりおが処分保留になったときのように政治戦略的な意味合いでの実施のほか、風紀委員による暴行を免罪するためにつくられたルールである。善良な生徒からの反発を加味するのは、生徒達との対話を意識しているという印象操作の意味合いで実施されるほか、現場の風紀委員が暴行を受けないようつくられたルールである。(大河内はそれでも暴行されてしまったが)
つづく




