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お客様が神様だ!  作者: 迷
4/4

04_食神登場!2

大食い大会のスタート間近のその頃。

観客の熱はいよいよ最高潮になり、待ちに待った料理が運ばれはじめ、選手たちはライバルを見ながら戦略を練っていました。


・・・しかし会場の端っこに座るヒノコはそんな緊張感も無しに未だにモナさんと個人的トークをしていますなうでした。



「モナさんてそんな細いのに大食いアイドルなんですか。大丈夫なんですか?」


「いや私よりずっと細いヒノコさんに言われても・・・というか、名前を知っていらっしゃったので当然知っているかと思ったんですが・・・」



モナさんの言う事はもっともです。モナさんは細身ながらもしっかりと健康的な見た目をしていますが、ヒノコは細身を通り越して骨と皮。誰がどう見ても健康には見えません。



「名前と顔はチラシで見たことあるのですが・・・テレビは随分前に生活費に変えてしまっていまして・・・」


「そ、そうですか・・・まぁともかく、お互いに頑張りましょうねヒノコさん!」


「ですね!」



今から大会なので一応はライバル同士ということになる筈の2人なのですが、2人とも対抗心などはまるで無い様子。

何というか、とても似た雰囲気のお二人です。



「あやつ、これから戦う者の緊張感も何もないではないか・・・!」


「すみませんこっちも写真良いですか~?」



ちなみにナオ様はそんなヒノコの態度に立腹しながら写真を撮られ続けていました。





【・・・さてさて皆さん、料理はお揃いですね?

こちらはパム介が宣伝部長として絶賛売り出し中のご当地パン、Pork 'n Tomato Sandwich(ポォクントメィトサンドウィッチ)です!これは全て地元の食材を・・・】



全ての選手に料理が運ばれたのを確認すると、司会の男性が結構なハイテンションで何ともクセの強い発音で料理名を紹介を始めます。横にいるパム介も短い腕を腰に当てて胸を張ります。



選手たちの前には白パンが置かれていました。

それもただのパンではなく、丁度真ん中あたりから上下に切られたその間には香ばしく焼かれた豚バラ肉の薄切りと厚切りのトマト、それと千切りキャベツが挟まれた巨大ハンバーガーのようなものでした。

しかも見た目は確かにとても美味しそうなのですが、その直径は25センチ弱くらいで高さは10センチほど。普通の胃袋を持つ方なら4分の1切れも食べてしまえばお腹いっぱいになってしまうボリュームをしていたのです。


選手たちは1皿だけでもなかなかのボリュームがある強敵料理【ポォクントメィトサンドウィッチ】にゴクリと唾を飲み緊張感を高めます。



「ぶ・・・豚肉にトマト・・・!?こんな豪華な食事何カ月ぶりでしょうか・・・!!」


「ヒノコさん・・・そこまで・・・っ」



・・・しかし彼らと同じ立場である筈の選手の一人ヒノコはというと、口からヨダレを垂らして見物客でも余裕で聞こえる音量でお腹を鳴らし血走った目をガン開きにして料理を見ていて、隣のモナさんは潤んだ目で憐みの表情を向けていました。

そしてそんな様子に気づいた観客の方は料理の説明よりも何よりも「早くこの子に料理を食べさせてあげて・・・」と同情の雰囲気に段々と変化していきます。


司会の方もそんな様子に気付いたせいか、ヒノコの迫力にドン引いたためか、



【い・・・今すぐにでも食べはじめたそうな方もいることですし、そろそろ開始させていただきましょう。

ルールは制限時間30分以内に最も多く食べた方の勝利。お代わりの方は手を上げて申告してください。それと体に異常を感じた場合でも無理せず早めに申告してくださいね!】



料理の説明をそこそこに切り上げ大会を開始する方向へと話す内容を変更してくれました。



【では・・・スタートォォォォォ!!!】


【おおおおおおおおおおおおおおお!!】



スタートの宣言と共に選手たちは一斉にパンを掴み、豪快にかぶりつきました。

元々そういう戦いなので選手の食べっぷりは見ごたえ抜群で、ステージ前の見物人も待ちに待った時間に興奮しながら大きな声援を送ります。



・・・で、肝心の選手たちの様子ですが、


まず注目するのは開場左側に座る筋肉質で大柄男性の敦盛(アツモリ)さん。大食い界ではそれなりに有名な方らしく、期待した通りに開始早々ものすごい勢いで食べ進んでいます。

しかしそのすぐ右隣にいる小太りのちっちゃいおっさんも中々のもので、アツモリさんを時々観察しながらほぼ同じペースで食べ進めています。

その他の方は開始してからあまり時間が経っていないこともあってほぼ横ばいな食べ具合で、それは会場の中で一際目を引く右端の女性お二方のヒノコとモナさんも同じでした。



「むぐ・・・これが久しく忘れていた豚肉の味・・・!!いつまででも噛んでいたい!」


「ヒノコさん、大会中ですから味わうよりも速さと量を・・・もぐ」



ヒノコはしっかり味わって食べているようで大きくかぶりついてしっかり味わいながら食べ、モナさんはアイドルらしく口を汚さないように少しずつ綺麗に食べているのが印象的。

大食い大会でガツガツと食べる他の選手たちと比べると女性2人の食べるスピードは若干遅れ気味のようです。



そんな状態で10分が経過すると見物人の興奮は段々と収まって見守りモードに変化し、選手の間に差が出てくる頃合いとなっていきます。



まず最も食べているのはやはり2皿と3/4皿くらいを食べきっているアツモリさんとその右隣のちっちゃいおっさん。

その次に追い上げているのが2皿と1/4皿くらいを食べてる女性アイドル兼フードファイターのモナさん。

それから少し遅れを取りながらも味わいながらスピードを変えず食べ続けている2皿目を食べきったばかりのヒノコ。


他の選手は段々とペースが落ちてきていて精々ヒノコと同じくらいかそれより少ない程度の食べ進み具合にペースダウンし、実質的にトップ争いは4人に絞られてきたようです。



「モナちゃーん」


「モナちゃん頑張れー!!」


「アツモリー!そのままいけー!」



そして人気を集めているのはアイドルのモナさん。アツモリさん派の声援もモナさんには劣りますが聞こえてきますがやはりアイドル人気には勝てません。



「あのちっちゃいおっさんとガリガリ女は何者だ?」


「今まで見た大会にはいなかったと思うけど・・・」



ちっちゃいおっさんとヒノコは知名度が無いせいか応援の声はあまり無いようですが、無名ならではの注目を集めていました。



「・・・ふむ、見た目の割に中々やるではないか」


「こっちも写真良いですか~?」



ちなみにナオ様は応援に飽きた女性陣たちの注目を集めまくり、いつの間にか撮影待ちの列が形成されている有様でした。





それからさらに10分。残り10分になってくると選手の大半が食べることをほぼ諦め手を止めるか、勝負にならないペースで辛うじてちびちび食べているだけのような方が殆どになりました。



【おーっと、ここに来てアツモリがペースダウン!段々と差が縮まってきているぞぉ!?】



未だに黙々と食べ進んでいるのは相変わらずのトップ争いをしている4人だけとなりました。

順位は自体は前半から変わらずのままですが、4人中最も食べ進んでいるアツモリさんと現状4位のヒノコの差は1/2皿くらい。実質トップ争いをしている4人の差は1皿分も無い激戦となっていました。

スタート直後に比べて男性2名が少しだけペースダウンして女性2名がほぼ同じペースのまま食べ進めているため差が縮まってきているようです。


・・・これは本格的にヒノコの優勝もメじゃないような雰囲気になってきたのではないでしょうか?


そしてさらに、



「ガリガリの姉ちゃん、頑張れーーー!!」


「今食べておかないと次の大会までに骨になっちゃうわよ!」



ガタイの良い強豪ぞろいな選手の中で活躍しているヒノコに向けた声援も段々と増えてきていました。これは目立つという当初の目的も十分に達成できたと言えるのではないでしょうか。

さらにさらに、これが神様の力なのか単なるヒノコへの同情心からか、とあるひと言がヒノコの耳に入ったのです。





「もし優勝したらウチで採れたトマト、タダで譲ってやるぞ~」





「・・・・・・・・・むぅ!?」



このひと言がヒノコの目を大きく見開かせたのです。


何しろヒノコの家系事情は火の車。野菜もモヤシを買うことはあってもトマトなんてお高い野菜をお客に出す分以外に買うことなんてありません。

それがタダでもらえる → お店の仕入れの経費が浮く → 余った分は自分で食べられるという事。



【ここで残り時間3分を切ったーーー!!!】


「むっむぅーーーーー!!」(必勝ーーーーー!!)



・・・とりあえず【ポォクントメィトサンドウィッチ】が口にパンパンに入った状態で突然叫んだヒノコの言葉はヒノコ以外には理解不能でした。



「む・・・ふぃのこふぁん・・・!?」(ヒノコさん・・・!?)



最初にヒノコの変化に気付いたのは、そのすぐ隣で現状3位を維持したまま食べ続けていた女性フードファイターのモナさんでした。


それまでのヒノコはどちらかと言えば勝つ事より食い溜める事を目的として食べていました。なので食べている量こそそれはすごいものでしたがスピード自体はせいぜい一般的な男性と同じか少し遅い程度です。しかしここで何が彼女を刺激したのか、残り数分になり胃袋は限界に近いはずの状況でいきなり食べる勢いが増していました。



「ふぁ!?」



大食い業界でそれなりに活躍しているモナさんでもびっくりするほどのラストスパートでした。

元々ほぼ差は無いと言って良いくらいの3位のモナさんを彼女が驚いている間にあっさり追い抜き、随分と席が離れているためこちらの様子など知る由も無い2位のちっちゃいおっさんも、さらに1位をキープしていたはずのアツモリさんを一気に抜いてしまったのはほんの1分も経たない間の出来事です。



【お・・・おーっと!ここで痩せているお姉さんが一気にスピードアップ!!これは1位のアツモリも抜いたんじゃないかー!?】


【うおおおおおおおおおおおお】



慌ててモナさんが司会の方を呼び寄せたのは残り時間がほんの秒読み段階の頃、お腹の具合から司会の情報で1位をキープできる最低限のペースで食べていたアツモリさんと、そのアツモリさんにつかず離れずで1位をかすめ取ろうとしていたであろうちっちゃいおっさんには寝耳に水のトンデモ情報でした。

そしてアツモリさんとちっちゃいおっさんが慌てて残りのパンをなんとか口に押し込みお代わりの合図をするも間に合わず、その頃にはお代わりを係の方が運ぶ時間も無いくらいのタイムリミットギリギリ。もうどう足掻いても追いつけない差が出来てしまった後でした。



【終ーーー了ーーー!!なんと優勝者は会場の誰もがビリだと予想していた大穴中の大穴、日向さんに決まりましたーーーーー!!】



食べた量7と1/2皿分。

7皿丁度を食べきった同点2位の3人と大きな差をつけて、予想外の大穴選手ヒノコが優勝の座を勝ち取った瞬間でした。

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