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弱い者いじめ

2015年3月13日、ロンドン市内のカナルとテムズ川の規制が変わった。


カナルは最高2週間までの滞在期間に加え、同じ場所に数ヶ月戻ってこれない。

テムズ川は、特定の場所に最大24時間停滞できるが、ほとんどの場所で1時間以上停めてはいけない、というルールになった。


テムズ川のコミュニティーやカナルのコミュニティーでは、ボート住居者たちが路頭に迷いだした。


ボート仲間たちも、これ以上黙っているわけにはいかなかった。

最後の悪あがき状態、ついにテレビのインタビューに応じることにまでなり、法律が変わる前日の全国版で放送された。


彼らは「規定の停滞場所はどこも高いし、いっぱいなので、これからどこに行けばいいのか」と訴えた。


カナルや他のコミュニティーでも、子供を抱えて本当に困っているボート生活者たちの様子がテレビに映し出され、わたしたちは胸が痛む思いで見ていた。


翌日からコミュニティーの場所にあるボートは全て動かさなければいけない。

そうでなければ裁判に掛けられたり、高額な罰金を請求されるのだ。


置きっ放しのわたしたちのボートも動かさなければいけない。

24時間しか同じ場所に停められないので、旦那は毎日仕事が終わってからボートを動かしに行くことになった。


その間、旦那やボート仲間たちの一部が、なんとか停滞場所がないものかと探し続けた。

しかし、人は住んではいけないが、ボートだけを停めておける場所が辛うじて見つかったと思ったら、法律が変わったと同時に、場所代が 倍に跳ね上がっていた。


こうなったらもうお手上げだ。


そんな中、なんと旦那がソーシャルネットワークを通じて安い場所を見つけてきた。

場所はボートの中に住んではいけないボート専用停滞所で、テムズ川のど真ん中にあった。

川の流れが速いとボートが危なっかしくユラユラと揺れるが、ちゃんと鎖で繋いで停めることができる。


ボートから陸に移動するときは、小さいゴムボートか何かが必要だが、毎日移動し続けて暮らすよりはマシだ。


旦那は場所の管理者に話を付けて、すぐにそこを借りることになった。

そして、すごく浮かれて、大張り切りでボートを移動しに出掛けた。


それが、全く予想も付かない事態に変わった。


ボート移動当日に、管理者から断りの電話が掛かってきたのだった。


場所が見つかったと飛び跳ねるぐらい大喜びしていた旦那は、なぜ断られたのか分からず呆然として、酷く落胆して帰ってきた。


そんな仕打ちは旦那だけではなかった。


値段が上がってもいいから、とにかく一定の場所に落ち着きたい、と場所を決めた一人のボート仲間も、ボートを移動してきたその日に管理者からいきなり「契約拒否」されたのだと言う。


色々と調べてみると、どうやらわたしたちコミュニティーにあったボートは、全てブラックリストにされていたらしい。


コミュニティーも追われ、場所も借りれず、わたしたちはこれから、どうしたらいいというのだ。


わたしはあまりにも酷い扱いに、テムズ川の管理機関やお役所に手紙を書いて、停滞場所の管理者たちにわたしたちを他と同等に扱うように伝えて欲しいと訴えた。


でも、待っても待っても返事はない。


同じ内容でメールをしても返事は無い。


しびれを切らして、同じように停滞場所の契約を断られたボート仲間が電話をすると、お役所も管理機関も「知らない」とぶっきらぼうに応対するだけでなんだか様子が変だ。


その間、旦那はそんなことに時間をとってられないと、しつこく場所貸しを断ってきた管理者に電話をしていた。


そして聞き出してきたことは、なんと、信じられないことに、お役所やテムズ川の管理機関が、法律が変わる前に「要注意ボート」と称してコミュニティーにあったボートのリストを停滞場所管理者たちに渡していたのだと言う。


それじゃあ、わたしたちも含め、ボート仲間たちはどこにも場所を借りることはできないではないか!


そして、そんなブラックリストに載ってしまったボートを、誰が買うというのか?


わたしは世の中が本当に怖くなった。


これって完全に弱いものいじめだ。


そしてお役所や管理機関は、こんなことをして何の意味があるというのだろう?


この時から、旦那は場所を探すのを諦めた。


旦那は毎日ボートを動かし続けなければいけないし、わたしたちは親に会いに遠出すらすることもできない。


旦那はボートをさっさと売ることに決め、休みの日はペンキ塗りやら修理や修復に追われた。

時には泊まり込みで作業をしたりした。


って言うか、誰が買ってくれるのだろう。

ボートの値打ちも下がってしまっただろうし。


わたしと娘は、旦那を見る回数が減ったので、これがいつまで続くのか、ボートは売れるのかと、不安が募っていくだけの日々を過ごした。


家に住むことができても心配事が減らないわたしたち家族だった。

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