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娘の誕生会

9月末は娘の誕生日だ。


2014年9月は、娘が4歳になる年だった。

まだ4歳だと思っていても、一丁前な自己主張はしっかりする。

誕生会は盛大に友達を呼んでパーティーをしたいと言い、ジャンピングキャッスルも用意して欲しい、と言うのだ。


前にMAちゃんの誕生会の話を少し書いたが、この国の誕生会は盛大だ。


大人も誕生会をするが、子供のは結構頻繁に行われる。

仲の良い友達を数人呼んでパーティーということもあるが、娘ぐらいの年だと、まだ仲の良い子も決まっていないので、クラス全員を招待するというのはよくあることだ。


それプラス、まだ小さいので、親も同伴してもらうことになると、それはそれは大掛かりなパーティーになるのだ。


大きい家だと問題なく家でできるが、そうでない人は、場所を借りることになる。

例えば、教会や地域の公民館、公園も貸切にしてくれるところもあるし、レストランなども、食事付きでパーティーができるプランなどがある。

ピザ屋などは、プランに子供たちがピザを作ったりできるものもある。


それに更にジャンプングキャッスルを加えたり、エンターテイナーを呼んだりすると、親は何もしなくても子供たちを楽しませることができる。


娘はMAちゃんの誕生会や、友達数人の誕生会に呼ばれたことがあるので、自分の誕生会をしてもらうことを、

ずっと楽しみに待っていた。


娘の誕生会......

盛大に......


うーん、わたしたちには大きい家も、お金もない。


そして何よりも学校が始まったばかりの娘には、特定の友達がいない。

クラス全員呼んでしまったら、ちょっとすごいことになってしまう。


と、考えた末、場所はボートのコミュニティーがある、目の前の原っぱにすることにした。

雨が降ったらどうしようもできないが、一か八かで原っぱパーティーだ!


これで場所代は無料。


いつもパーティーばかりするボート仲間のPが、快くイベント用テントや食べ物を置くテーブルなんかを貸してくれるというので、やったあ! これも無料。


ついでにDJブースと、Pの弟DJも貸すと言ってくれたが、これはちょっと、と断った。


こんな時でしかラッキーとは思わないのだが、旦那もWも小遣い稼ぎに子供相手の大道芸人の仕事をときどきしているので、エンターテイナー代も無料!


ジャンピングキャッスルも、旦那がお世話になってるエンターテイナーのエージェントから、特別に2時間限定で、格安で借りることができた。


そして、食べ物はバーベキューと決めた。

Wの友達が肉屋なので、低価格で質の良い色んな肉をセレクションして持って来てくれると言う。


という事は、わたしたちはスナックやサラダ、飲み物に、最後にお土産として配るパーティーバックを準備すればいいだけだ。


問題は、誰を呼ぶかだ。


ボート仲間たちにびっくりするかもしれないので、娘のクラスのお友達は呼ばないことにした。


他に娘の友達と言えば、MAちゃんといつも世話になってるフランス人ママの息子、Pの彼女の孫3人。

そしてボート仲間たちと、わたしと旦那の友人たち.....


ってあれ?

大人の方が多いじゃん......


と言うことで、事情を良く知っている日本人のお母さんたちに、子供たちを連れて来て欲しいとお願いした。


当日、9月末の天候が不安定な時期に、幸運なことに晴天に恵まれた。


わたしと旦那が買い物に行っている間、ボート仲間たちは、娘の誕生会のために朝からテントを張ったり、バーベキューの準備、ジャンピングキャッスルにつなぐ発電機など、色々準備してくれた。


それも、すごく張り切って。


日本人のお母さんたちは、プレゼントまで持って、遠くから来てくれた。

しかも、ホームレスみたいな格好で酔っ払っているボート仲間たちのことも、寛大な目で見てくれていた。

ついでに、わたしたちのボートを見学していたが、みんな、わたしたちの暮らしを尊重してくれた。


パーティーが終わるころ、エージェントがジャンピングキャッスルを片付けに来た。

遊具が片付けられると知ったボート仲間たちは「ちょっと待て!」と子供たちをどけて、キャッスルで飛び跳ねだした。

日本人のお母さんたちは、それすらも笑って受け流してくれていた。


忙しかったけれど居心地が良く、娘も大喜びで、誕生会をして本当に良かったと、参加してくれたみんなに心から感謝した。


日が沈み、皆が帰った後、残り物をボート仲間たちと食べながら、Pと旦那がみんなにビールを振舞って、またパーティーが始まった。


娘はもらったプレゼントを全てベットの周りにおいて「楽しかったねー」と何度も言いながら眠りについた。

枕元には、ボート仲間たちが一人一人お祝いのメッセージを書いてくれた色紙があった。


仲間がいて、助け合って、いいことも悪いことも一緒に分かち合える人達がわたしの周りにいるということは、とても奇跡的なことなのかもしれない。


わたしはずっとずっとこのままでいたいと思った。


仲間たちが、焚き火をしながらみんなで冗談を言ったり歌ったりしている。


わたしはいつものように遠くからそれを見ていた。


パチパチと燃え上がる火の粉の横で、ゆらゆらと揺れる仲間たちの影が、本当に映画のシーンみたいに綺麗で感動的で、その光景をそのまま箱に入れてとっておきたい気分だった。


あの時わたしは、仲間たちが仲良く集うこの光景を見るのが、その日で最後になるとは思っても見なかった。


たったちょっとの欠片が崩れただけで、仲間たちが皆一斉に崩れてしまう。


そんな嘘のような事件が起きたのはこの後すぐだった。

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