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学校が始まった

2014年9月、娘の学校が始まった。


娘はまだ4歳なので幼稚園クラス。

1日たった3時間通うだけで、制服も着なくていい。

それでも一応、学校指定のカバンだけは持って行くので、娘も少しお姉さん気分だ。


それに輪をかけて、ボート仲間たちに朝から「楽しんでおいで~」「いっぱい学んで来るんだぞー」と送り出してもらい、帰ってきたら「今日はどんなことしたんだ?」と言って来るので、娘にとっては、学校に行くと言うことは、特別なことのようだった。


それにしても、昼間っから酔っぱらっているボート仲間たちに「勉強ちゃんとしてきたかー?」と言われて「イエス!」と素直に答えている娘のやり取りを見ていると、コメディーを見ているみたいだ。


娘の学校が始まる数週間前、学校の先生2人が家庭訪問にやって来た。

初めて学校に通う子供たちを良く知るために、ほとんどの学校で行われる。


わたしは学校説明会のときに、「予め記載してある住所はメールボックスなので、家庭訪問に来るときはボートに来て欲しい」と、大体の場所と住所を担任の先生に教えておいた。


当日、旦那はボート仲間たちに、「先生方が来るので、行動を慎むように」と、念を押していた。

ボート仲間たちも、しっかりと旦那の言うことを聞いてくれて ( ? )、先生方が来たときは、なぜかエレガントな立ち振る舞いで「ハロー」と笑顔を振りまいていた。


家庭訪問はいい感じに終わった。

先生方は優しそうで感じが良く、特にボート暮らしや環境のことには触れず、普通に応対して、普通に帰って行った。


学校も始まってみると、子供たちもすぐに仲良くなり、親たちも自然な感じで話せる雰囲気だった。


ただ、この国ではよくあることなのだが、親同士のグループが自然に3つに分かれていた。

一つは白人のイギリス人グループ、次に黒人グループ、そしてわたしを含めた外国人グループだ。


わたしは気が楽ならそれでいいので、それはそれで良かった。

他のグループの親たちも、目が合うと挨拶するし、問題はないのだ。


それが、娘が入学してから数週間ほどたった頃、ドキッとするようなこと起きた。

わたしたちがボートから外に出た時、娘と同じクラスの男の子が、お母さんと一緒に犬を連れて散歩していたところと、ばったり出くわしたのだった。


いつかこんな日が必ず来るのは分かっていたが、わたしは突然で動揺した。


向こうは「あら、あなたは!?」と顔をして「ボートに住んでるの?」と聞いてきた。

わたしは「そ、そうです」と苦笑いで頷きながら、旦那に娘のクラスメイトだと説明すると、旦那はお気軽にそのお母さんと立ち話を始めた。

イギリス人同士、話しが弾んでいるようだ。


娘もクラスメイトの男の子も特に遊ぶわけでもなく、ただぼうっと突っ立っている。


わたしはどうしたらいいんだろう......


とりあえず、これでイギリス人たちのグループに、わたしたちがボートに住んでいると知れ渡ったも同然だ。

なんかちょっと面倒臭い。


翌日学校に娘を送りにいくと、そのイギリス人のお母さんは、今まで目が合ったら微笑むぐらいなのに、「ハロー」と挨拶してきた。

そしていつの間にか、本気か社交辞令か、「大雨が降って嵐状態の日は、ボートは危ないから、遠慮しないでうちに来てね」と言ってくれるようにまでなった。


娘も学校で「わたしのおうちはボートだよ」と言ったりするようになり、他の親たちも特にツッコミもせず、「あら素敵!」などと言うぐらいだった。


娘の学校が始まるまで神経を張り詰めて娘のことを心配し、ボート暮らしで娘がいじめられたり、差別されないように彼女を守ろうと心に誓っていたほど緊張していたわたしは、すごく拍子抜けした。


人って案外自分で思っているほど他人のことは考えていないというか、興味がないのだ。


よかった。よかった。


わたしは、娘の学校がますます好きになった。


朝学校の門が開くと駆け足で教室に入って行く娘を見ながら、心配ばかりしていた自分がバカバカしくなって笑えた。


世の中にはいいことも悪いことも、楽しいことも辛いことも、色んなものが溢れていて混乱してしまいそうになるけど、毎日を楽しくポジティブに生きて、たくさんのことを学んでほしいと、娘の後ろ姿を見ながら思った。

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