サッカーワールドカップ
2014年6月末、サッカーのワールドカップが始まった。
町中がサッカー色に染まり、もちろんボート仲間たちも「サッカー、サッカー」と浮かれまくった。
こんな楽しい夏の始まりに、取材陣が面倒だからと隠れているわけにはいかない。
と言うか、ワールドカップのおかげでメディアの興味対象がサッカーに行ってしまったのか、それともWが取材に応じてくれたので、彼らも満足したのか、取材者がパタリと現れなくなった。
ボート仲間たちはコミュニティ最後の夏になるかもしれないのだから、もう思い切ってお祭り騒ぎだー!
と思ったのかどうかはわからないが、「ワールドカップパーティーをする」と言いだした。
Pが率先して、なんと!
川沿いに大画面テレビを置き、屋台用のテントまで立て、また謎のDJブースまで出現した。
どこからこんなものを......
旦那に聞くと、旦那は「え?知らなかったの?」と言う顔をして言った。Pの弟さんが、フェスティバルやDJを用意する仕事をしていて、彼もDJの仕事を週末するらしく、こんなものを準備するのは簡単なのだと。
P自体も正体不明だが、兄弟そろってそんな感じなんだ......
と言うことで、ワールドカップパーティーが始まった。
イギリスが試合をする日、張り切ったボート仲間たちは、顔にイングランドの国旗を書くと言ってきた。
なぜかフェイスペインティングの道具を持っていたわたしは、旦那も含めて何人かを赤と白で塗りたくってあげた。
仲間たちは、ほぼ全員イングランドの国旗がついたTシャツを着て、大画面に向かって応援だ!
川沿いは、ボート仲間たちの他にも、通りかかった人たちや、どこからともなく現れた人たちでいっぱいになった。
スポーツ観戦は人々を一体にする。
イングランドの選手たちが入場すると、みんなで大喝采!
誰もが本当に、生き生きとして楽しそうだった。
そして......
イングランドは負けた......
がっかりして終わりかと思いきや、彼らはサッカーの結果などお構いなしに、パーティーを始めた。
コミュニティと民家から少し離れたところでパーティーは行なわれていたので、娘を寝かしつけたりしていたわたしは、どんな風にパーティーが繰り広げられているか知らなかった。
気になるので、夜も更けてからちょっとだけ覗きに行った。
そして、びっくり!
どこからやって来たのか、たくさんの若者がいて、みんなハードテクノにあわせて踊っている!
ドリンクバーまであり、ディスコライトが点滅していた。
って言うか、そこまでするか?
と、わたしは唖然とした。
もう、その空間は野外フェスティバルだ。
旦那も含め、数人がまだ顔にイングランドの国旗を塗ったままなので、暗闇とライトの加減で、誰が誰だかさっぱり分からない。
こんなにどんちゃん騒ぎして......
と思っていると、今度はPが打ち上げ花火を始めた......
もうめちゃくちゃだ。
あーあ、これっていいのか、なんなのか......
ボートコミュニティーで、仲間たちが一緒に過ごす最後の夏になるかもしれなかった。
みんな、楽しく過ごしたくてしょうがないようだった。
マスコミや地域住民たちの苦情がくるだろうなあ、......
と思いながらも、わたしは無邪気なボート仲間たちが楽しそうなので、こんな夏もあってもいいだろうと思った。
幻だったみたいに、この光景もなくなってしまうことを、わたしは心のどこかで、はっきりと分かっていたからだ。




