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娘の学校

2014年5月、いくつかの学校から幼稚園クラス入学受付結果のお知らせが来た。


結果は、娘が入れる学校はどこもなかった。


わたしは、前もって何校かに申し込み用紙を提出していた。

けっこう歩き回って、8校ぐらいに申し込みをした。


入学できない理由は定員オーバー。

ある学校は待ち人数130番目ぐらいだった。


娘と同じ学年になる子供が、この地区に一体何人いるのだろう......


そして、何校かからは通知が来なかった。


数人のママ友に聞いてみると、みんな近くの学校が決まって、通知が来なかった学校は無いと言う。


ふむふむ、じゃあ、いくつかの学校は、わたしの申し込み用紙を見落としたのか?


仕方ないのでメールで問い合わせをした。

わたし、直接行くのも電話するのも苦手......

なので事は出来るだけメールで済ませたい。


この国はメールだと結構な確率で無視されることが多いのだが、後で何か問題が起きたときに、メールだと証拠が残るので、それも便利だ。


ところで娘の学校、前にも話したが、小学校1年生の前に準備クラスとして、その歳に5歳になる子供たちが入るレセプションと言うクラスがある。

入学はレセプションからが義務教育の始まりだが、この歳に娘が入ろうとしている幼稚園クラスは、義務ではない。

ほとんどの学校が1日3時間で制服も着なくていい。

なので、そんなに焦る必要もないのだが、貧乏生活のわたしたちには、やっと来た保育園脱出の機会なのだ。


今までは、わたしが仕事の日は娘を保育園に預けていて、1日の保育料がわたしの日給を実は簡単に超えていた。

ではなぜ働くのかと言うと、出産後、

あまりにもブランクが長いと仕事がなかなか見つからないからだ。

しかもこれは仕事や会社によるかもしれないが、産休手当をもらったら最低でも1年は仕事に戻らなければいけないという決まりもあった。


とりあえず娘が学校に入るまでは、週に1、2回でもいいので働いておいて、その後に働く日数を増やしていけばいいと考えていた。

なので、無料の学校の幼稚園クラスは、わたしたちにとって必須不可欠だったし、その後の、午後の有料だが格安の保育クラスに娘を預けたら、家計は断然楽になるのだ。


数日後、ひとつの学校から電話が掛かって来た。


その学校の責任者だと言う女の人は、「調べたら申し込み用紙の住所は、人が住んでいる住所じゃないので受け付けられない」と言う。


「わたしたちは住所の無いボート暮らし、なので登録用の住所はメールボックス ( 私書箱 ) のを書いておいた。それだと学区外、またはメールボックスだと言われるのは分かっていたので、参考欄にボート暮らしだということと、だいたいのボートの停滞場所の詳細も書いておいた」


と、そう言ったことを伝えると、責任者だと言う人は唐突に「あなたどこの国の人?地方税は払ってるの?」と言うではないか。


わたし、きゅうに関係のない話題を振られてなぜか動揺。

「あ、あう、あわわ......」


何を言ってるんだ、わたしは宇宙人か。


質問に答えられないままでいると、責任者さんは言った。

「住所がなくて税金も払ってなくて、どう言うつもりでここに申し込みをしたの?」


どう言うつもりって、娘を学校に入れるつもりで申し込みました......


なんか、この責任者の人、怒ってるみたいだけど、何か勘違いしてるのかなあ......


そう思ってわたしは言った。

「ボートやキャンプカーなどで移動して特定の住所がない家族の子供は、基本的にどこの学校に申し込んでもいいことになってるって、お役所から聞いてあるんですけど...... 」


実は申し込みの前に、旦那がお役所の教育課に連絡して、自分たちはどこの学校に申し込んだらいいのか確認していたのだ。

そのことを責任者さんに言うと、なんだかもっと彼女を怒らせたようだった。


「あなたたちはジプシーなの? どこの学校でもいいなんて聞いたこともないわ! 役所に確認してそれを証明できるものを提出して下さい!」


あれ、電話が切れちゃった......


責任者さん、こっちの話も聞かないで勝手に切っちゃったよ......


横で娘は「誰から電話?」と無邪気にしている。


なんだか、まったく関係のない娘が蔑ろにされたみたいで、親として悲しい......


それから15分ほどして、今度はお役所から電話がかかってきた。

そして、わたしの力が抜けるようなことを言った。


「子供を連れた外国人が違法滞在しているらしいと報告があったので、確認のため連絡しました」


えー!? 何それ?


もしかして、あの学校の責任者、お役所に通報したの?


わたしが聞くと、お役所さんは「詳細は言えない」 と言うので、さっき学校の責任者と話した全てのことを1から話した。

すると、お役所のお姉さん「あなたたちのボートって、あの水門の前の?」と、わたしたちの事情を知っている様子。


そりゃあそうだ。

わたしたち、新聞載って、地域住民に文句言われ、お役所に立ち退けと警告され、結構有名人になっちゃったし、お役所さんの頭痛の種だもんねえ。


お役所のお姉さんは「そんなことなら、いいのよ」と安心したように電話を切ろうとした。


いやー、ちょっと待った!

こっちは全然良くない!


「住所がはっきりしていないわたしたちのような家族は、どこの学校に申し込んでもいいって言われたので、それを証明できるような手紙って書いてもらえますか?」 と慌てて聞くと、役所のお姉さんは 「自分は管轄外なので教育課に連絡して下さい」 と言ったのだった。


なんだかなあ。


わたしはなんだか疲れたので、旦那に電話してもらうことにした。

仕事中の旦那に電話して、無理やり教育課に電話するようにお願いした。


15分後、今度は旦那が激怒しながら電話をかけてきた。


なんでも教育課の人は、「そんな話を聞いたことはあるが、本当かどうかわからないので証明するものは提出できない」と言ったと言うのだ。


そして旦那が 「前に電話したときは、どこの学校も申し込める、と聞いた」

と言うと、「そんな話は誰も知らないし、今までそんな例もないのでわからない」 と返されたのだそうだ。


そして係の人は「県庁の教育課に連絡して聞いてくれ」と言うので、旦那は仕方なく県庁に連絡すると、今度は県庁が 「お役所の方に電話してくれ」と言ってくる始末......


「この国は誰も自分の仕事に責任もないし、押し付けてばかりで何もしないヤツらばかりだ!自分がこんな国の国民だなんて情けない!」

と、旦那は言った。


ごめん、旦那......

仕事中にこんなこと頼んじゃって......

でも、もうわたしの精神力と英語力じゃムリ。

というか、情けないわたし......

そして、情けない親......

本当に泣けてくる。


娘、学校に行けるのだろうか..... ?


たくさんのことが色々と重なって、やっと落ち着いてきたかと思いきや、またも問題発生......


それでも諦めるわけにはいかないのだ。

娘を学校に入れなければ。


娘の学校は無事に決まるのだろうか......




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