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家電が使えない!?

ボート生活3日目で問題は起きた。

ボートを購入するときに疑問に思った電気のコンセントだ。


引っ越してから3日間、ボート仲間たちは毎晩外で引越し祝いパーティーをしていた。

Wとわたしたちのボートは、ボート仲間のコミュニティから少し離れたところに縦に並んで止めていたので、仲間たちが集まって来てはパーティーばかりしていた。

パーティーと言っても、バーベキューをしながら男たちが遅くまで酔っ払って騒いでいるだけだ。


みんな仕事をしているのかどうなのか微妙な人たちばかりだったので、肉と酒代はどこから出て来るのか不思議だった。


今まで小さなフラットでわたしと二人だけで過ごしていた旦那は、友達がたくさん周りにいるし、ボート生活が始まったこともあり、すごく浮かれていた。


わたしは3日目でバカ騒ぎに飽きてしまったので、仕事から戻るとみんなに挨拶だけしてボートの中でゆっくりすることにした。

2日間、仕事、荷物の整理、パーティーで気がつかなかったが、さて、テレビでも見ようとして、テレビのコンセントを持ったまま硬直した。


どこにさすの?


ダイアモンドについていたコンセントの差し込み口は、外国製だかなんだかで形が違うので差し込めない。


不思議に思って旦那を呼ぶと、テレビ大好きの旦那は絶句した。


そして、わたしも更に絶句......

ドライヤー使えないじゃん......


引越し最終日に念のため2回も髪を洗って、長い時間シャワーを浴びたので、2日間シャワーを使わなかった。今日が始めてのボートでのシャワーだと思っていたのだが、ドライヤーが使えないとなると、髪が乾くまで布団には入りたくないので、寝る時間も遅くなる。


ボート仲間の中に、電気修理屋のSという男がいた。

Sのことはまた今度ゆっくり話すことにして、とにかく彼がコンセントの差し込み口をチェックして電圧を測ってくれた。


すると、とんでもないことが発覚したのだ。


イギリスの一般家庭で使われている電圧は240ボルト、車などで使うのは12ボルト。

ダイアモンドはその12ボルトしかないのだと言う。

一般家庭で使う家電は使えないということだ。


Sが言った。

「持っている家電を全て12ボルト対応のものに変えてしまうか、電気のシステムごと240ボルト用に変えるしかないなあ」


えー!

それってもちろんどっちにしても、たいそうな出費になるんじゃ......?

家電はしばらく使えないのか......


諦めモードのわたしの横で、「ケータイの充電も切れてるし、テレビも見れない!大変だ!」旦那パニック......


そういえば、パソコンも使えなくなるなあ。

家電が使えない生活とは、なんと不便なことなのだろう。


「発電機を買えばいいじゃないか。」Sが言った。


発電機!?


聞くと、発電機はボート生活には欠かせないのでボート仲間はみんな持っているという。

ガソリンを入れてエンジンをかけて、それで電気を作るのだ。

それに延長コードをつけて直接使えばいいのだ。


発電機は性能にもよるが、みんなが使っている小型のタイプは2000ワット使えて500ポンドから1500ポンドはする。10万から30万円ってとこだ。

今のわたしたちには絶対にムリな話だった。

かと言って、テレビがない生活など、旦那が黙っているはずがない。


翌日、仕事から戻ると、なんと!

旦那がボートでテレビを見ていた。

しかも、わたしたちの今までのテレビで!


昨日の今日で何が起こった?


その日は旦那も仕事だったので、数時間で240ボルト使用に変えるのはムリだし、テレビを12ボルト対応に変えたわけでもなさそうだ。

発電機などもちろん買えるわけがないし、一体どうなってるんだ?


わたしが不思議そうにしていると、旦那が言った。

「Wの発電機に、延長コードを使ってうちのテレビに繋げたんだ。これでしばらく発電機も買わなくて済むぞ」


窓を見ると、少し開いた窓の隙間からコードが垂れていてテレビのコンセントに繋がっている。


と、言うことは、ドライヤーもアイロンも使えるの⁉︎


わたしの言葉に旦那は軽く「使えると思うよ」と言うので、わたしはさっそくシャワーを浴びて髪を乾かすことにした。


ドライヤーをテレビのコンセントの隣に挿して電源を入れる。

すると、ドライヤーはブンと言ってから止まった。

そしてテレビまで消えた......


すぐにWが飛んで来て「何を使った!」っと焦っていた。

わたしがドライヤーをかざすと、しょうがないなあ、という顔をして言った。

「ドライヤーは電力が強いから単品で使わなきゃいけないんだ。もう少しで発電機、壊すところだったぞ」


それからWが使っている電気類もうちのテレビも消して、ドライヤーだけ使わせてもらうことになった。


Wが、わたしのドライヤーをオンにしたら発電機のパワーを上げるので、合図しろと言った。

わたしがドライヤーをつけて、旦那が「今だ!」と、外で待機しているWに叫ぶ。

待ち構えていたWは、発電機のパワーを切り替える。

すると発電機のエンジン音がブルン、ブルンと大きくなる。

わたしは急いで髪を乾かし、スイッチをオフにすると旦那がまた「終わった!」と発電機の横で待っているWに声をかける。

ガソリンも一気に消耗するのだそうだ......


って言うか、何、これ!?

こんなんだったら、もうドライヤーなんて使いたくない。

アイロンならなおさらだ。


これ以来、わたしはボートでドライヤーを使うのをやめた。

もう、自然乾燥でいいや......


その夜、Wの彼女Aと話していて、Aが言った。

「ドライヤーもコテも使えないから髪なんてどうでもよくなっちゃった。がんばってマニュキュアぐらいは塗ってるけど、水がなくて顔もろくに洗えないときもあるから、メイクもほとんどしなくなったし、どうでもよくなっちゃった」


発電機があっても家電が全部使えるってわけじゃないんだね。


「湿気が多いから服も靴もカビだらけになるし、コインランドリーにお金かけてられないから、洗わないで結局捨てちゃったのよ」

Aがすごくさみしそうに言った。


ああ、そうなんだ。なんだか落ち込んできた。


「お金がもっとあったら大きい発電機も買えるし、除湿機なんかも使えるのよ。宝クジでも買おうかなあ」


確かに、Aの言う通りだ!

お金がもっとあったら、こんなボート生活なんて選んでない!

......って本当にそうだろうか?


外では男たちがまたバカ騒ぎをしている。

この人たちはお金があってもボートを選んでいただろう。そして、お金があったら、この人達はもっとダメな人間になっているんじゃないだろうか......


わたしとAはワインを空けながら男たちのグチも含め、遅くまで色んなことを話した。

Aは自分の状況に共感できる同性がいて嬉しそうだった。


陸に住んでいたときは気がつかなかった小さなことが、実はすごいことだったのだ。

普通にしていたことができなくなったけど、今こうやってボート仲間たちと同じ空間を分け合っていることも、見えない財産なのかなあと、あやふやにいいように考えて過ごすことにした。


便利な生活に慣れてしまったら、それらがないと不便な生活になってしまう。

最初から知らなければ、ボート生活は不便なものにはならないのだろうか。


のび太くんは、ドラえもんがいなくなったとき、何もかも不便に感じるんだろうか......

とか、本当にどうでもいいことまで真剣に考えてしまうような夜だった。


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