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平和な臨月

2010年、イギリスの秋にしては天気が良く暖かい日が続き、これは現実かと疑ってしまうぐらいに平和な日々を送った。


夏の終わりになると、あちこちでバーゲンが始まる。

それに便乗して旦那がフローリング材を買って来た。

ボートが狭いので余計にお金を使わなくて良かったと言っていたが、細かい値段はおしえてくれなかった。


すごく怪しい。


そして、ベビーベットにする棚用の板と留め具を買って棚を作り、拾ってきた古い小さなタンスにニスを塗って、赤ちゃんのオムツや服を収納することにした。


わたしはその間、ボートを隅々まで掃除した。

タンスに塗ったときに残ったニスを壁に塗って、ピカピカにしたりもした。


NAと旦那はエンジンを組み立て終え、ANは逃げたくせに、何事もなかったようにやって来て、エンジンの最後の仕上げをしてくれた。


優しいNAは、わたしの母親が来たらボート生活が大変になるだろうからと言って、知り合いに頼んでその人のボート停滞所を1ヶ月だけ借りれることにしてくれた。

そこには電圧を繋げるところと水道があったので、発電機を使わなくてもいいし、水がなくなることもなかったので、それだけでもすごく助かった。


実際わたしは、母のことをすごく心配していた。

母は初めての孫の誕生を心待ちにしていて、どうしても出産に立ち会って、わたしと子供の世話をしたいと言ったのだった。

日本で普通に暮らしている母に、水も電気も自由に使えない暮らしは大変だと念押ししたが、母親は「自分たちが子供の頃は、もっと不便な暮らしを普通にしていたし、産後の世話をする人が必要になるでしょう」と言って、はるばるボート生活をしに日本から来ることになった。

それでもやはり、60代の母にはキツイだろうなあ、と心配していたところに、NAがまたもや助け舟を出してくれたのだった。


こうして、母がイギリスに到着する前日にボートを移動することになった。

とりあえず、コミュニティーから離れることも、母にとって静かで良いだろうと思った。


母はなぜだかボート生活にすんなりと溶け込んでいた。

初めのうちは母がラウンジで折り畳みベットに寝て、子供が産まれたら夜泣きがうるさくて仕事に行く旦那に差し支えるといけないので、旦那がラウンジで寝ることになった。

ちなみに旦那は、育児休暇を母が帰った後にとることになっていた。


わたしと母は久しぶりに親子でゆっくりとした日々を過ごす事ができた。

二人で赤ちゃんの寝床を準備したり、衣類などを買いに行ったりした。

幸い母が日本からすでに買って来たものや、もらいものがたくさんあったので、そんなにお金を使わなくてすんだ。

旦那ももちろんだったが、わたしと母は子供が産まれるのが待ちどうしくて、そして楽しくて仕方がなかった。


予定日前日の午後、16時間という格闘の後、無事に女の子の赤ちゃんが産まれた。

覚悟していたよりは大変だった、とは思っていたが、母曰く、「難産だった」ということだ。


わたしは必死すぎて何もかもどうでも良かったが、一睡もしていない母が「頑張りなさい」と声をかけている横で、旦那が「まだか〜」とか「お腹すいた〜」と言ってタバコばかり吸いに行っていたことだけは、ハッキリと覚えている......


こうして、わたしたちのボート生活に新しい家族が加わった。


世界に一つしかない大切な宝物と引き換えに、分かってはいたが、わたしたちの生活は180度変わった。


そして、なんとなく恐れてはいたが、出産と同時にわたしの性格も180度変わってしまったのだった......


2010年9月末、子育てをしながらのボート生活がついに始まった。

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