表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/96

変わろうとしている生活

わたしがのんびりと荷造りをしている間、旦那たちは色々なドラマを繰り広げていた。


引率者のいない修学旅行に行くみたいに浮かれまくった旦那たち3人は、

ビールや食料を買い込んで意気揚々とボートの旅を始めた。

旦那が舵を取る横で、Wはビールを片手にボート操縦の監督をする。


しばらくすると水門が見えて来た。

水門とは厚い扉で水をせき止めて、川の水位を調節するものだ。

門を開けるには水門の中と外の水位を同じにしなければいけない。

大きさにもよるが、通過するのに5分から15分ほどかかる。


Wたちはテムズ川での水門になれているので、意気揚々と旦那に指導しながら水門の前にボートを止めた。

そして、まさかの状況にWもMも立ち尽くす......

「なんだこれは...... 」

二人とも自動式の水門になれていたので、手動式の水門を初めて見た。


テムズ川では大体は水門係りがいて、ボタン一つで水位を調節してボタン一つで門が開く。自分でやるのも簡単だ。

手動式は両手でかなり重いネジを回して、水位を調節するソルーサーというものを下ろし、水位が同じになったら両手で体重をかけながら門を押して開ける。


カナルは昔からの作りのままがほとんどなので、彼らはこれを90回近くやらなければならないのだ。


そして、更に沈黙......

一体どうやって門を開けるのか?


仕方なく近くに止めてあった他のボート人に聞いてみると、ソルーサーを下ろすには鍵が必要なのだという。

鍵は先ほど出発して来たボート屋で売っているというのだ。

鍵と言っても、重い鉄の棒のようなものだ。

これからいくつもの水門を通過するのだから、この鍵は必需品だ。


仲介屋の兄ちゃん......

ボートを売りつけてしまったら、後はどうでもいいのか、それともそのことを知らなかったのか......


とにかく旦那は親切なボートの住人から自転車を借りて鍵を買いに行くことができた。


旦那たちは早朝から夜遅くまでボートを動かし続けた。と言っても、旦那がボートを操縦する横で、Wはビール片手にでかい声で冗談を言ったり、騒いだりするだけだったらしいが......


その間、Mというボート仲間は主婦のように動き回っていたという。

一日三食をマメに作り、ボートの中の掃除や、洗い物などの世話を焼いてくれたという。

Mは頭の先からつま先までイギリス人だ。

と言うのも、彼はサッカーの話が大好き。

パブもビールも大好き。

ビールの飲み過ぎで、中肉中背なのにお腹だけがポンポコタヌキみたいに大きい。

朝は毎朝近くの食堂で、イングリッシュブレックファストを食べる。

怪しい異国の食べ物なんて、絶対に食べない。

もちろん、日本食も食べない。

一日に何杯もミルクと砂糖たっぷりの紅茶を飲む。

そしてなぜか、イングランドの国旗が付いたポロシャツやら、キャップなどを身につけている。

よっぽど自分の国が大好きなのだろう。

何を思って、そして彼はどこでこれらを買うのだろうと、わたしはいつも思う。

とにかく彼はすごくイングリッシュなのだ。

そして、なぜかすごくマメなのだ。


旦那曰く、一日中ボートを操縦して疲れて休もうと中に入ると、きちんとディナーの準備がされていて、ローストビーフやポテトが皿の上にアートのように盛り付けされていて、デザートまで準備してあったらしい。

しかもレストランみたいにナプキンの上にナイフとフォークがきちんと並べられてあって、ついでにソファーの上のクッションまでもきちんと並べられてあったそうだ。

水門が現れると門を開ける手伝いをして、後はボートの中で主婦作業。


ちなみに、わたしたちのボート、ダイアモンドの屋根の上にはいつも可愛いハーブや花があった。

Mが季節ごとに花を植え替えたりして管理してくれていたのだ。

特に何も言わなくても、勝手に何か買って来て、勝手に植えてかわいくしてくれる。

なんだか便利だ。


ボート初心者なので一生懸命な旦那と、お気楽極楽なW、そしてマメなM。

3人のボートの旅はとでも充実したものだったらしい。

今まで気がつかなかったイギリスの素晴らしい景色と、ボート仲間たちの新しい出会い。

旦那は本当にボート購入は間違いではなかったと確信したのだそうだ。


とりあえず毎日電話すると言った旦那は、本当に毎日電話してきてくれた。


その頃、わたしも荷造りに追われていて、それはそれで充実した一週間だった。

整理してみると、「こんなに!? 」と驚くぐらいわたしたちには、どうでもいいものがたくさんあった。

色んな物を処分しているうちに気がついた。


わたしたちの暮らしには、必要な物だけが少しあれば良かったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ