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捨てる神あれば拾う神あり

ウィンザーに着くと、先に到着していた仲間のボートがあった。


Wはボートを止めるなり釣竿セットを下ろして釣りを始めた。

NAは翌日、彼の娘と孫がウィンザーに遊びに来ることになり、無表情ながらも嬉しいようだった。


わたしと旦那は、久しぶりに二人きりでウィンザーを観光することができた。

小さい町なので、途中仲間の誰かと出くわしてパブに行ったり、ランチを一緒に食べたりしながら、気軽な2日間を過ごした。


Wは丸2日間同じ場所で釣りばかりしていたので、ウィンザーの町は食べ物を買いに行く以外は歩き回っていないと言う。

わざわざ釣りだけのためにここまで来たというのか? ナゾだ。


さて、3週間のクルージングホリデーと決めてはみたものの、実はまだ1週間しか経っていなかった。

わたしと旦那はフローリングやベビーベットなどやることがあったので、もう戻ってもいいかと考えていた。


Wは「もう少し先まで行く」と言った。

他のボート仲間たちは、もっと先のレディングまで行く計画を立てていた。Wが「この先もいいところだからついて来い」と言うので、わたしと旦那は流れでもう少しだけ一緒について行くことになった。

NAだけが、癌の定期検診があると行ってウォルトンまで帰って行った。


ボートを動かしてすぐに旦那が異変に気がついた。

エンジンのパワーがない。

どんどん速度が落ちていくのだ。


エンジン室を開けてみると、ビックリ!

なんと「シュー」と言う音とともに、熱湯が吹き出していて、エンジン室が煙で充満しているではないか!


旦那は慌ててエンジンを切り、ムリやり川のほとりの茂みの木にボートをくくりつけて止めた。

パイプがどこか破裂したらしい。


Wや仲間たちとエンジンの故障箇所を探し出して応急処置をしても、またエンジンをかけると、湯気を立てて湯が吹き出る始末。


ああだこうだと、旦那は手も服も顔も真っ黒になりながらパイプと格闘したが、結局パイプをつなぐ新しい部品が必要だということになった。

仕方なくWが彼のボートでわたしたちのボートを引っ張って、目的の町まで行くことになった。

でも、テムズ川の流れがわたしたちが行く方向とは反対に流れていたので、ついにはWのエンジンにも負担が掛かってしまい、かなり低速度でなければ移動できなくなってしまった。


しばらくしてWは、なんと!

「自分のボートまで動かなくなる」と言って、途中でわたしたちのボートを見捨てて勝手に先に行ってしまったのだ!


怒る旦那。


わわわっ!

わたし、どうしたらいいんだろう。

妊婦のわたしはサイコーに使い物にならない。


旦那はWの文句を言いながら、それでも煙と熱湯を吹き出しているエンジンを動かしたり止めたりしながら、根性で少しずつボートを動かした。

やっとのことで目的地についた頃にはもう夜になっていた。


本当に長かった......


わたしたちが到着すると、先に着いていたWがバーベキューをしていて、わたしたちに肉を焼いてくれた。

Wと旦那はまた何事もなかったように一緒にビールを飲んでいる。

わたしたちのボートを引っ張ったせいでWのエンジンも壊れてしまったらしく、旦那はそれ以上Wを責めなかった。

とは言え、置き去りにするなんて、W、信用性ゼロの男。


幸い、エンジニアのANに連絡すると、翌日車で修理しに来てくれると言ってくれた。

ついでに必要な部品も取り寄せて来てくれると言うので、わたしはとりあえず安心して夜を過ごした。


わたしたちが到着した場所はマーロウという町だった。

街並みがかわいくて、小さな町だ。

テムズ川をまたぐ白い大きな釣り橋があった。

翌日、わたしと旦那はANが来るまで町を見て歩くことにした。

通りを歩いていると日本人グループがいた。

橋の近くまで行ってみるとまた日本人が数人いる。

最寄り駅まで行ってみると、また日本人の女性が3人グループでいて、無人駅でどうやってロンドンまで帰るのかと苦戦していたので、わたしと旦那とでその辺にいる人たちに聞いたりして、彼女たちの手助けをしてあげた。

わたしはそのついでに、「この辺りで日本人を数人見かけたんだけど、日本人のコミュニティーでもあるんですか?」と聞くと、彼女たちは、「ここはちょっとした観光地で、日本のガイドブックに乗っていたので、ウィンザーに行ったついでに寄ってみたんです」と言った。

そしてちょっとした見所までおしえてくれた。


おおっ! なんと、やっとのことでたどり着いたところは、実はちょっとした観光地だったとはっ!


礼を行って汽車に乗り込む彼女たちに、逆にわたしも礼を言った。

そして、どうせならまた観光気分で楽しもうということになった。


気分良くボートに戻ると、Wは釣りをしていた。

他の仲間はレディング方面に行くと行ってボートにエンジンをかけている。


昼過ぎ、ANはまだやって来ない。


Wが電話をすると、「部品は買ってあるから、もう少ししたら出発する」と言った。


待てども待てどもANはやって来ない。


Wも旦那も何度も電話をするが、「大丈夫だ。部品もあるし、すぐに行くから」とANは繰り返すだけで、終いには電話にも出なくなった。


そして日が暮れた......


仕方がないので、3人でまたバーベキューをして夜を過ごした。


ANは結局来なかった......


わたしは心配で何度もWと旦那に聞くが、「来ると行ったんだから、明日来るだろう」とのんきなことを言われるだけだった。


Wなんかは「これがリバーライフだ。川の流れのようにゆっくり生きるんだ。焦るな」と意味不明なことまで言っている。

って言うか、焦ってわたしたちを置き去りにしたのは、一体誰だ?


うーん、AN、明日は来るのだろうか。そして、部品は本当に買ってあるんだろうか?


不安な夜は早く寝るに限る。

早く寝ると、早く朝が来るような気がして、わたしはさっさとベットに潜り込んだ。

Wと旦那の話し声が外から聞こえ、わたしはいつの間にか眠ってしまった。


かくして、ANは本当に来てくれるのだろうか......



翌朝、わたしは7時頃目を覚ました。‬

窓からはオレンジ色の朝の光が差し込んでいる。‬

静かな朝のマーロウでも見ようかと思い外に出ると、ANが1人で川辺に座っていた。‬

朝からもう缶ビールを飲んでいる。‬


AN! 来てくれたんだねっ!しかもこんな朝早くから!‬


ANは油っぽいしっとりとしたワンレングスをなびかせ、いつものように「ハロー、ダーリン」と言う。‬

そして、「部品を買ってあるから大丈夫だ」と言った。‬


ああ、良かった。これでエンジンも元通り。‬


1日はいつものように始まり、朝食は朝からバーベキュー。‬

昼もバーベキュー。‬

男たちは朝からビール。‬

缶ビールが手にくっついてるんじゃないかと思うほど、一日中ビールを持っている。‬

そして、夕食もバーベキュー......‬


って、ちょっと待ったあ!‬

もう夕食の時間帯ではないか!?‬


AN、川辺に寝そべって飲んでばかりで何もしてないではないか!?‬

っていうか、旦那とWはなぜ何も言わない?‬


まあ、わたしたちのホリデーはあと約2週間あるから、そんなに急がなくてもいいんだろうけど......‬


そして何もないまま1日は過ぎ去った。‬


ANはあたりまえのようにWのボートに泊まり、翌日もデジャヴかと思うぐらいANは何もしなかった。‬


天気もいいし何もしたくないのはわかるが、エンジン直すか直さないかだけでもおしえて欲しい。‬


3日目、ついにWがANに催促しだした。‬

Wも同じ場所にただダラダラといるのに飽きてきたらしい。‬

ANはようやく重い腰をあげた。‬

とりあえずWのボートのエンジンを直し、わたしたちのボートはその翌日に手をつけた。‬


ANは買ってきた部品を取り替えて、エンジンをかける。‬

しばらくするとまた前と同じように部品が吹っ飛び、「シュー」という音と共に湯が吹き出た。‬

どうやら何かが原因でオーバーヒートして破裂するらしい。‬

ANは原因追求のためエンジンを分解していく。‬


そして、原因がわかった。‬


他にも部品が必要だからと、その原因の詳細を告げずに「部品を買ってまた来る」と行って帰って行った。‬

そしてWもエンジンが直ったので、大喜びで帰って行ってしまった......‬


なんと、その後丸3日間、わたしと旦那はANを待ち続けた。‬

電話しても、「明日行く」と言うだけでANは来なかった。‬

4日目に連絡がつかなくなった。‬


わたしと旦那は焦り始め、旦那は自分で直そうと試みたが、何せバラバラに分解されてしまったエンジン。‬

壊れた原因を探す前に、どうやってまた元に戻すのかさえ分からない。‬


旦那がWに電話をすると、「ANはプライドが高いので直せないと言えない。そんなときは姿をくらますんだ」と言った。‬


えー!! うそっ!‬

人間としてそんなことしていいの?‬

直せなくてもいいから、せめてバラバラになったエンジンを元に戻して欲しい!‬


WはWで、「また自分のボートに負担がかかるし、釣りで忙しいから助けに行けない」と言い、レディングに行ったボート仲間のボートは小さすぎてとてもわたしたちのボートを引っ張るのはムリだし、コミュニティーの仲間たちも遠すぎる。‬

誰にも助けを求められない。‬


わたしと旦那、完全に行きづまってしまった。‬


わたしはネットでエンジニアを探しまくって電話してみても、直しに来れるのは次の週とか料金が高かったりなど、なかなかちょうどいいエンジニアを探せないでいた。‬

それでもWが心配して、何人かの知り合いのエンジニアに聞いてみたが、皆「ANが投げ出したのなら自分も直せない」と言った。‬


なんだかんだと、予定していたホリデー終了まであと5日しか残っていない。‬


旦那はこんなボート生活など投げ出したいと言うし、わたしはわたしでオロオロするだけだし、一体どうなってしまうんだろう。‬


今度こそ本当に追い込まれてしまった!‬


と思っていると、癌検診があると言って先に帰って行ったNAから旦那に電話がかかってきた。‬

Wや他のボート仲間たちはウォルトンを通って帰って行くのに、わたしたちのボートだけが通り過ぎて行った気配がないので、心配して連絡してきたらしい。‬


NAは事情を聞いて、なんと、ウォルトンから彼のボートでやって来たのだ!‬


しかも電話で話したのは夜遅くで、一体何時に出てきたのか、翌朝わたしたちが目覚めると、NAのボートはすでにわたしたちのボートの前に止まってあったのだ。‬


すごい行動力。‬

NA!ありがとう!‬

捨てる神あれば拾う神ありってこんなことを言うんだろうか?‬


わたしと旦那はNAに感謝した。‬

彼がわたしたちを助けられても助けられなくても、そんなことはどうでも良かった。‬

誰か1人でもこうやって来てくれたことに感動した。‬


ホリデー終了まであと4日。‬

わたしたちは無事にコミュニティーの場所に帰れるのでしょうか。‬


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