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WとAの赤ちゃん

気がつくと、一ヶ月以上ビクトリアパークに居ついてしまっていた。


夏真っ只中、カナルのボート住民たちは、ボートの屋根に寝転んで日焼けしたり、テーブルとイスを外に出してくつろいだり、公園で昼寝をしたり、一輪車を乗り回す人もいるかと思えば、ジャグリングボールでジャグリングをしたり、フラフープをしたり、ギターを弾いたりする人たちなどもいて、自由なぐらい思い思いに夏を満喫していた。


イギリスの夏は、夜9時を過ぎてもまだ周りがよく見えるぐらいに明るい。小さい子供たちが遅くまで外で遊んでいたり、お年寄りまでもが夜の散歩を楽しんでいたりする。

ボート住民たちもボート暮らしというよりも、外で暮らしているのか? というぐらい一日中外にいた。


わたしはなんだか大きい規模のキャンプにでも来ているかのような、ホリデー満喫気分になれた。

仕事から戻っても外はまだ明るいので半日得した気分になり、ついつい遅くまで外で寛いでしまったりしていた。


その頃、AはWと赤ちゃんと一緒にコーンウォールから戻り、ボート生活を再開した。

わたしと旦那は彼らに会いに電車で出かけた。


そのときちょうど、Wの母親も遥々南アフリカから来ていて、彼らのボートに滞在していた。

そのせいか、Wはいつもより大人しいような気がした。


赤ちゃんはまだまだとても小さくて、Wの大きな両手にすっぽりと収まるぐらいだった。

AもWもどちらかと言えば大きめなのに、こんなに小さな赤ちゃんが産まれるんだなあと思った。


赤ちゃんはMAちゃんと名付けられた。

Aが、女の子が産まれたらいつか付けてあげようとずっと決めていた名前だった。

MAちゃんは誰が見てもすぐわかるぐらいにWにそっくりだった。

顔立ちはそんなに悪くないW。

MAちゃんもキレイな女の子になるだろうなあと思った。


Aは大変だった出産の話をしてくれて、「無事にMAちゃんが産まれてきてくれて、人生の中で一番幸せな時よ」と言って、目に涙を浮かべた。


小さなボートでの暮らし。

母親と父親、その横におばあちゃん。小さなMAちゃんは三人に大切に包まれながら、本当に安心しきって眠っていた。


カナルでもテムズ川でもボート住民たちは平和だった。


2009年の夏、わたしは人々の幸せを遠くで見ながら、心地の良い気持ちで自由気ままな夏を過ごした。





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