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カムデンタウン

次にわたしたちが向かった場所はカムデンタウン。

ここはわたしがロンドンに来た時に、一番初めに観光に来た場所だ。

通りにはパンクやハードロックの人たちが好みそうな洋服屋や雑貨屋がならび、週末にはヒッピーたちが好みそうなマーケットが並ぶ、若者の街だ。


初めのうちはよく遊びに行っていたが、いつの間にか行かなくなってしまった。

前のようにワクワクした気持ちでカムデンライフを楽しむことができるか自分でもわからなかったが、わたしはカムデン滞在を楽しみにしていた。


パディントンからカムデンタウン方向に向かって流れる運河をリージェンツカナルと言う。

景色が洗礼されていて、ボートで渡ると気持がいい。

ロンドン動物園の前を通り、観光用のボートとすれ違う。

何年か前に歩いて見た景色を、今はボートの上から眺めている。

変な感じだ。


到着すると停滞場所はさすがに混んでいたが、ラッキーなことにボートが一隻移動したので、すぐにわたしたちのボートを止めて、その横に並んでTたちのボートを止めることができた。


カムデンマーケットはカナル沿いにあるので、歩いて3分ほどで行ける。

昼から朝方まで遊んだとしても帰ることを心配しなくていいのだ。

なんだか妙に感動的だ。


感動的と言えば、夕方になると屋台の食べ物が全部1ポンドという破格な価格で提供される。

彼らもさっさと残り物を売ってしまいたいので、テイクアウトの大きいサイズの入れ物にたくさん詰め込んでくれる。

色んな種類の屋台があったが、わたしは中華屋でチャーハンや酢豚、焼きそばなどを一色単にして一つの入れ物に詰めてもらった。

半分は夕食、残り半分は翌日のお弁当にして、たったの1ポンド。

安上がりだ。

旦那とわたしは、友人がマーケットの中にあるクラブでDJをやり始めたと聞いたので、見に行くことにしていた。

案の定、Wもやってきたのであまり驚かなかったが、電気屋のSまでやってきたので、わたしは少しビックリした。


Sはボート仲間たちと外で騒いだり、パブでカラオケしたりするのが好きなので、クラブに行くこともあるのかあ、と思った。

すると、Sはクラブに行くのは初めてで、カムデンに来たのも初めてだと言う。

何に感激しているのかわからないが、到着早々、「なんだ、ここは!?ロンドンにこんなところがあるのか!?」と、相当興奮していた。

40代のSは、はしゃぎ過ぎるくらい少年のようにはしゃいでいた。


楽しみにしていたクラブはオープン前からすごい行列だった。

わたしたちの友人は、一番手の前座で、どうやって聞いていいか、踊っていいか分からない謎のDJをして、次のDJに追いやられるようにしてプレイを終了した。

これで一体いくら報酬をもらえるのかと聞くと、ドリンク一杯だけだと言う。

人気があるクラブでプレイできるだけで満足なのだと彼は言った。

DJの世界もそんなに甘くないようだった。


楽しかったのも最初の数時間ほどで、わたしは飽きてしまったので、一人でボートに戻ることにした。

旦那を含め、男たちはどこに行ってもお酒があれば楽しいので、しばらくは遊んでいれそうな勢いだったが、旦那がいくらボートがすぐそこでも、色んな人がウロついているからと言って、わたしをボートまで送ってくれた。


確かに色んな人がカナル沿いをウロついていた。

わたしたちの知り合いが前にここにボートを止めて、鍵をかけて出掛けたのにもかかわらず、ドアを壊されてテレビから電話の充電器まで根こそぎ盗まれてしまったことを思い出した。


若者が集まって楽しい街も、気を抜くと何があるのか分からないのだ。


たった数年前なのに、若かったからか勢いがあったからか分からないが、わたしは怖いという感覚が鈍っていた。楽しいことばかりしたかったし、遊ぶことばかり考えていたのだと思う。


今は、ちょっと遊んでも翌日のことが気になったり、ボートが心配になったりする。

楽しみにしていたカムデンに来ても、前はここにこの店があったとか、今もまだあるんだなあとか、前の記憶とばかりかさなって、ワクワクやドキドキはしなかった。


旦那は楽しんでいるようだったので、「カムデンの滞在期間が一週間っていうのはあっという間だね」とわたしが言うと、「一週間で十分だな」と旦那は言った。

そして「前みたいにスペシャルな場所じゃなくなった」と続けた。


ふうん、そうなんだ。

なんだかわたしの意見と一緒だったので、やっぱりわたしの旦那なんだなあ、と訳のわからないことを思った。


Wはもう少しで子供が産まれるからか、しばらく遊びすぎたからか、一晩遊んでまたテムズ川に帰って行った。


Sだけは仕事が終わると、遠くからわざわざ毎日やって来た。

よっぽどカムデンが気に入ったのか、一人で色んなところを歩き回り、たくさん買い物して、若者たちに話しかけたり、写真を撮りまくったりと、とんだおのぼりさんになっていた。


わたしは旦那に「わたしもロンドンに来たての頃は、Sみたいな感じだったのかなあ...... 」と言うと、旦那が言った。「オレも同じことを思ったよ...... 」


わたしが楽しみにしていたカムデン滞在は、まったく関係のないSが誰よりもエンジョイしたのだった。

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