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恐ろしいゴミ地帯

わたしとJは何もしないまま、旦那とTがボートを運転しながら残り二つの水門を通過した。

それでもまだ「楽勝!」だと彼らは意地を張っているので、女二人でクスクス笑っていると、なんだかちょっとした異変に気がついた。


カナルにゴミが浮いているのだ。

スナック菓子の袋からボトル、スーパーの袋やらありとあらゆるゴミだ。


わたしは近くでゴミの埋め立て地でも作っているのかと思いJに聞くと、いやいや、住民たちが投げ捨てているゴミなのだと言う。


この地区、ミニインドと言われるぐらいインド人が多く住んでいて、確かに、見える景色はインド語の看板やカラフルな民族衣装を身につけた女性たち。

車に乗っている人も、歩いている人も、どこを見てもインド人だらけ。


インドではゴミを集める仕事をしている人の仕事がなくならないように?人々はそこかしこにゴミを捨てるそうだと、職場のインド人の同僚から聞いたことがある。

なんか、その習慣を他国でやってしまうのがすごいと、変に感心してしまう。


のんきな旦那は、インドの街中をボートで横切っているみたいだと、旅行気分だ。


ボートが進むにしたがって、ゴミはどんどん増える。

しまいにはカナル全体がゴミで覆いかぶされ、ボートはそれをかき分けながら進んで行く。


ちょっと酷すぎる......


少しすると、わたしたちのボートが急に止まった。

エンジンは普通にかかっているはずなのに、ガガガッと変な音がして前に進まなくなったのだ。


ゴミ溜めのなかで立ち往生してしまったので、ボートは後で直すことにして、Tたちのボートにつないでわたしたちのボートを引っ張ってもらうことにした。

目的地まであと半分あったが、水門はもうないので、あとは進むだけだ。


少し進んだところで今度はTのボートも同じ症状で止まってしまった。


仕方がないのでゴミ川の中で4人で苦戦しながら、近くにあった木にロープをくくりつけボートを止めた。

岸も川もゴミだらけで、何の匂いだか分からない苦痛な匂いの中、旦那とTはそれぞれエンジンをチェックした。エンジンには何の問題もなく、プロペラとつながっているハッチを開けて悲鳴を上げた!

プラスチックのスーパーの袋がたくさんプロペラに引っかかっていたのだ!

青や白やオレンジの色んな種類のナイロン袋がびっしりとプロペラに絡まっているではないか!


プロペラはゴミだらけで汚い水の中。そこに手を入れて少しづつナイロンを取らなければいけない。


さっきまでご機嫌だった旦那も含め、わたしたち全員がゴミを平気でカナルに投げ捨てる人たちに激怒したが、怒ったところで状態はかわらない。

とにかくやれることをしないことには、どうにもならない。


旦那もTもかがんでハッチに両手を突っ込み、引っ掛かっているナイロンを取り除き始めた。

Tはブツブツと文句を言いながら、旦那はヤケになって力尽くでむしり取っている。

開けたハッチの横に立っているだけで異臭がするのに、その中に上半身を突っ込んで作業をする男たち......


わたしとJは、ただただその光景を同情しながら見ているしかできなかった。


旦那は前夜、共同のシャワーで思いっきりシャワーを浴びた。

そして、「しばらくシャワーは要らないな」と、冗談を言って笑った。

キレイになったばかりの旦那が、1日も経たないうちにどんどん汚くなっていく。

飛び散った川の水が髪にかかり、服にかかり......


わたしは悲しくなってなんだか泣きたくなった。


反対岸を見ると、どこかのおっさんがカナルに向かって用を足しているではないか!


普段は何も言わない、というか言えないわたしだが、思わず叫んでいた。


「あんたの見たくもない汚いものが丸見えなのよっ!トイレでやりなさいよっ!」


さすがの旦那もTも手を止め、Jもビックリしてわたしを見た。

その後3人とも「よく言った」と手を叩いてくれた。


わたしは本当に悔しくて悲しかったのだ。

前夜、思いっきりシャワーを浴びてピカピカになった旦那は、今日の移動が楽しみだと言った。

わたしが、新しいカナル生活を記念して新調したTシャツを着ていた。

さっきまで、ご機嫌でインドの町にいるみたいだと浮かれていた。

その旦那が、なんだか分からないものが混ざったゴミだらけの川の水にまみれながら、どうでもいい人たちが捨てたナイロンの塊を無心にむしり取っているのだ。


旦那が絡まったものを取り終えてエンジンをかけたが、またすぐに止まってしまった。

何かがまだプロペラに引っ掛かっているのだ。

旦那もTもそんなことを何度か続け、やっとボートが動き出し、ゴミ溜め地帯から脱出するまでにムダに長い時間を費やした。


旦那もTも朝の姿と比べると、かなりボロボロになってしまった。


わたしたちが渡ってきたテムズ川もカナルも、本当に美しかった。

自然も動物も自由に生きていた。

人間の勝手な行動でボート乗りたちだけでなく、全ての生き物の自由を奪ってしまう。


わたしがどんなに願っても、変えられない状況はたくさんあるのだ。

そう思うと悲しくなるが、わたしたちだけでもこの美しい景色を大事にしていこうと思った。


2隻のボートはまた何事もなかったように進んで行く。

わたしたちもまた気持ちを切り替えて行かなければいけない。


本当に長い長い1日。

目的地まであと少しだ。


夕刻も過ぎ、だんだん暗くなり始めてきた。

もう4人共クタクタだ。

Tが最初に停滞しようと思っていたところにたどり着いたが、ボートがたくさんあり過ぎて少しも入る隙間がなかった。

仕方なく、次の停滞場所を探す。

でも、そこもいっぱい。


これなのだ。

カナルだけではないが、停滞場所がボートの数よりも少なすぎるので、遅くまでさまよい続けなければならない。

そう思うと、テムズ川にいたときのコミュニティーの場所は、本当にラッキーだったのだ。


結局予定よりも遠くまで来てしまい。停滞場所を確保してボートを止めた頃には、夜の十時を回っていた。


わたしと旦那は翌日仕事だったので、ボートから降りるとすぐに近くのバス停や駅はどこで、どのルートで仕事に行くか見に歩かなければならなかった。


TとJは近くでテイクアウトの夕食を買うというので、4人で大通りまで行くことにした。

が、通りに出るも出ないも、1分先のカナル沿いに大型有名スーパーがあったのだ。

そしてその目の前はバス停。

すぐ近くに色々なテイクアウトの店やらコインランドリー、パブやカフェ、なんでもある。

またまた便利なところにやって来たのだ。

そこから20分ほど歩くと、映画にもなったノッティングヒルという町があって、週末は大きなマーケットをしている。

おしゃれなお店やバーもたくさんある。


わたしと旦那は疲れも吹き飛び、夕食を後回しにして通りかかったバーに立ち寄った。

浮かれすぎて旦那は、汚い川の水にまみれて薄汚れ、わたしはジャージ姿だということをすっかり忘れていた。

気がつくと、わたしたちはなんだか浮いている。

そう、ここはロンドンのほぼ中心部、ボート仲間たちと騒ぐテムズ川沿いとは違うのだ。

周りを見てもいつもの仲間はいない。


おしゃれな若者に紛れながら、なんだか自分たちだけ違う世界にいる気分だった。


なんだか気が抜けて、わたしと旦那は二人でハンバーガーとフライドポテトを食べ歩きしながらボートに戻った。


ボートに住む前は普通にロンドンで生活していたのだ。

それなのに、たった一年半テムズ川の自然の中で暮らしていただけで、ロンドンが少し違う風格に感じる。


少し戸惑いながらわたしと旦那は、新しい場所で佇んでいるわたしたちのボート、ダイヤモンドを少しの間見ていた。

この場所もまた静かだった。


色んなことが頭の中でグルグルとしていたが、長い1日で疲れていたのか思いつくことが上手く整理できなかった。


色んなことが凝縮していた1日だったが、わたしたちのベットはいつも通りの安らぎをくれたので、わたしは何も考えずに眠りにつくことができた。


翌日からまた新しい場所で新しい暮らしが始まるのだ。

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