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Jの心理

2009年3月、いつものように旦那がまた突然言った。


「来月、カナル ( 運河 ) に移動する!」


いつも言うだけ言って、人をびっくりさせておいて何もしないので、わたしは軽く受け流した。


旦那曰く、「酔っ払って仲間と騒ぎながら過ごす毎日も楽しいが、そろそろ飽きてきた」と言うのだ。

わたしはとっくの昔に飽きている。

バカ騒ぎも特別なときにだけにするから楽しいのであって、毎日、しかも永遠にやり続けるとなるとうんざりしてくる。


ボート生活を始めて約一年半で気付くとは、旦那よ......


と言うか、Wや仲間たちはもうずっとこうやって騒ぎながら暮らしているのだから、そんな血を持って生まれて来たとしか考えられない。


どうせ旦那は今だけ飽きたと言っているだけで、来月には気が変わって「まだいる」と言い出すだろう、と思っていたら、今度は本気のようだった。

ボート仲間のTとJというカップルも一緒にカナルに行くことになったのだ。

彼らも同じような毎日に飽きてきたし、仕事もロンドン方面なので、カナルに移動した方が楽になると言うのだ。

わたしたちと理由はほとんど同じだ。

特に彼女のJは、彼が毎晩遅くまで飲んで遊んでいるのがすごく嫌だったらしい。


少しして、わたしはWとAのボートで、AとJと3人で話した。

Aのお腹は6ヶ月にしてはとても大きかった。

ボートにはすでに、たくさん赤ちゃんの服やおもちゃなどがあって、妊婦用の雑誌が積み重なってあった。

スキャンでお腹の子供は女の子だと分かったので、名前まで決めてあって、壁にはすでにその子の名前がついた木のプレートがかかっていた。


Aは子供が産まれる前にわたしたちがカナルに行ってしまうのをとても残念がった。

それでも、子供が産まれる喜びは隠せないらしく、妊娠の経過やこれからのことなど、Aの話は遅くまで続いた。


夜も更けたので、わたしとJはそれぞれのボートに帰ることにして、外にでた。

Jがボソボソと言った。

「人の幸せに付き合うのも疲れるもんだわ」

わたしは、独り言だと解釈して何も言わなかった。

気になっていたこともあったからだ。


だいぶ前にJと話した時、彼女は彼氏のTと結婚することを話し合っていると言っていた。

子供もいたら素敵なのにと言った。

Aの妊娠を本当はどう思っているのだろう。

わたしは聞けないまま自分のボートに入ろうとした。


「もう少しで40になるのよ。わたし」


Jが突然言ったので、わたしは自分の心が読まれた気分になって、なんだか一人で焦って、「おー!わお!」などと、わけの分からないリアクションでアタフタとしていると、Jは少し笑った。

「あなたはいい人ね。カナルに一緒に行くことになって良かった。おやすみ」

わたしも「グッ、グッドナイト」と言って、彼女がボートに戻って行くのを見守った。


いつも、クールで落ち着いたJ。

何があっても取り乱さない。

わたしが何かお願いしても快く聞いてくれて、わたしを外国人としてではなく、人として対等に話してくれる。

わたしの中での貴重な一人。


そんなJを少し理解したような、もっと分からなくなったような複雑な夜だった。


Jの思いを色々と考えたが、結局分からないまま、わたしは彼女がAのように幸せな顔で自分のことを話す日が早く来てくれるように願った。

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