大雪の日
わたしが嫌だと言っても、静止したままでいても、冬は予定通りにやって来る。
これはデジャヴかと言いたくなるぐらいに、クリスマスも正月も通帳に記載されてる金額まで、去年と何もかも一緒だった。
違うのは薪ストーブが付いて暖かくなったくらいだ。
わたしはこのまま同じことを繰り返して歳を取って行くのかと思い、恐ろしくなった。
2009年、1月に入ると、なんだか急に寒くなった。
テムズ川に氷の塊が浮いていて、ストーブ無しでは確実に過酷な冬になっていた、と思うほど厳寒だった。
わたしと旦那は、毎朝起きるたびにANのことを心配した。
彼はシェパード犬二匹、猫二匹と一緒に釣り用の小さなクルーズボートに住んでいる。
狭い空間にペットたちとどうやって住んでいるのか、かなり謎なのだが、暖房設備がないので、夜どうやって寝ているのか、そっちの方がもっと謎だった。
いくらペット4匹に囲まれているとしても、マイナスの気温は、冷たいテムズ川の上では更に過酷だ。
なので、わたしと旦那は、ANが凍死していないかと毎朝心配した。
そんな冬のある日、ロンドンに大雪が降った。
一晩で雪国にワープしてしまったのか! と思ったぐらいに積もった。
ボートは雪に埋れて、いつもの外装とは変わり、少し神秘的にも見えた。
ほとんどのバスや電車が止まってしまい、道路も閉鎖され、何人もの人達が仕事に行けなくなった。
ロンドン中の学校が休校になり、その日一日が突然、休息の日になった。
テムズ川の前の広場では、子供だけではなく、大人までもが楽しそうに雪で遊んでいる。
見知らぬ人にあまり声を掛けないイギリス人達が、すれ違いざまに挨拶をしたり、微笑みあったりしている。
公園や広場ではたくさんの雪だるまが出現して、雪滑りを楽しむ子供たちのはしゃぎ声が響いた。
もちろん、ボート仲間たちも朝から雪で遊び、子供たち以上に浮かれまくった。
Wは創作活動が大好きなので、半日かけて大きな雪男の顔をリアルに作った。
他のボート仲間たちも手伝っていた。
わたしも、日本で昔から親しまれている二段重ねの雪だるまを作った。
鼻もミカンでつけてあげた。
旦那もわたしの横に雪だるまを作った。
三段重ねので鼻は人参。
あれ?
旦那の雪だるまは背が高くてスタイルがいいし、鼻も高いぞ?
そうか、イギリス人が雪だるまを作ると、こうなるのか。
二つの雪だるまを見比べて、余計なことに感心した。
誰もがうんざりするぐらいに長くて寒いイギリスの冬。
貧乏生活は全く変わらず、暖房設備のないボート仲間を心配したりする変な環境だが、薪ストーブと大雪のおかげで、その年は楽しい冬になった。




