ボート選び
さて、ボートを買うと決めたわたしたち。
とりあえずネットで検索。
ボートはピンキリだ。
マンション一つ買えそうなゴージャスなボートから、木製の誰が買うんだろうと言うか、売ろうとするのが不思議なぐらいのオンボロボートまであった。
わたしたちはトラディショナルなナローボートを買うことで一致した。
Wや仲間たちのボートは釣りや海などで乗るようなクルーズ用ボートだったが、わたしたちの気持ちを掻き立てるようなスタイルではなかった。
とりあえず、自分たちスタイルから入るわたしたち。
イギリスは運河と川で北から南まで繋がっている。
大昔に商人たちがボートで商売をするために運河が発達した。
運河は英語で「カナル」と言う。
運河用のボートは幅が狭いナローボートから、幅が広いワイドビームまで色んなサイズや形があるが、全部まとめてカナルボートと呼ばれる。
わたしたちはせっかく買うのだから、Wたちのいるテムズ川だけではなく、カナルを使って色々なところに移動することにした。
ロンドンまで出てきたら仕事に行くのに便利だし、休暇を取って地方へ家ごと旅行に行けるのだ。
なんと優雅でのんびりした暮らしだろう。
素晴らしい!
そんな夢を見ながらネットで検索してみるが、どこを見てもカナルボートは高い!
居間とベットルームとキッチン、シャワーにトイレが付いて、中古で500万から一千万円が平均だった。
この値段でロンドンで家を買うのは無理だから確かに安いが、それでも銀行さんがどれほど貸してくれるかが謎だった。
ボートを選ぶ前に、とりあえず銀行からいくら借りれるか明確にしなければいけない。
ボートは陸に付いていないので保証がない。
銀行さんが貸してくれる金額は最大2万5千ポンド。
400万円程だ。
これだと、微妙に足りないのだ。
Wがアドバイスするには、古いボートを安く買って、自分たちでリフォームして住むのが一番だという。
彼のボートは1930年に作られた木製の大きい帆が付いている航海用のボートだ。
古すぎて海には出れないが、テムズ川では全く問題はない。
彼はそのボートを50万円ちょっとで買った。
中はカビだらけで木が所々腐っていた。
トイレは辛うじてあるが、キッチンもシャワーも暖房も無かった。
とてもじゃないが住めるような状態ではなかったが、彼はそれに住みながら、日々をリフォームに費やした。
Wには定職が無かった。
時々入る風船アートの仕事が唯一の収入だった。
ちなみに彼、Wは天才的なバルーンアーティストだ。風船でほとんどの物を形にしてしまう。冗談ではなく、ハリウッドの有名俳優の子供たちの誕生会にパフォーマーとして何度か呼ばれている。
うちの旦那もWから教わって、パフォーマーとして仕事をするようになったが、実力は断然Wの方が上だ。
それなのにWは年に数えるほどしか仕事が無くて、旦那はその倍以上の仕事が入って来る。
違いは値段と性格だと思う。
Wは安い仕事やチャリティーの仕事は一切受け付けない。
値段も旦那の倍以上請求する。
そして何よりも面倒臭がり。
趣味の釣りが何よりも一番なのだ。
話がそれてしまったが、Wにはとにかく時間があった。
毎日のようにボートのリフォームに費やす時間があるはずだった。
お金が無くて材料が買えないからか、それとも面倒臭がりやがジャマしてか、2年以上経っても彼のボートはあまり変わらなかった。
ただ、バーベキューセットが増えたぐらいだ。
そんな住むのに適していない状態で何年も住み続けるのにはムリがあるし、仕事をしているわたしたちにはリフォームをするような時間は無かった。
実際、古くて安いボートを買っても大変なだけで、特に値打ちは上がらない。
それだったら、多少お金を使っても、値打ちがあってすぐに住めるボートを買いたい。
わたしたちは年数が経ってもそんなに価値が下がらない鉄板のボートを買うことにした。
ローンが終わった頃にボートを売れば、家を買う頭金になるかもしれない。
大きなボートを買うか、家を買うかの選択ができるのだ。でもそうなると、やはりボートの値が張る。
果たして、思い通りのボートを買うことができるのだろうか?