インターネット
ボート生活を始めてから、もう少しで一年が経とうとしていた。
わたしはその間、インターネットカフェなるものを利用していた。
30分から1時間の利用で、1から2ポンドと悪くはなかった。
でも、わたしたちが停滞している町にはインターネットカフェがなかったので、バスで30分ほどロンドン側に行かなければいけなかった。
それがまたなかなか面倒だった。
それなのに、旦那がサイドビジネスとしてやっているエンターテイナーの仕事を増やすために、まずホームページを開きたいと言い出したのだ。
そうなると、ネットカフェでは間に合わない。
確かに、エンターテイナーの仕事はエージェントからごくたまに仕事が入るくらいで、あまり家計には役立っていなかった。
ホームページを作ってもう少し宣伝したら、もっと仕事が入ってくるかもしれない。
わたしたちはさっそく電話屋に行って、電話線が無くてもインターネットが使える手段はあるか聞きに行った。
今はモバイルインターネットやフリーインターネットなど、色んな手段があるが、その時はスティック状のパソコンに直接繋げるドングルという物しかなかった。
しかも、3Gバイトで日本円で月に約5千円もして、バイト数を超えると、追加料金が異常に高かった。
バイト数が少なかったら、ホームページに写真をアップロードする数も限られる。
月の支払いだけでも結構になるのに、追加料金ってことになったら大変なことになる。
実際、ホームページだって、作るのも宣伝するのもお金がかかる。
世の中は、お金がある人が得をするようにできてるのだ。
「ムリにホームページを作って時間もお金も損するんだったら、余裕ができてから始めてもいいんじゃない? 」とわたしが言うと、旦那は、「自分が毎月払うから契約しよう」と言った。
ドングルは電話屋に行ったその日に契約して、わたしたちはさっそくボートに戻ってそれを使うことにした。
わたしも家でインターネットが使えるので、なんだか少し嬉しかった。
ワクワクしながら旦那と二人でドングルをパソコンにセットして、ダウンロードなどの手順を踏み、さあネットに繋げようと試みたが、繋がらない。
どうやら電波が悪いらしい。
川の上で、しかも民家から離れた自然の中、ケータイの電波が悪ければ、インターネットの電波も悪いだろう。
その上、わたしたちのボートは鉄板でできているので、更に電波をシャットアウトする。
外に出てみると、かすかに電波をキャッチしてネットのブラウザが現れたが、非常に遅かった。
こんな状態なら冗談ではなく、写真を一枚アップロードするだけで半日はかかりそうだった。
その頃、イギリスのネット環境は日本に比べて少し遅れていた。
日本で映画を一本ダウンロードするのに数分で済むところが、イギリスではすごく時間がかかっていた。
その上ドングルとなると、更に遅い。
旦那がしびれを切らしてケータイ屋に電話をして、契約を解約したいと言ったが、契約期間は一年で、その前に解約したら解約金を数百ポンド払わなければいけないと言われ、使えなければ意味がないので、そんな契約は関係ない、と旦那が文句を言ったが、それなら正式に書面で苦情を言ってくれと言われた。
面倒臭いので契約をそのまま続行することにした。
それから、わたしと旦那はいつもパソコンごと外に出て、インターネットをすることになった。
ボート暮らしは現代の生活に合っていないのではないだろうか。
テレビも見たければネットもしたい。ケータイも充電しなければいけないし、発電機は重要だ。
昔、テレビなどなかったような時代では、発電機など使っていなかっただろうし、シャワーだってなかっただろう。
何もなければその暮らしで満足できるのだか、今の時代ではネットやケータイを使わないとなったら、とても不便だ。
時代が新しくなって便利になっていく度に、わたしたちの生活は不便になっていく。
ボート暮らしは果たしてわたしたちに合っているのだろうか?
などと、今更ながら考えた。




