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適当なプレゼント

テムズ川も夏真っ盛りになってきて、旦那含め、ボート仲間たちはほとんど休まず外で遊び続けた。


わたしはAと、Jというボート仲間の彼女とその光景を見ながら河原に座っていた。

ふと足元を見ると、わたしのスニーカーの底が剥がれかかっているではないか。


そういえば、自分の身の回りの物など、しばらく何も買っていなかった。化粧品ですら、スーパーで一番安いのをセコく使っていた。

周りには可愛い服を着て、ステキな靴やバックを身に付け、美容院やネイルサロンで自分をキレイにしている人たちがたくさんいるのに、わたしは何が悲しくて、発電機やインバータを買うために節約しなければいけないのだろう。


薄汚れたスニーカーを見ながら、わたしは切なくなった。


目の前では、ボートの横を通り過ぎて行くお姉さんたちに、ボート仲間たちが声を掛けている。

と言うか、ナンパだ。

わたしたち女3人は、横で体育座りで見ている。


ねえ、ねえ、わたしたちだって一応女なんですけど......

と言っても、3人共髪はボサボサで、薄っぺらなTシャツに短パン、またはジーンズだ。

わたしなんて、スニーカーまでボロだし。


それでも3人共、どうしようもないパートナーを支えながら 色んな事を我慢して生きているのだ。


こっちの方が輝かしくないですか?


と思ってみても、やっぱりキレイにしているお姉さんたちはかわいい。


わたしたち女3人はそんな光景を横目に、日陰でダラダラしている。

やることはたくさんあるのだが、暑いときに余計に動くと、汗をかいてシャワーを浴びなければいけないので、水節約のためにやらなければいけないことは、日が暮れて涼しくなるまで待つのが一番だ。


そんなことを考えながら生きる女って......


Aは夏のボート生活が大嫌いだ。

彼氏のWが、ナンパばかりしだすからだ。

旦那含め、他のボート仲間たちもWに便乗して、お姉さんたちをボートに乗せてどこかへ行ってしまう。

旦那はもてないからか、わたしが怖いからか、キリがいいところで他の仲間たちと帰って来るが、Wは帰って来ないのだ。

だからAは、夏の間中ずっと不機嫌だ。


そしてJも不機嫌だ。

彼女もボートのローンを払うために、毎日節約しているのに、彼氏のTは仲間たちと遊んでばかりだからだ。


彼女たちが不機嫌なので、とばっちりは何故かわたしに来る。

そんなことが面倒だと思っていたある日、旦那とWとTが、萎れた植木鉢3つとワインを3本持って、どこからか帰って来た。

そして、わたしたちにプレゼントだと言ってそれらを一つづくれた。

植木鉢には、小さい花が申し訳なさそうに咲いている。


わたしは、彼らの頭がどうかしてしまったのか、それとも最近AもJも機嫌が悪いので、機嫌取りか? と考えていると、AもJも素直に喜んでいた。

そして嬉しそうに植木鉢を抱えて「ビューティフル!」などと言っている。


わたしは、お世辞にもキレイと言えないような植物を抱えて、何なんだろうと疑いながら礼を言ったが、とりあえず花とワインで意図も簡単に二人とも機嫌が良くなったので、ホッとした。


その夜、旦那が言った。

「あの植木鉢、その辺の家でいらないから持って行ってくれって張り紙があったから、持って来たんだ。しかも、ビールを買いに行ったら、安いワインが更にお得な、3本買ったら2本分の値段!になっていて、今日は得したなあ。」


やっぱり、そんなもんだと思ったよ。どうせWのことだから、これで安くあげてAの機嫌をとっておこうとプレゼントってことにしたんだろうなあと、勝手に推測した。


わたしは旦那に「そのことはAとJに知らせない方がいい」と言うと、旦那は「無料でも安くても、プレゼントはプレゼントだろう」と言う。

「女心を配慮して、言ってはいけないこともあるの」とわたしが言うと、旦那は不思議そうな顔をした。


わたしだって、言いたいことがあるが、言わないでいるのだ。

機嫌取りもいいけど、ビールやワインにお金を使うんだったら、旦那よ、わたしに新しいスニーカーでも買ってくださいよ...... と、本当は言いたいのだ。


わたしは萎れた花がぶら下がってる植木鉢とワインを横目に、スニーカーの底を接着剤で貼り付けて直した。


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