家庭用コンセント設置
ボート生活を始めてから、いつの間にか旦那と、電気屋のSはとても仲がよくなっていた。
旦那は何かあると、Wよりも先にSのところに行っていたし、Sもそうだった。
ある日、Sが「ダイアモンドの電気のコンセントを、12ボルトから240ボルトに変える」と言った。
わたしたちは、Wの発電機から直接延長コードを繋いで、窓を少し開けてその隙間からコードをボートの中に入れて使っていた。
冬は寒いが、使う電気機と言えば、テレビとケータイの充電ぐらいなので、あまり不便を感じていなかった。
それでもSが急にやる気になったので、ありがたくお願いすることにした。
Sは電気屋だが、電気機器を売っているわけではない。
主に配線工事などが主流だ。
信じられないことに、あの有名なウィンブルドンのテニスの電気機器設置などは、毎年彼が任されているのだ。
コンセントの交換は、旦那とSが休みの土曜日に決まった。
わたしはあいにく仕事だったので、残念ながらその経過を見ることができなかった。
仕事から戻ると、歩いて来るわたしを見つけた旦那は、嬉しそうにわたしに早く来いと催促した。
ボートの中に入ると、誇らしげに全部で3つあるコンセントを見せて回った。
ちゃんとプラグが家庭用の差し込み口になっている。
そして旦那の自慢は、全て自分でやった!ということだった。
Sが支持だけしてくれたら、旦那は自分で全てやりたいと言ったのだ。
それをやり終えた旦那は、非常に満足そうだった。
嬉しすぎて、親や兄弟にまで電話して自慢した。
そのうえSまで、旦那はよくやっただの、今まで雇ったアシスタントの誰よりもセンスがあるだのと適当なことを言うので、旦那は更に舞い上がってしまった。
実際聞いてみると、実はとてもシンプルな作業だったのだが......
まあ、そんなにすごいのなら、ぜひ今日から使おうとわたしが言うと、旦那は」まだ使えない」と言うのだ。
どう言うことだろう?
今度は何が必要だって言うのだ?
S曰く、インバータと言う電力変換装置が必要で、ダイアモンドについているのは12ボルト用の物なので、家電は使えないのだと言う。
ついでにバッテリーと、それを充電する機械も必要で、それがあれば発電機で作った電力を充電して、発電機なしでも家電が使えるのだという。
そうなったら、もっと経済的に燃料を使える。
ふう..... まだまだ購入しなければいけないものがあるのだ。
気が遠くなる。
結局その夜も今までと変わらず、窓の隙間から垂らしてある延長コードを使ってテレビを見たり、ケータイを充電した。
何か大きく変わったようで、何も変わらない。
それでも旦那は大満足で、その夜は何度も240ボルト用のコンセントを見ながら、満足感に浸っていた。