どうでもいい出来事
ボートコミュニティーに移動してから数ヶ月して、不思議なことを思った。
ほとんどのボート仲間たちは、いつ仕事に行き、どうやって生活費を稼いでいるのかと謎に思うぐらい、朝から夜遅くまで外で仲間たちとツルんでいる。
申し込むのが面倒なのか、住所がはっきりしてないからか分からないが、生活保護を受け取っている人は、一人もいなかった。
確かに何度か、誰かが仕事に行ったと言っていなかったことはあるが、それで足りるのだろうか?
わたしと旦那は二人でフルタイムで働いてもギリギリなのに、本当に不思議だ。
Wに関しては、Aが毎日働いてなんとかしていたようだ。
と言うか、ヒモ?
彼らが言うには、「人生は短いのに毎日、朝から晩まで働いてなんになる」「生きれるだけの少しの金があれば、毎日楽しく暮らせる」のだそうだ。
わたしは考える。
本当にそうなのだろうか...... ?
年に一度は日本に帰りたい。
美味しいものも食べたいし、オシャレもしたい。
何かのために、貯金だってしておきたい。
わたしはやはり、仕事をして生きていた方が安心する。
色んな生き方や考え方がある。
互いに仲間として分かりあっていれば、それでいいだろうけど。
そんなふうに思っていたある日。
わたしは休日でボートの中でダラダラとしていた。
外では、いつものようにボート仲間たちが騒いでいる。
いつもより興奮しているようだが、わたしはあまり気にしなくなっていた。
「おいっ!お前は日本人だろう。魚をさばいてくれ!」
いきなりWがやって来た。
何の根拠があって、日本人だから魚をさばかなければいけない。
「さっき釣れた魚をさばくことにした。今日のランチは寿司だ!寿司を作ってくれ!」
またWがめちゃくちゃなことを言っている。
わたしは、「寿司は寿司屋で食べるから、自分では作らない」と言った。
ちなみに、ご飯がなくては寿司は作れない。
それは刺身だ。
ああ、本当にバカバカしくて付き合ってられない。
Wはわたしに断られたので、「自分で魚をさばくから、寿司ができたら呼びに来る!」と言って行ってしまった。
わたしは面倒なので出かけることにした。
外に出ると、男たちが魚をさばいている。
しかも、プラスチックのまな板を地面に置いて、サバイバルナイフでだ。
魚の内蔵を持って、一人の男が仲間の一人を追いかけ回して騒いでいる。
Wは魚を切りながら、川沿いを歩いている人たちに、一緒に食うかと聞いている。
散歩中の人たちは怪訝な目で見ながら、大回りで通り過ぎている。
外に出たわたしを見て、Wが言った。
「寿司だ!食うか?」
だから、刺身だってば......
って言うか、生魚の切り刻み?
わたしは丁重にお断りして、さっさとその場を立ち去った。
互いに仲間として分かり合うどころか、彼らの行動は理解不可能だし、分かりたくもない。
これでは地域の住民からも、白い目で見られるではないか。
わたしもあの仲間の一員なのだと思うと、なんだかとても虚しくなった。




