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授業が終わる鐘の音と共に彼女は現れる。
「ゴンちゃん、部活決めた??」
加奈子は事あるごとに、隣のクラスまでやって来る。
それは幼馴染みの中山千里の席を訪れる為である。
あまりにもこちらへ来る回数が多いので、クラスの皆と馴染めていないのかと千里は心配した程だがクラス仲も良好で問題はないようだ。
「まだ何部に入るか決めてへんよ、カナちゃんは新聞部に入部届け出したん??」
「その事なんやけど、ここ新聞部ないんやって!!ほんま、ありえへんわ!!」
彼女は千里の机を陣取るように項垂れる。
まだ先程まで千里が使っていた勉強道具が残っているのに、彼女は気にした様子もない。
千里もそんな彼女の性格を知っているので、その行儀の悪い行動に対して何も言わない。
「そうなんや、残念やったね……」
少しでも彼女が元気になればと、目の前にある彼女の頭を撫でる。
千里は加奈子の夢を知っているから、彼女の悔しさがわかる。
田中加奈子の夢は記者になることだ。
幼い頃より夢を語っていたので加奈子は、夢を現実にする為に彼女なりに努力をしていた。
話題があればメモに書き込む習慣をつけたり、苦手な勉強も幅広く手を付けた。
体力が必要だと思えばジョギングを始め、構成力が必要だと思えば、録画したドラマを繰り返し見て、台本を書き起こすこともした。
何が役に立つかわからないから全部する。
まるで昔の役者の様な生き方をしているのが田中加奈子という人間だ。
「そうや!!今日は一緒にアニマイトに行かへん??カナちゃんが好きな作家さんの新刊買いに行こうよ」
加奈子が少しでも元気になればと、千里は加奈子と共通する好きな話題を振る。
二人は今、深夜に放送しているアニメ『ケモ耳王子☆ロマンス戦記』通称ケモロマにハマっているのである。
「行く……」
ムクリと不満げな顔を上げ、アニマイトへの行くことを決意する彼女。
加奈子自信もこのまま腐っても意味がないとわかっているので、千里の優しさに甘えようとする。
「新聞部が無いんやったら勝手に作ればいいだけなんやし、何か必要な時は私も手伝うよ。だから今日は楽しもうよ」
「そっか、作れば良いんや!!ゴンちゃん天才やねアンタ!!」
先程まで机に突っ伏していたのに、勢いよく起き上がり声をあげる加奈子。
クラスの皆はいきなりの大声に驚き、何事かと加奈子を注目する。
そんな周りの目など気にせず、加奈子を教室を出ようとするが、千里がそれを呼び止める。
「カナちゃんどうしたん??何処に行くの??」
「ゴンちゃんゴメン、ちょっと職員室に行ってくる!!また来るわ!!」
そうして加奈子は教室を出て、職員室へと駆け出して行った。
残された隣のクラスの皆は、その後ろ姿をただ見送る事しか出来なかった。
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次の授業が終わる鐘の音が鳴った時、彼女は満面の笑みで隣のクラスへやって来た。
「アタシ、新聞同好会を作るから。悪いんやけどゴンちゃん早速手伝って!!」
自分が言った事だか、こんなに早く手伝う事になるとは千里は思ってもいなかった。
「手伝うって何をすればいいの?」
「あの後、先生に聞いてきたんやけど、同好会に必要な条件ってそんなに厳しくなくて、部員数は3人以上でしっかりとした活動内容であれば許可が貰えるみたい。ゴンちゃんには幽霊部員でも良いから名前を貸して欲しいの。あと部員集めとかできる時だけで良いから手伝って欲しい!!」
貴重な高校生活の一時を私のワガママに付き合いなさいという内容ではあるが、千里は彼女の努力を知っている。
「ええよ、私達親友やん」
知っているからこそ、彼女の力になりたいと思ったのだ。