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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ルートビア編
8/33

8th shot

 契約の30日が過ぎ、僕は村を離れた。目的地はオークに聞いた北のダンジョン近くにある町だ。

 しかしあの村にも多少の愛着は湧いた。

 特産品の一つであるルートビアという酒がクソマズかったのも印象的だ。

 前世の湿布の味がした。

 ・・・なんで僕はこんなピンポイントな記憶持ってるんだろう。この記憶があるってことは前世の僕確実に湿布食べてるじゃないか。なんで食べたんだよ。


 それで僕としてはパーティを脱退し一人旅に戻るつもりだったのだが。


「ちょっと待ってくれ!」

「待ってってばぁ!」


「ハァ・・・。

 迷惑は掛けないんじゃなかったカ?」


「いや、それにしたって。ふぅ」


 僕は今街道を歩いている。

 シャルルとクロエを引き連れて。


 ことの発端は僕が村を出る直前にさかのぼる。

 荷物を纏め背負った僕は余った金もキッチリ返し、北のダンジョンに向かおうとしたところで彼女達二人に止められたのだ。

 二人もすでに旅装束を着ていて、付いてくる気しかないという面構えをしていた。

 まあ気持ちは分からなくもない。冒険者になろうとしていたら、弱いとはいえ経験豊富な先輩が現れたのだ。

 冒険者に慣れるまでは引っ付きたいものだろう。僕だってそうだったし、今でもヒモになりたい。


 それでなし崩し的に言いくるめられ、僕に手をわずらわせないことなどを条件に付いてくることを承諾した。

 が、このザマだ。


「もうやだー。疲れたー。体洗いたーい」


 ごねるクロエを含め、僕たちはもう3日ほど歩いている。もうすぐ目当ての町に着くのだからまだ歩いていない方だ。僕は最長三ヶ月体を洗えなかった。いいよな、水魔法使いがいるパーティは。


「黙って歩ケ」


「なによライフルマンのクセして!

 アナタなんて昨日腕立て伏せとスクワットで汗まみれになってたじゃない!

 どうせ私達より臭いんだから!」


 ギャーギャーギャーギャーとやかましい。そんな叫ぶ元気があるなら歩けというのに。

 というかどうせとか臭いとか言うな。地味に傷つくだろ。


「お前達ほどは臭わんヨ。

 なんなら嗅いでみロ」


 そういうとクロエは普通に拒否したが恐る恐ると言った風にシャルルが匂いを嗅いできた。


「・・・あれ?

 臭くない!なんでだ!」


「そんな訳・・・はぁ!?

 なんでよ!」


 その理由は僕が匂い消しの薬草の煙でマントやら服やらを燻してあるからだ。

 あと地味に僕は水魔法が使える。といっても魔法使いほどじゃない。ちょろっと水を生成するので精一杯だ。

 だが布を湿らせたり飲料水にする分には問題ない。

 まあこれは冒険者必須の技術なのでルートビア姉妹も使えるが、まだ奴らは新米、水の飲み方や調節の仕方を知らないのだ。なので必要以上に水を消費して体を拭う余裕がない。


 冒険者の経験っていうのは大抵非戦闘時に役立つものが多い。僕らは傭兵ではなく冒険者だから当然だ。

 その経験とは無数の失敗から成り立つものであり、僕がいちいち教えたところで意味がない。

 それに今はよくとも、僕が彼女らと離れた時、今度は彼女達自身がどうやるかを問われる。その時に備えて今から考える力をつけておく必要があるのだ。

 だから僕は本当に失敗したときだけ姉妹を助け、あとは彼女らを煽るだけでいい。


「臭わないのはお前らの方が臭いからダ」


「「なっ」」


「ホラ、無駄口を叩いているヒマがあったら足を動かセ」


「「ぐぅ」」


 変なとこも息があってんな。

 僕は彼女らを呆れた目で見やりつつ、歩く速度を少し上げた。


「「ああ!!」」




 ×××




 陽が赤く染まり、その色は空へと侵食を進めていく。

 もう夜はすぐそばだ。

 だが目的の町は影が見えるのみでまだまだ遠い。

 本来ならもう付いているハズだが、足手まといが二人もいるのでは仕方がない。


「野営の準備をするゾ。

 今日はシャルル、僕、クロエの順で見張りダ」


 そういうと僕はちゃきちゃきと寝る準備を進めていく。

 背負っていた荷物から寝袋やら例の臭い消し処理を施した手ぬぐいやらを取り出し、マントを外して寝袋の上に掛ける。

 またフックが付いた地面に打ち付けるタイプの棒とランタンを用意し、それぞれ設置してからランタンに灯りを灯す。火種はもちろんあの火石だ。火口箱は思い上にかさばるからね。

 それから上半身の衣類を全て脱ぎ、歯を磨く用の草を使って咥内を清潔にし、寝る前の準備を整えた。


 そこまでしてから僕は日課の腕立て伏せと腹筋、スクワットを始める。

 シャルルとクロエは信じられないような目で僕を見るが、正直村を出てからだらだらとしか歩いていないので体力が有り余っていたのだ。

 そして一通り終えると相棒のF2000を召喚し左手だけで構え、何もない空間に向けてから精神を集中させていく。


「ライフルマン!

 訓練中悪いが敵襲だ」


 シャルルの声掛けを皮切りに僕は意識を周囲へ浸透させる。

 鳴き声のパターンからして狼が5体か。僕たちの正面に5体がかたまってこちらに牙をむいている。

 ふむ。こんな身を隠すところもない街道で出くわすとは少し不自然だが、この前のオークの侵入によってなわばりを変更した個体もいるのかもしれない。


「今回、僕は援護役に徹すル。

 お前たチのやりたいようにやレ」


 その僕の命令に答えるがようにシャルルは大剣を居合のように抱え込み、狼に向かって突進した。

 それに合わせて、クロエがシャルルから見て左に弧を描きながら走り込む。僕はクロエとは逆方向に同じように動いた。


 シャルルは接敵すると、地面と水平に握っている大剣をそのまま横振りで近くにいた狼3匹をまとめて薙ぎ、その勢いで吹っ飛ばした。

 一見豪快そうに見えるが、3匹ともなれば威力は減退し、一撃で仕留めることは不可能だろう。それは使い手であるシャルルにも分かっているハズで、だからこそその攻撃はターゲットを自身に向けさせる、ヘイト稼ぎの為の繊細な攻撃であることが言える。

 その振りに合わせてクロエが矢を弓に番え、シャルルに吹っ飛ばされていない2匹のうち近い方の頭に矢を放つ。

 矢は綺麗な軌道で一匹の狼の頭を貫いた。

 残った狼がこちらに飛び掛かってくる。これは例えライフルで迎撃しても死体のまま僕に突っ込んでくるので普通は回避する攻撃だ。

 だが今は余裕と終わりが見えている戦いだ。最近は近接戦闘もしていなかったし、カンを取り戻すには丁度いいだろう。


 僕は重心を後ろに寄せ狼と接触するまでの時間を稼ぐと、その如何にもゴツい感じの相棒が握られた左手を背中側に振りかぶり、そのまま跳ねる狼の下顎めがけて銃口を擦る様に振り上げた。

 遠心力の乗った鉄塊は鈍い音を周囲に伝え、僕はその勢いを生かして重心を前に向ける。

 そして喉越しに狼の頭部を狙うと、相棒のトリガーを引く。

 消音機を付けた上に接射しているので音どころかマズルフラッシュすら出ず、ただ肉の潰れる感覚だけが左手に残った。

 すると勢いの削がれた狼の死体が体重を掛けてくるので爪と牙に気をつけつつ全身で受け止める。

 ズザザッと靴を摺りながら狼の体を停止させたところで僕は一息ついた。


 そして視界を広げると、吹き飛ばされた狼が体勢を持ち直しているところが見えた。2匹が跳ね、1匹が足を狙って連携攻撃を図っている。

 シャルルは一歩下がりながら緩く袈裟切りに大剣を振り、走る1匹と跳ぶ一匹を止め、体を捻って跳ぶもう一匹の狼の軌道から外れた。

 一方でクロエは、シャルルに止められなかった狼を射ることで、シャルルが後方から攻撃される危険を消す。


 本当にいいコンビだ。連携が取れている。


 僕はトリガーとトリガーガードの隙間を起点にして、左手の一指し指でクルクルとライフルを縦に回転させる。それから左手を上げると、シャルルに止められ着地したばかりの狼にライフルをブン投げた。

 回転して威力を増した相棒は、落下の衝撃を吸収するのに動けない狼の胴体に直撃し足を止めさせる。


 残った狼をシャルルは細かく、しかし肩と腰の入った縦振りで仕留めた。

 残るは後始末。僕は左手に召喚しなおすとまた同じように相棒を投擲、グラついている最後の狼を完全に行動不能へと追い込むとその首を踏み折った。


「フゥ。シャルル。番をしている間狼の毛皮を剥いでおいてくレ。暇つぶし程度でいいかラ」


「あ、ああ」


「ン?どうしタ?」


 シャルルに声を掛けると何故か動揺していたので問うと、彼女は言いにくそうに口を開いた。

 ただもう辺りも暗く時間も無いので、片手で相棒を撃つ練習をしながらだ。

 12.7mmができたことでカスタムに役割分担のようなものが発生した。遠距離なら12.7、中距離なら5.56といった風に。

 そこで近接攻撃を強化することで、バランスを保ち生存能力を高めようという目的があるのだ。

 冒険者はトガった能力一つよりも弱い能力が沢山あるほうしか生き残りやすいからな。


「いや、なんだ。

 今まで射撃しているところしか見ていなかったものだから、あんな戦いができたのだなと」


「では今まで僕のことを、遠くから攻撃することしか能のない魔道具に頼り切りな男、とでも思っていたト?」


「そんなことはな、ないぞ!」


「そ、そうよ!」


 思っていたんじゃないか。というかクロエ、お前もか。

 僕のハートはナイーブなんだからもっとこうさぁ。


 僕は少しショックを受けつつも、訓練のシメに12.7mmカスタムで一発発砲する。こっそり追加した、ハンドガードに付けるタイプの二脚を使った伏射だ。

 足を付けた時よりも直に衝撃が来るが、流石に数をこなしているので慣れてきた。そのうち20mmを解放してまたメソメソいう日がくるのだろうか。


 例の臭い消し処理を施した手ぬぐいを湿らせると、僕は丹念に露出した上半身を拭く。それから下半身にもある程度は進ませる。

 一人旅だとズボンも脱げて楽でいいんだが、生娘二人の前となるとどうなるか分からんからな。クロエには生で蹴られたし。

 ああ、思い出したら気分が優れなくなってきた。あの事件は僕にとってはご褒美ではなくお仕置きだ。もちろんお仕置きに反応するタチでもない。


 そういうときはさっさと寝るに限る。肌着や上着を着直してから僕は寝袋に潜った。

 クロエもそうしたようで、辺りには静寂が訪れる。

 シャルルが皮を剥いでいる音も聞こえるには聞こえるが、冒険者として鍛えたどこでも寝る技術の前には障害にならなかった。

 明日には町につけそうだ。

これから試験的にライフルマンが用いたカスタムを後書きに書こうと思います。


口径:5.56

銃身:ショート

銃口:サイレンサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減


口径:12.7

銃身:ショート

   二脚

銃口:サイレンサ

銃倉:複列

照準:1.6倍サイト

その他:反動軽減

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