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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ルートビア編
6/33

6th shot

 虫と風、それから風に揺られる草だけがこの場のBGMを奏でていた。

 その音は違和感を生じさせながらも、僕の精神の安定の一助となっている。


 僕はライフルのスコープを覗き込んだ。

 暗視機能を起動しているおかげで見えるには見えるが、それでも視界は良好とはいえない。

 しかし、僕には風景がまるで日中のように感じられた。集中力故か、あるいは他に要因があるのかもしれない。例えば今も感じる左ほおの痛みだとか。


「どうだ?

 問題はないか?」


 無言の僕に焦燥感が煽られたのか、シャルルが尋ねる。

 スコープを覗いている為表情は分からないが、シャルルも中々情けない顔をしているのかもしれない。


「問題らしい問題はないナ。

 それより頼むゾ」


 僕が射撃を行っている間は無防備だ。

 今までなら普通に逃げればそれでよかったが、今の相棒はブルパップ方式である以外の面影を残していない。ので簡単に移動も出来ない。

 その問題を解決する為にシャルルが僕の護衛をしてくれることになった。

 これで安心して弾丸を打ち込めるというものだ。何故かクロエもついてきているが。


 それから数分、僕の集中は未だ途切れず、その意識の一端が不穏な風を掴んだ。


「くル。

 相対距離・・・大体400m」


「え?

 400mってまだ森のな――」


 クロエが言葉を言い切る前に僕はいわゆる"ゾーン"に入った。

 いつものように耳栓を付ける。

 索敵範囲にいる敵性生物――恐らくオーク――は5体。その内3体が列になって連なっている。

 まだ森の中にいるから速度はない。


 僕は一本の木の幹越しに、先頭のオークの首に銃口を向けた。その先には列の二番目のオークの鼻、三番目のオークの眉間がある。

 そして引き金を引こうとして――引けなかった。

 いつも簡単に引いていたトリガー。

 それが今回はとてつもなく、まるで溶接でもされているかに重かった。


 だが、僕はとりあえず、恐がることを辞める。

 頭をまっさらにして、撃つべき対象を視線で射貫き、そして体重を思いっきり相棒の弾倉に押し付けながら、僕は何のためらいもなく引き金を引いた。


 瞬間銃口から一条の光が飛び出し、その進行方向にあったものは軒並み破裂する。


 そしてその代償に銃の反動は僕のゾーンを無理矢理吹き飛ばして僕の意識に直接ダメージを与えてくる。

 けれど、そんなときでも左ほおはやっぱり痛い。

 だから僕は歯を食いしばって目を見開いた。


「まダッ!撃てル!

 ガァァァァァァッッッ!!!!!!!」


 僕はまだぐらつく体を動かし先程オークが一体いたはずの場所に狙いを付けた。

 そしてそのまま引き金を引く。

 思わず口が開いて胃液が飛び出すが気にしてはいられない。

 衝撃に全力で抗い、全身で息をする。

 マズルフラッシュに対抗するように吠えた。


 どうにかこうにかまだ動ける。

 まずはこんなものだろう。


「ゼェッゼェッゼェッゼェッ」


「おい、ライフルマン。大丈夫か?」


「まだいけル。

 それよリ、奴らはこれからどう出るかが問題ダ」


「どうでるか?」


 そう、オークらにとってこの襲撃は恐らくビジネスであり報復なのだ。

 ビジネスの割合が大きければ先程の攻撃を見て撤退するだろう。僕の射撃をみれば襲撃の成功率だってすぐにわかる。だが――――。


「ハァ。奴ら、僕の射撃を見てもまだ戦うつもりカ」


 ――どうやら報復の割合が大きかったようだ。個人的にはこのまま帰って欲しかったが。

 僕は相棒にまたもたれかかると、スコープを覗き込んで戦況を確認する。


「オークは・・・15匹。ばらけてル。相対距離400」


「やれるのか?」


「モチロン。この後シャルル嬢がハグしてくれルって約束してくれたらネ」


「なっなんだそれは!!」


 シャルルの抗議を無視すると、僕は扇状に広がっているオークの一番右端を捉えた。


 正直軽口の一つでも叩いていないと疲れと恐怖でまともに動けなさそうだ。

 自身を叱咤し腰を落とす。


「じゃあクロエ嬢。君ハ?」


「そうね。

 考えてあげてもいいわ」


「おいクロエ!」


 クロエは僕のふざけた言動がやせ我慢の裏返しだと気付いているのかもしれない。

 こちらに寄ると、彼女は僕の肩に手を置いてきた。


「クク、色男はツラいナ」


 一度深呼吸する。

 まだ恐い。だけど、やる。

 もう一度僕はゾーンに入った。


 覚悟を決め、引き金を引く。

 同時に肩からクロエの手の感触がなくなった。衝撃が彼女の手にも伝わったのかもしれない。

 ただ僕には何も感じられなかった。

 あるのは何の根拠もない恐怖心だけだ。


 今度は集中をとぎらせることなく次の射撃へ移行する。

 何度撃とうとも恐いものは恐い。

 幹から二番目のオークへ狙いを付ける時もその思いは消えない。

 震える指で引き金を引き、笑う膝で体を支える。


 右から三番目のオークへ銃口を向ける。

 未だ震える指を気合で握りしめ、弾丸を打ち込む。


 四番目、五番目、六番目。僕は薙ぎ払うように銃撃を放ち、そして展開していた15匹のオーク全てを数瞬のうちに狩った。今度は雄叫びも闘志もなく、ただ冷静に、その実恐怖とのみひたすら戦いながら。


 すると森からまた一体オークが現れた。

 他の固体よりも一回り大きいソイツはなんとなく怒っているようにも見える。

 そしてその後ろにはあの狩り逃したオークが付いていた。だが他に攻撃を仕掛けてくるオークはいない。


 これは憶測だが、一回り大きいは僕が今狩った奴らの責任者なのだろう。

 つまり奴を狩ればこれでしまいだ。

 そう思って照準を付けようとすると、デカいオークが奇怪な行動をとり始めた。

 デカいオークが狩り逃がしたオークの腰を持って、そのままグルグルと振り回し、そして村の方向へ投げた。

 本来なら届くはずはない。ここと向こうは400mほどある。

 だが今の僕には分かった。あの投げられ放物線を描くオークは確実にこちらへ届き、そして最後のあがきと村人を虐殺する。


 故に僕の体は無意識下に、なおかつ効率的に相棒のロングバレルを空へと向ける。

 空中のオークを捕捉する時には、僕に恐怖は無かった。


「精霊とのデート、楽しんでくレ」


 見知った顔の敵にオーク風の手向けを呟くと、僕はためらいなく引き金を引く。


 発射された弾丸が空のオークの腹に直撃し、そして奴は爆ぜた。


 森と村の間の丘にに赤い血と緑の肉と暗い内臓が雨として降る。その中で降るものの一つにあった奴の生首には、苦笑いの表情が浮かんでいた。

 奴も苦労していたのだろうか。

 愚問だな。


 そして乾いた笑いを浮かべるデカいオークの心臓に向かって相棒を撃った。


 ――――ィィィィィィイイイイン。


 そう耳鳴りが鳴ると同時に僕のゾーンも終わりを迎える。

 視界が一瞬黒に染まり、その後白色に包まれてから視界が戻る。この感覚は嫌いじゃないが気持ち悪い。

 それと同時に頭痛がする。今回は長かったから痛みもそれなりに酷い。

 それにたまらず座り込むと腰を下ろしたときの衝撃が頭に伝わって余計にキツい。

 口回りも気付けば体液でべちゃべちゃだ。いつのまにかリコイルで吐いていたんだろうな。

 ただ、衝撃でバカになったのか案外落ち着けている。


「終わったのか・・・?」


 半信半疑のシャルルが問うので答えてやろうとすると、クロエに止められた。


「アナタの肩に置いた手、まだ痺れてるのよ」


「どうした、クロエ」


 クロエの言動に不審がったシャルルが会話に入ってくる。

 彼女はどうやら僕を持ち上げてくれるらしいが、僕に女を心配させる趣味はない。


「・・・お姉ちゃん。

 人の体越しに触れただけで痺れるような衝撃を十数発――」


「そろそろやめにしないカ?

 しんどいしとりあえず寝かせてほしいんダ」


 僕がそう割り込むと一瞬不服そうな顔を見せるも、クロエは大人しく従ってくれる。

 それからシャルルも僕をおぶってくれるのだが、表情が青い気がした。失敗したか。

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