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異世界アサルトライフルマン  作者: 夏松秋蝉
ルートビア編
5/33

5th shot

 クロエが帰ってきてからひと悶着はあったものの――主にシャルルがクロエに説教をしていた――そこからはとんとん拍子に話が進んだ。

 シャルルが村長に子細を離す時にクロエの証言が一役買ったのが要因のようだ。

 通りすがりの冒険者があれこれいうのと村長の娘が直接脅威を見てきたのでは説得力も天と地ほどの差があるしな。

 何故かシャルルが僕を防衛手段として村長に強烈に押したことは印象的だった。だから僕に頼れる要素などないというのに。


 さて、僕は今村の外にいる。目の前には背の低い草に包まれた丘とまばらに生えた木だけが広がり、その光景は僕にこの村が辺境の地であることを思い出させてくれる。

 手元にあるのは金貨十枚に銀貨数十枚。これはシャルルが出したオークの討伐依頼の報酬込みで、さらにこれからの30日の村の滞在及び荒事への協力を確約することによって村長より引き出された金だ。条件的には破格だが、シャルルに勝手に決められた上に半ば強迫的に同意させられたので不満しかない。しかも余ったのは回収されるとけち臭い。

 だがまあ女性の頼みは聞いておくものだと渋々承諾した。決して大剣を目の前で振りかぶられたが為に了承した訳ではない。

 それで現在は昼。晩までにはカスタムした相棒をまともに使えるように訓練しておかねばならないとここに来た次第である。

 ということでまずは深呼吸。はやる気持ちを抑え、精神を安定させていく。


「おい。何をしている?

 訓練じゃないのか」


 その声に振り向くとシャルルが立っていた。

 一応出る時には来るなと言っていたハズなんだが。


「・・・事故が起きた時どうなるか分からんゾ」


「そうなったらお前に賭けた私の責任だ」


 帰れ、といっても彼女は帰らないだろう。

 それなら最大限事故に注意しつつ彼女はいないものだとして扱うことにする。ホントはあんまり見られたくないけど。


 そして精神状態が完璧に近づいた時、僕は左手の甲に触れる。

 すると目の前に水色がかった半透明のウィンドウが出てくる。

 後からシャルルがウィンドウを覗いているものの前世の文字での表記がなされている為彼女も首を傾げている。

 彼女も、というのは僕も記憶が曖昧な為意味の分からない単語があるからだ。

 それから僕は銃身カテゴリから口径変更、12.7mm化を選び、そして金貨を3枚用意した。

 手が震えるのをあえて気付かないふりで無視し、そして僕はウィンドウに表示された硬貨の投入口に金貨を1枚ずつゆっくりと入れていった。


 するといくらかの間をおいてから激しい頭痛が僕を襲う。

 立っていられないほどの激痛によろめき、そして転倒するが、それでも僕はなるべく冷静を保つよう気を付ける。

 シャルルが何かを言っているような気もするが返事をする余裕もない。

 少しして脳内に直接手を入れられているような感覚に陥るものの、これもひたすら無心で待ち続けているとようやく全く前世の記憶が蘇ってくる。

 VRゲーム、列車、戦闘機。そんな単語が次々に脳内に浮かんでは沈んでいく。その中に一際輝くものがあって思わずそれに手を伸ばすと、視界が白に包まれた。




 私は見慣れた灰色の勉強机で課題をやっている。

 いるのは居たくもない寮だ。汚いし壁に穴開いてるしゴキブリとアシダカグモとゲジゲジの温床だし、虫嫌いの私には辛すぎる。

 だが一体なぜ高校二年の年で大学レベルの数学をやらされるのか。

 まあ弾道計算にいるから微分はしっかり勉強するつもりでいるけれども。

 コンビニで買ってきたコーヒー牛乳が唯一の癒しだ。つらい。


 しかしなぁ。置換に部分、無理有理分数全部コミコミの積分を120問ってのは流石にやりすぎだと思うのよね。

 これは徹夜になるのか。嫌だなぁ。

 気分転換にカラマーゾフでも読むとするか。




 また視界が白に染まり、そして気付けば僕は草原に座り込んでいた。

 目線を上げると焦った表情のシャルルが声を荒らげている。


「おい!

 おいっライフルマン!どうした!一体何があった!」


 そういえばカスタムした時前世の記憶が蘇るのは言ってなかったな。

 説明するのも面倒だしとりあえず適当なこと言ってごまかそう。


「いやなニ。相棒はカスタムすると僕に頭痛をよこしてくるのヨ。

 あと何回かするし、いちいちそんなんなってたらもたないゾ?」


「はぁー。それはこちらのセリフだ。

 そういうことは先に言ってくれ。驚くだろうに」


 今回の記憶も中々だった。

 しかし前世の僕、色々と苦労してたんだな。積分が何なのかはわからんが。


 よし。もう一度深呼吸で息を整えて、今度はスコープタブから暗視スコープを選択、金貨を5枚入れる。

 こういうのは勢いだ。しっかりと意識を持たなければ。


 また頭痛と記憶の再生が起こり、そして前世の世界が見えた。




 カスタムを何度か繰り返してからようやく訓練に入る。

 改造の度にトリップするんだからかなり体力を使うがそうも言ってられないのが現状だ。

 ある記憶を除くと大した情報は得られなかったし。

 ただ驚いたのは、ひたすら作業やら課題やらに追われているだけの生活を前世の僕は孤独に送っていたようで、何を頼りに生きていたのか少し気になった。

 前世の僕の死因が自害とかだったらちょっとやだな。


 さて、では念願のフル改造相棒を召喚してみよう。

 そう思い左手をかざしてライフルを呼び出してみると、出てきたのは威圧感の塊だった。

 まず口径が今までの2倍強になったことで不自然な形になっており、しかもロングバレルの改造を施しているので平べったいという印象は消え去った。

 全長はだいたい130cmほどになっている。元の約70cmと比べると大きな変化だが、この伸びは50cmの銃身延長と弾倉拡張によるものだ。

 銃身には申し訳程度の細いハンドガードが被せてある。ハンドガードとはアサルトライフルのグリップを左手で持った場合右手で掴む部分だ。

 さらにマガジンは従来の2倍近い太さになっていて銃床が膨れ上がっていた。これは弾丸が大きくなることによる装填数の低下を避ける為の拡張だが、その仕組みは複々列というもので、一般的なマガジンが弾丸を縦に一列挿入しているのに対してこの弾倉には弾丸が縦四列に並べられている。F2000のマガジンは二列だったがそれでも四列では比較にならないほどゴツさが目立つ。

 勿論今まであったスコープも改造が施されており、倍率が1.6倍、3倍、5倍と変更できるうえに暗視機能付きである。その分元のスコープも肥大化が著しく、調べたところ1時間暗視機能を起動するのに銅貨一枚が必要と戦費も上昇している。

 そして弾丸は知る人ぞ知るマグナムの.50口径機関銃弾。ブローニングと言えば一部の諸兄には受けがいいだろう。

 言ってしまえばこの弾丸は航空機銃に用いられるものなのだ。しかも装甲の厚い爆撃機を落とす為の完全なる火力特化型の弾丸である。

 そして銃身と弾丸、スコープのカスタムによって射程が1000mになった。銃身の強化によって実はまだ射程が2000mまで伸びるのもうれしいところ。

 さらに一本の足も追加した。足は末端で3つに分かれるタイプで、ちゃんと地面に打ち付ける杭もついている。しかも何故かゴムハンマーまである。


 これで合計金貨8枚、銀貨25枚の支出である。


 ではしっかりと足を地面に打ち付けてから試射に入ろう。

 銅貨を6枚――弾薬費もえらいことになった――セットし装填、半ばもたれかかるようにしてライフルを構える。

 ここまでいくともうアンチマテリアルライフルだな。

 手応えから半ば笑みがこぼれつつも標的を見定める。

 ただ、どう頑張っても乾いた笑みしか出なかった。


 ターゲットはあの木にしよう。

 相対距離、遠すぎてよくわからんが多分500m。装填確認。スコープ倍率確認。よし。


「なにか新手のモンスターのようだな。

 それで今から訓練か?」


 今まで黙ってこちらを見ていたシャルルだが、こちらに声を掛けてくるときも表情は一貫して固いままだった。

 彼女もコイツのヤバさをなんとなく感じ取ったのだろうか。


「あア。さて、どうなるか分からんからかなり遠くまで離れてくレ。

 耳も塞いでナ。聴覚がトんでもしらんゾ」


「それはそこまでの代物なのか・・・」


 相棒を恐怖の浮かんだ目で見やると、しかしシャルルは僕の言葉通り大人しく離れて行った。

 僕はそれを確認した後しっかりと耳栓をする。これはしっかり丁寧にしておいた。


 よし。準備は整った。


 さて、落ち着け僕。引き金を引く少し前にタックルするレベルで銃に体重を押し付ける。これさえ守ればとりあえず吹っ飛んで指がちぎれることは無いだろう。

 心臓が早鐘を打つのを必死に抑え、そして胸の内を波一つ立たない水面へと変えるよう努める。


 僕はこのカスタムでいくらかの記憶を蘇らせた。

 そのほとんどは役に立たないものだったが、その一つは非常に参考になるものだった。

 今まで使っていた弾丸のエネルギーは約1800Jであるが、この12.7mmのマグナム弾は20000Jを誇る。

 そして作用反作用という言葉。

 そもそも対物ライフルというのは人間が持っていいものではない。それは特殊に訓練された一部の軍人のみが持つことを許される、航空機や戦車に搭載される兵器なのである。

 それを知識だけの僕に扱える訳がない。

 惜しむらくはその事実がカスタム後に分かったことだ。

 だが弾避けや防具で身を固めた屈強なオークを遠距離から仕留めるにはこの程度の威力は必要不可欠だろう。

 何せ鉄板と木の幹を貫通してその上で致命傷を与えなければならないのだから。



 スコープを覗き込み照準を合わせ、そして息を止める。


 これは訓練なのだから最悪気を失っても問題ない。何度も何度も自分に言い聞かせる。


 そのまま重心を前へ寄せ、震える手で引き金を引いた。



 目の前がマズルフラッシュの炎で染まった。

 リコイルが直接僕の体に叩き込まれた。

 凄まじい衝撃が全身を襲った。

 何が起きたのか分からなかった。

 視界がぼやけてうまく見えない。

 肺が潰れて息が吸えない。

 横隔膜が全く動かない。

 恐い。恐い。恐い。


 目の前の炎が黒色になって、その黒は僕の視界を徐々に侵食していき、そして黒はスクリーンの形をとった。

 スクリーンには僕の冒険者になってからの記憶が続けざまに流れる。

 これは走馬灯か――そう思えた瞬間には僕の意識は殆ど無かった。





「ッゼーッゼーッゼー」



 気が付くと僕は肩で息をしていた。そしてスコープを覗くと、着弾点にすっぽり穴が開き、そしてゆっくりと倒れていく木が見えた。

 その流れを見てシャルルがこちらに駆け寄り何か声を掛けてくる。

 表情が興奮しているからしてこれでいけるとかお前に賭けてよかったとか言っているのだろうが、僕にそんなことにかまける余裕は無い。




「僕が・・・これを・・・撃つの、カ」




 ×××




 クロエに呼び出され、僕は昨日と同じ場所の近くにいる。

 今は夜、昨日の夜襲よりかは幾らか早い時間だ。村の柵の外で持ってきた松明を頼りに、僕は黙々と銃の足を地面に打ち付ける。


「ライフルマン、そのヤバそうなやつ何?」


 近づいてくるクロエには悪いが、僕は返答ができなかった。

 今も手が震えているのだ。

 心構えはしていたつもりだが、あれは本当に死んだかと思った。

 できるなら今からでも逃げてしまいたいくらいだ。


「ライフルマン?

 ちょっと、どうしちゃったのよ!」


 僕の変調に気が付いたのか、クロエが僕の肩を掴んで強引に目を合わせてきた。

 口を開こうとしても口自体が開かない。

 それでも絞り出した声は、かなり震えていた。


「気に、するナ」


「・・・どうかした?

 なにかあったの?」


 クロエは憂いのある表情で僕に問う。

 だが言ったとしても信じてもらえる内容ではないし、よしんばクロエがとんでもないお人よしでも僕自身記憶が断片的過ぎて何も言えないのだ。

 言えるのはただ武器を強化したら思ったより強かったということだけ。しかし言ったところでどうにもならない。

 それに百聞は一見に如かずと言う。発砲しているシーンを見た僕はその恐怖を瞬時に理解してしまったのだ。故に言葉では言い表せないし、それにカスタムをする前に何故分からなかったのかと問われるともうお手上げだ。


「僕に構うナ。

 離してくレ。用事があル。また言わせる気カ?」


 しかし僕の頼みを彼女はまるで聞かない。

 むしろ瞳には強い意志が宿り始めていた。


「私の話を聞いて。

 もしかして不調でオークと戦えそうにないの?」


「うるさイ。

 吐しゃ物を浴びたいのカ」


 僕はたまらずそういうと、彼女の手を振り払った。

 そして闇に紛れると、今日食べたものを全て吐き出す。

 どうせ銃の反動で吐くのだ。それであらば今吐いておいた方がいい。

 それに体を軽くして少しでも集中を高めれば痛覚も少しはマシになる。

 巻きなおした顔面の包帯や湿布も全て取った。

 途端に顔の傷が痛みだすが、むしろ僕にとってそれは喜ばしいことだった。

 あの試射の衝撃はもうある種トラウマになっていて、それを紛らわしてくれるものは何であれ有難かったからだ。



 しばらくするとクロエが近寄ってきて、僕の背中をさすりだした。

 彼女の手つきはまるで割れ物に触れるかに繊細で、思いやりに満ちている。


「落ち着いて、ゆっくり息をして。

 私には言えないことがあったの?」


「・・・」


「そう。

 だったらもう私は言わないから。

 頑張って」


 何故か、クロエは優しかった。

 そういう性分なのだろう。それでも、それはとてもうれしかった。

 村を救うには僕しか頼りがないからだろう。それなのに、僕はとても舞い上がってしまった。


 こんなときになんだが、クロエはかなり可愛い。キレイと可愛いの間のような雰囲気を持ち、小顔で目がクリクリした愛らしい女性だ。


 そんな子に励まされて元気になるだなんて、自分は思ったよりも現金な奴らしい。



 ゆっくりと深呼吸をする。口の中の酷い味も、今なら気付けに丁度いい。

 まあ元気になったという訳でもないが、戦う覚悟だけは少し出来た。


「おーい!ライフルマーン!」


 息を整えていたらシャルルの声が響いてきた。

 もうここまできたらやるしかないだろう。

 自分で防衛を引き受けて、自分で自身の武器を強化して、なのに自分の武器が扱えなくてメソメソして、それで女の子に励まされて少しやる気になる。

 我ながら情けない。でも、やるしかないのだ。


「あア!

 シャルル嬢!

 今そちらに行ク!」


 僕が駆け寄ると彼女は少し焦ったような表情で相棒のそばで立っていた。

 彼女は怪訝そうに僕の顔を見る。


「ライフルマン。何故顔の包帯を取っている。

 湿布まではがして。

 昼から少し様子がおかしかったが何かあったのか?」


「何、ちょっとした個人的な事情サ。

 そんなことより、頼みがあるんダ」


 僕は完璧にとは言えないものの、多少冒険者としての矜持を思い出してきた。

 そういう時にしっかりと思い出す方法も実を言うと前世の記憶から知っていたりもする。


「シャルル嬢。悪いが僕の顔を張ってくレ。

 思いきり頼むゾ。遠慮なんてするナ」


「え?

 いや、別に構わないが、お前顔に傷があるんじゃないの――」


「それと、こんなことを言うのはガラじゃないガ、勇気も込めて貰えると助かル」


「・・・ああ。そういうことか。

 それなら手加減しないぞ」


 最初こそ驚いていたものの、その僕の言葉にシャルルも納得した顔で僕を見つめた。

 ただクロエだけは僕を心配そうに見ている。


 そうしてブチかまされたビンタは生まれてきた中で一番痛かったが、その分目は抜群に覚めた。

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